冒険者ですが日帰りではっちゃけます

第126話 ティラ〈捜索〉

やれやれ、すっかり遅くなっちゃったな。

空間移動した場所へと戻ってきたティラは、仲間の姿を探して辺りを見回す。

「あれっ？」

ソーンはこの村の中にいるのはわかるが、キルナとゴーラドの気がまったく感じられない。

どういうこと？

明らかに異常事態だ。この世界に二人が存在していないことになる。

ティラは恐怖から身を震わせた。だが、動転している場合ではない。ソーンと合流しようかと思ったが、彼に意味もない心配させてしまうだけだと思いなおす。

ソーンは何も知らない。そうでなければ、こんなに彼の気が落ち着いているはずがない。

ティラは動転した気を必死に宥める。

大きく息を吐き出したティラは精神をマックスまで集中させた。すると、森の方に微かな気を感じられた。

あっちの森？

けれど、あまりに気配が薄すぎる。残り香的なものしか感じない。

冷静に答えを出せば……やはり、ふたりはもう……

想像したくない現実があまりに濃厚で、ティラは首を激しく振ってそれを振り払い、全速力で走り出した。

少なくともあのキルナさんがそうやすやすと殺されるはずがない。異次元空間に閉じ込められたとかならばさすがのティラも気配を捕らえられなくなる。

そうだ、きっとそれだ！

たぶんあの三人の妖魔の仲間だ。そいつらにふたりは捕まってしまったと考えるのが妥当だろう。あのふたりがみすみす捕らえられたと考えられないが、妖魔が魔道具を使ったとすれば……あり得るな。

ふたりが無事である可能性が出てきて少し元気を取り戻したティラは森に入り、気配を頼りに進んでいった。が、ある地点から気配が続いていない。

しかし、その場所で最悪の事態……二人の亡骸を確認しなかったことに、ティラはほっと胸を撫で下ろした。それまでの緊張の度合いが半端なく、地面にへたり込んでしまったほどだ。

大きく息を吐き出したティラは、立ち上がり、もう一度周りを見回した。

ここでふたりは消えたのだ。

ふたりの気配を感じられないのは……やはり異空間に閉じ込められているだろう。

そして、そんなことをするのは妖魔くらい。

捕獲した三人だけでなく、やはりまだ残党が残っていたんだ。

ティラは歯がゆさに、地団太を踏んだ。

その可能性はあったのに、なんで思いつかなかったんだろう？

これはわたしの落ち度だ。妖魔を捕らえた時、他に仲間はいないか吐かせるべきだった。

それか村を離れる前に、妖魔の残党が辺りにいる可能性をふたりに伝えておくべきだったのだ。

苛立ちが胸に膨れ上がってくるのを、ティラは抑え込んだ。

いや、いまはそんな場合じゃないぞ、冷静になれ、わたし！

頬をパチンと叩く。

自分をしゃっきりさせ、ティラはトッピを網から出した。

「トッピ、闇竜の魔核石を見つけた場所を教えてちょうだい」

「ぷっぴぃー」

了解と言うようにトッピは鳴き、木々の隙間をぴゅーんと飛んでいく。

トッピを見失わないように、ティラは意識を集中させてついて行く。

しばらくすると前方にみすぼらしい小屋が見えてきた。トッピは迷うことなくその中に消えた。

ティラは慌てて速度を緩めた。

まずかったかも。と顔をしかめる。

あの中にまだ妖魔がいるとすれば、不用意に近づくわけにはいかないのに。間違いなくあの小屋にキルナ達が捕らえられているのだ。妖魔を刺激してはまずい。

見た目はみすぼらしいけれど、あれは目くらましだろう。

あー、もおっ。トッピを先に行かせてしまったのは失敗だった。

後悔しつつ、気配を消して近づいていったティラは、地面に転がっているものが目に入り、眉を寄せた。

これ、なんだろう？

車輪のついた箱だ。箱の真ん中に大きな穴が開いている。

穴の中を覗き込んでみたら、金属の装置が詰め込まれていた。真ん中だけへしゃげて空間ができている。

何者かに襲われて破壊されたか……これって、トッピじゃないの？

この装置の動力に魔核石が使われていて、それをトッピが狙ったとすれば……

それにしても、これはいったいなんなのかな？

一番あり得るのは、侵入者を攻撃するための魔道具だけど。

じょうごみたいな器具から、攻撃魔法を放つとか？

それ以上考えても答えは出せないので、ティラは小屋に気配を消して近づいていった。

小屋の壁伝いに移動していたら、壁に空いた穴からトッピが飛び出てきた。

「ぷっぴぃーっ」

あわわわ！　

ティラは大慌てで唇に指を当て、黙れと指示するが、トッピには通じない。

だが、さんざん騒がしくしているのに妖魔が出てくる気配はなかった。

あれっ？　どういうこと？

「トッピ、この中に誰かいなかった？」

トッピはくるりと一回転し、首を傾げる。

いないってこと？

ティラは窓に近づき、そっと中を窺ってみた。雑然とした部屋には、よくわからない装置がたくさん並んでいる。

あっ、床に妖魔が転がってる。

ピクリとも動かないけど、もう死んでるのか？

ティラは窓を破り、中に入ってみた。

やはり死んでいる。顎がひどく砕けてるけど……

壁の穴に、砕けた顎……

うん、トッピだな。納得し、また部屋を見回す。

ここに闇竜の魔核石があったんだろうな。トッピはそれにつられて小屋の壁を破壊して侵入、その勢いでこの妖魔の顎にヒットした。倒れた妖魔は頭を打って死亡。

そんなところのようだ。

ティラは網にトッピを戻し、壁や天井、そして床まで慎重に捜索してみたが、それらしきものはななく、キルナ達を見つけることはできなかった。

この小屋の中に異空間的な部屋があり、そこに捉えられているんじゃないかと思ったのに……

そのような部屋はないようだ。

ティラは痛いほど唇を噛みしめた。

なら、キルナさんたちはいったいどこに？

とにかく遺体がないのだ。ふたりは絶対どこかにいる。

その時、キリキリキリという妙な音が聞こえるのに気づいた。

なんの音だろう？

すると腰に下げているトッピが急に興奮しはじめた。

魔核石を感知したようだ。

「トッピ静かに！」

いつもとは段違いの鋭い指示に、トッピがきゅっと身を縮め、おとなしくなった。トッピの身体は青みを帯び、石のように固まっている。

そんなトッピに気づく余裕などなく、ティラは急いで外に出た。音のする方に行ってみると、先ほど見つけたのと同じものがこちらに向かってくる。

こちらから攻撃して破壊する前に、この装置がどんな攻撃をしかけてくるのか確かめておきたい。

ティラは、装置の前に躍り出た。