第7話 「惑星砲、照射!」
降り注ぐ弾丸ガニ。
それらが砂上に落ちて転がってくるのを、HPミリ残しで維持してさばき続ける。
その状態でガドクラブの吸気を皆で待つこと数分、やっと三度目の吸気行動がは十まった。
「せーのっ」
誰かの掛け声で一斉に弾丸ガニにとどめを刺し、一気にすべてを空に投じた。
ガドクラブの身体の中に次々と死骸が収まっていく様子は小気味良い。
遅れて、ガドクラブの内部が大きく弾けた。
爆発が起こるごとに、ガドクラブの輪郭がいびつに膨らんでいく。
そしてついに膨張に耐えかねて、何者の攻撃も寄せ付けなかった分厚い甲殻にひびが入り、割れ目から爆風と黒煙が抜け出していった。
リング内が歓喜にどよめく。
しかしそれだけの爆発があってさえ、吸い込まれたプレイヤーたちが帰還を果たさない。
何か内部に特殊な構造を持っているのか、それとも能動的な行為からPK攻撃判定を得てプレイヤーに対しては無効化されてしまい、リスポーンを狙えないのか。
執拗にプレイヤー同士の敵対行動を禁止していることから、恐らく後者のような気がするが、とりあえずいまだ復帰させるには至らなかった。
「おっしゃ、ここからは一度俺に任せてリング内の奴らは離れとけ。 多分プレイヤー攻撃判定貰って大丈夫だと思うが、気を付けとけよ」
たまごがこれまた偉そうに通信を入れてきた。
「そう言えばアンタ、さっきからどこにいるワケ?」
ウサスケ君がたまごへ疑問をぶつけるが、もっともな話だ。
たまごがどこから俯瞰して命令を出しているのか、知らされていないし、戦っているそぶりもない。
誰もが左右を見合わせて確認するが、この場にたまごの姿は無かった。
「どこってそりゃ、バベルの中だよォ! レックス! バベル砲使うぞッ!」
「いきなり仰らないでくださいよ。 戦艦と連絡を取らないと撃てないんですから」
一瞬、何を言われているか分からなかったが、徐々にこれまでの記憶が思い出される。
つまり……たまごはあれからバベルの指令室内を一歩も出ておらず、一人だけ安全圏からモニター越しに指示していたという事か。
こいつ、どこかで厨だのと中傷を書き込まれていたが、もしかして事実を並べると勝手に誹謗中傷になってしまう類の人間なのではないだろうか。
面倒な奴と知り合いになってしまった。
『一人くらい居残りして、バベル側と話を取り持つ人間が残るのは全然アリだと思うっスけど。 つくづく事前に報連相をしない人っスね』
カミハラでさえそう思っていたか。
向こうでもNPCに無茶振りしているようだし、とんでもないな。
「ちなみに、バベル砲などと言う名称ではないのですが……。 ――承認が下りました。 エネルギー充填、完了。 航空支援の準備ヨシ! いつでもいけますよ」
「おっし、タイミングは
バベルの方を見やる。
バベルの先端が光を持ち始めて、上空ではいつも見えている宇宙戦艦が、やや高度を低くして、備えている砲塔をすべてこちらに向けた。
地上から見える大きさの砲身なのだから、ガドクラブのガトリング砲など目じゃない大きさになる筈である。
そんなものを至近距離に撃たれて、本当にフレンドリーファイアしないよな……?
「
総督レックスの号令で、バベルの先端から上空へ光の筋が真っすぐに伸び、宇宙戦艦の腹面へ吸収されていく。
遅れて、今度は戦艦の砲身の先に光が集まりだす。
地上から受けた光を増幅したビーム照射攻撃が宇宙から、大気圏を突き抜けてガドクラブに向け降り注いだ……?
チュン、と音を立てて、糸のような細さのビームがガドクラブの身体を貫通する。
もっと大規模な攻撃を想像した俺は派手に崩れ落ちた。
「しょっぼ」
ウサスケ君なんて、言ってはならないことを口にする。
「いいえ、それは照準です。 カメラの遮光をお勧めしますよ」
聞いたと同時に極太のビームが天から振り下ろされ、ガドクラブの巨体を押しつぶしていく。
そこで目が眩んで直視できなくなった。
遮光だのの警告はもっと早く言ってくれ。
光が収まって目を開く。
しかし、目の前で何がもたらされたのか、瞬時に全てを把握することは難しかった。
全く目の前が様変わりしてしまったからである。
最初に確認したのは、リング内が深いクレーターになった事。
内側にいたプレイヤーたちが急に足元を掘り崩されたことで、次々に宙から落下しているところを見るに、フレンドリーファイアは無かったらしい。
次に、ガドクラブの甲羅の上部に大きな穴が開いたということだ。
いや、あれだけの攻撃をされてまだ形が残っているという事に、どうなっているんだと言及させていただきたいが。
と、穴から何かが覗いている。
水槽のような構造だ。
その中で、吸い込まれたプレイヤーたちが漬け込まれて意識を失っているのが見える。
あれを叩き割らないと、吸い込み被害者を復帰させられないようだ。
「ねえ……こんな攻撃が出来るなら、なんでもっと早くやらなかったワケ?」
「一発限りだからに決まってるだろ。 再チャージにかなり時間かかるらしくてな。 そう聞かされて、最初からズドンと撃てるかお前?」
「いや、少なくとも俺たちにビーム砲の用意を伝えるべきだろ」
俺も我慢できず、たまごに一言漏らしてしまった。
「期待させておいて効果がなかったらカッコワリいからなー」
それが全ての行動の本音か。
「こちらで出来る支援はこれで全てです。 あとはナインスの皆さまにお任せします。 ――ご武運を!」
口げんかに挟まる形で、レックスの通信が入る。
はて、まだ何か続くような口ぶりだが、身体に大穴の開いたエネミーが死なない筈が……。
恐らく、皆一様に同じ顔をしていたに違いない。
目を見開いて、唖然とする。
ガドクラブはなおも、余力があるようなスムーズさで立ち上がった。
これは武運を願われるわけだ。
だけど、ここまでお膳立てして貰って負けるわけにはいかない。
「俺もこれからそっちに向かうがよ。 そろそろ本命投入だ、お二人さん」
「しょうがないわね、いくわよシャドウ」
「ああ!」
ようやく出番だ。
俺とウサスケ君の二機が抉れたリング内に躍り出る。
いや、……リング内が深く掘れ過ぎていて、落ちたというべきだろうか。
深いすり鉢状の中心でガドクラブと対峙を果たした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます