第8話 「それ、毎回言うワケ?」

「ぐおおおおおォ……嘘だろなんで穴が開いて余計に速くなってるんだ」


 俺は絶叫しながら必死にはさみを避ける。

 それが限界だった。

 頭の穴を二人で叩いて、それでENDだと思ってたのに!


 俺たちと対峙したガドクラブは両手のはさみを同方向へ振り回すと、そのまましだしたのだ。

 ベーゴマの要領で回転しながら移動して、すり鉢状のリングを完璧に使いこなしている。

 もはや俺たちが罠を張るために用意したステージなのか、ガドクラブのために用意させられたステージなのか、分からないぞこれは。


「それはこっちのセリフよ! しかもアタシたち以外、みんな擦りゴマみたいに死んでばっかじゃない! つっかえな!」


 トルーパーの飛行ユニットを使って三次元的な回避をとれないプレイヤーたちは右往左往しながら引き潰されては復活を繰り返して何も出来ないでいる。


『あ……あんまり高度上げるとまた来るっスよ!』


 カミハラの警告はガドクラブからの攻撃の予告になった。

 まんまとリング中央の上空まで追い込まれた俺とウサスケ君にガドクラブは回転しながら頭を上げ、ガトリング砲を撃ちまくる。

 しかし、そのガトリングは今までと少し意味合いが違う。


 発射された弾丸ガニは避けても射線上、俺たちの横を通過するタイミングで自爆するのだ。

 つまりガトリングは爆発属性が付与された弾丸を無尽蔵に吐き続ける。

 単発式の銃ならまだしも、ガトリングでそれをやられるから、俺たちの逃げた後から連発式の打ち上げ花火みたいに景気よく爆発が連続する。


 きついし、避ければ避けるほどどんどん逃げ場がなくなり、しかも黒煙で視界まで悪くなっていく。


「やっぱ、降りるしかないのか」


 インファイトな攻撃距離に近づくとガドクラブは射撃をやめる。

 恐らく、装甲に穴が開いたことでこいつは自分の起こす爆発に自分で耐えられないのだ。

 と、いつまでも分析に時間を費やすような時間は貰えない。

 俺たち二人、そのなかで明らかに動きの劣る俺に射撃が集中しだした。


「狙われてるわよアンタ!」


 そんなの分かってるが……助けてウサエモン!

 俺一人にがっつり照準を合わされては、避けきれるものではない。

 丁度至近距離を弾が通過した!

 せめて肩のコスミックパニッシャーだけは守ろうと、トルーパーの下半身と背で肩をかばう。

 弾が白く光るのが見て取れる。

 両足と飛行ユニットが爆発に巻き込まれ、俺はあえなく墜落した。


「ごめんウサスケ君、やられたー」


 リング上に機体が落下すると、そこへ目掛けてガドクラブが回転突撃してくる。

 まるで最初から分かっていたようにコンボ決めてくるな!

 心の中で苦言を申し入れるが、これは本当にどうしようもないぞ……。


「はぁ? ちょっと、何やってんのよ! 仕方ないわね……」


 目前へ迫るガドクラブの巨大。

 接触する!

 俺は肩をすくめて衝撃に備えるが、予期したそれは来なかった。


 終わった――?


 俺は後ろから両脇を抱える形で腕を回されて、ウサスケ君に助けられていた。


「攻撃力だけはアンタの方がある筈でしょ。 うちが代わりに飛んであげるから、トカゲの時みたいに一撃で決めなさいよね」


 ウサスケ機は背中から光の翼を展開した。


 超高機動型ユニット。

 正式名称は長かったから忘れたけど、両肩口から生えたスラスターから噴射されたビームのような推進剤があたかも翼のように見える。

 それはウサスケ君が百人斬りの証で交換したとっておきだ。


 背中から抱かれて二機が一体になった俺たちは、ガドクラブの周りを縦横無尽に飛ぶ。

 ガトリングもはさみの回転も面白いように避けるのは、全く俺の手柄じゃないのだが、面白くなってくる。


「見えたわよっ、シャドウ」


「おうっ」


 ガドクラブの背中の大穴へ向けて二人で急接近した。


 俺は腕を稼働させる。

 まるで脈打つように震える腕を自前のスラスターを噴かせてウサスケ君の操作に被せる形で制御。

 発射待機するコスミックパニッシャーの鉄杭が解き放されるのを今か今かと、火花を散らして回転しだした。


「いくぞ! コスミック! パニッシャアアアアアアァァァァッ」


「それ、毎回言うワケ?」


 衝撃に縦揺れしながら、ニードルが発射される。

 先端がカニの上面の甲殻を撫でて火を噴きながら、ジグザグに跡を残していく。


「ぐお、外れたぁッ」


「下手糞ッ」


『いや、ここは当てる所じゃないっスか、おニーサン……』


 先端がガドクラブの上部をすっぽ抜け、ガドクラブの片腕の肩、そのひび割れた関節へと奇跡的に入り込んだ。

 ボキッ、とかゴキッとかいう表現で良いだろうか。

 太い音がして、ガドクラブの腕がはさみごと宙へ舞った。


「はさみ飛ばしたからミスはノーカンで……」


「んなわけないでしょっ! んもー、当ててたら絶対勝てたじゃないこれ。 っていうか反動強すぎ。 こんなクソ武器よく使ってられるわねアンタ」


 ガドクラブの回転運動の余力ではさみはフリスビーみたいになって場外へ飛んで行った――。

 リング外輪で大爆発が起こる。


「おわわあああ」


 全く予想していなかったらしい網でリングを作っていたトルーパー数機が、跳んで行ったはさみに巻き込まれたようで、断末魔を上げた。


『ノーカンどころじゃないっスね。 被害甚大っスよ』


「こいつ自身も全身爆弾かよ」


「でも、これって脚のどれでも破壊すれば、その爆発でアイツもダメージ食らうってことじゃない?」


 ウサスケ君の声は笑っていた。

 確かに、大穴ばかりねらっていたが、そういう考え方も出来るか。

 言いながら再び俺たちは急接近する。

 しかし、俺が腕を構えた瞬間、ガドクラブは視界の中央から逸れてしまった。


「しかし、これ。 回転を止めないとやっぱり狙ったところに当てるのは厳しいかな」


「構えてから撃つまで長すぎなのよ」


 ガドクラブは準備が整う前待ってくれるような生易しいルーチンをしていない。

 さてどうするかと悩んだところで、声がかかった。


「諦めるなっ」


 そこにヒロイックな一声が入る。

 度重なるリスポーンでついに全裸になったイトメが、回転するガドクラブの側面へ張り付いていた。


「僕たちが……こいつを止める!」


 なす術なくやられていると思っていた場内プレイヤーたちが、続々と回転するガドクラブに取りついていくではないか。

 中には当然弾かれて消えてリスポーンする人も多いが、めげずに飛び掛かっていく。

 だんだんとガドクラブは肌色に覆われて、その回転は鈍くなっていった。


「「「今だ二人とも」」」


 会場の空気が一体になった瞬間だった。


「「応」」


 こうなれば穴の中央だって狙える!


「コスミック!」


 俺が叫ぶ。


「パニッシャー!」


 空気に乗せられたウサスケ君も続けて絶叫した。

 大穴の暗がりへ、鉄杭の鉄槌が落とされる。

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