第27話 ゴーラド 〈俄然元気〉



「くっそぉー、頭いてぇ!!!」


調子に乗って夜通し酒を飲んでしまったせいで、頭が割れるように痛み、どうにも起き上がれない。


あー、キルナさんとティラちゃん、もう依頼を受けて出発したんじゃないだろうか?

気が揉めてならないってえのに、起き上がれないとは、俺ときたら情けねぇ。


額に腕を当てて目を瞑り、いまとなれば楽しかったと言える昨日の冒険を思い返す。


まさか、あの巨鳥のトードルを手懐づけていたとは……

ティラの姿に恐れを見せていたのは確かだもんなぁ。いまもって信じられないが……


あの山道を駆け上がる速度も普通じゃなかったからなぁ。まあ、SSランクのキルナさんが常人レベルではないのは当然と思うが……

俺の見間違いでなければ、キルナさんはまだ息を切らせていた気がする。


やっぱしティラちゃんは、魔道具の靴かなんかを履いてたんだろうなぁ。

全身魔道具装備って、やっぱ普通じゃねぇぞ。


どうにも笑いが込み上げてきた。

だが笑うと頭の痛みが増す。


「いでででで……く、くっそぉ」


少し涙目になりながら、顔を歪める。


あの町娘風の服装も、実は普通じゃないのかもなぁ。剣で切り付けても切れないとか……


そんなことを考え、さすがにそれはないなと、吹き出しそうになりながら却下する。


けど、持ってるアイテムも普通じゃないからな。あの回復薬ときたら、飲んだ途端に全身が熱くなったと思ったら、次の瞬間には疲れが吹っ飛んだ。


そしてそのあとは、あのふたりに楽々ついていけたのだ。依頼を達成してギルドに戻ってきたときにも、疲れはまったく残っていなかった。


それもこれも回復薬のおかげ……


そこでハタと気づく。


そ、そうだ。あれを飲んだら、この強烈な二日酔い、治まるんじゃないのか?

いや、絶対治るぞ!


この苦しみから逃れる手段を思いつき、それを気力になんとか身体を起こす。


鞄を手に取り、その中に入れているかわいらしいポーチを取り出す。そして中から小瓶を掴み取る。


「あー、これで解放されるぞ!」


蓋を取り、一気に飲もうとして動きを止める。


ああ、そうだった。ティラちゃん、ちょっとでいいって言ってたな。

全部飲んでしまってはもったいない。よし、ちょびっとだけな。


ほんの少し飲み込んだら、昨日と同じに一瞬全身が沸騰し、すぐに収まった。そして先ほどまで頑として取りついていた頭痛はきれいさっぱり消えてくれた。


な、治った! マジか! やっぱすげえぞこの薬!


俄然元気になったゴーラドは、さっそく部屋から出ようとして動きを止めた。


そうだ。もう荷物をこの部屋に置いていかなくていいんじゃないのか?


ゴーラドは部屋に置いている私物を、ひとつふたつとまんまるなポーチに入れていった。


かなりの容量があるらしいが、どのあたりで限界になるのかと様子を窺いつつ放り込んでいたら、結局全部入ってしまった。なのに、まだまだ余裕がありそうだ。


すっげぇぞ。これひとつあれば、宿を拠点にしなくてもよくなるんだな。


いちいち宿を取る手間はあるが、依頼が数日にわたる場合、宿に荷物を置きっぱなしにすると、戻らなくても宿代は払わないとならないのだ。


これからは、これのおかげでかなり節約できそうだ。節約できれば、そのぶんたくさん手渡してやれる。


ゴーラドは早くに両親を亡くし、兄と二人きりで暮らしてきた。年の離れた兄のおかげで、ゴーラドは大きくなれたのだ。


兄は幼馴染と結婚し、子どもも二人もうけた。幸せな家庭を築いていたのに、数か月前、兄が原因不明の難病にかかってしまったのだ。

徐々に具合は悪くなり、今に至っては床に臥せったままの状態。もちろん大黒柱を失っては暮らしがたたない。なのでゴーラドが生活の面倒を見ている。


兄嫁のニーナは気にするが、大事な肉親の兄の代わりとなるのは当然のことだ。


ゴーラドは自分の防具に目をやり、その傷み具合に顔を曇らせた。

こいつも、すっかりボロボロになっちまったなぁ。


この最近、ソロで報酬のいい依頼ばかりを選んでいたせいで、危ういことも多々あった。防具は痛み、槍も刃こぼれしちまって……武器は修理に出したが、防具までは金が回らなかった。


節約してもっと金に余裕が出来たら、この防具も買い替えられるかもしれないよな。


それなりに防御力のある装備一式というのは、かなり高価なのだ。それに、防具より武器に金がかかってしまう。

槍が刃こぼれすれば、鍛冶屋で修理してもらわないとならないし、耐久年数を超えてしまったら、どんなに無理をしてでも新品に買い替えなければならなくなる。


まあ、ソロで依頼を受けていたおかげで、先々週ランクがBからAに上がった。

実は、ソロの依頼で大きな成果をいくつも上げると、ランクは上がりやすいのだ。


せっかくAランクになったのだから、もっと報酬のいい依頼を受けたいが、ソロでは限界がある。けど、腕の立つ冒険者はこの辺りにはいない。ランクの低い奴と組んでいたんでは、高額な報酬を得られるような依頼は受けられない。


だが、いまはキルナさんがいる。

こんな風に頼りにしてしまうのは、キルナさんにとっては迷惑なのかもしれないが、もしキルナさんがパーティーを組むなら、ここでは俺より適任な者はいないはずだ。


ティラちゃんの力量はまだ図り切れていないが……


まあ、あの常人ではない能力は、全て魔道具のおかげだろうからな。

彼女自体は、普通のか弱い女の子だ。


うん、ティラちゃんのことは、俺とキルナさんで守ってやらないとな。

爽快になった頭で大きく頷くゴーラドだった。






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