第21話 ティラ 〈慌ててしまってやっちゃいました〉
依頼を達成し、三人は無事ギルドに戻ってきた。
チームリーダーのゴーラドがギルドの受付に報告しに行き、卵と引き換えに報酬を受け取ってきた。
そして、差し出したティラの手のひらの上に、輝く金貨を一枚載せてくれる。
「うわーっ、キラキラですね」
魔鼠二百匹と、銀貨が五枚。さらには金貨一枚も稼いでしまった。まだ初日なのに、上出来だ。
「これもゴーラドさんが誘ってくださったおかげです。ありがとうございました」
深々と頭を下げて感謝を伝える。
「お礼を言われると、困るんだが」
その言葉に、ティラは戸惑って首を傾げた。
「困る?」
「回復薬もらっちまったし、トードルの卵を手に入れたのはあんただし、おまけに魔道具の入れ物までもらったわけだしなぁ。キルナさんが言ったように、この報酬は、全部あんたがもらってもいいくらいなんだぞ。ほんとにいいのか?」
ゴーラドさんが言うように、ここに戻ってくるまでに、キルナさんがそう言ってくれたんだよね。けど、トードルがティラの知るトードルだったのは偶然だし、あの場所を知っていたのはゴーラドなのだ。ティラのおかげばかりではない。
回復薬のことも気にすることないし、ポーチももう使っていないのをあげただけ。
なのに、キルナさんは、お借りした大銀貨十枚も返さなくていいというんだよね。ほんとにいいのかな?
「それじゃ、これから依頼達成の祝いをしないか?」
「祝いですか?」
すっごい楽しそうだけど……
残念ながらもう戻らなければならない。
「ごめんなさい。わたしもお祝いしたいんですけど……日が暮れるまでに家に帰らないとならないので」
「家に帰る?」
「なんで?」
キルナとゴーラドはそろって眉をひそめる。
その反応、めっちゃ恥ずかしいなぁ。
けど、帰らないわけにはいかないのだ。
「両親との約束で、日が暮れるまでに帰りつけなかったら、冒険者を続けられなくなるんです」
「はあ?」
「なんだそりゃ?」
ふたりの反応に、ティラはズーンと落ち込む。
呆れられちゃったみたいだ。
やっぱり、弁当持ちで家から通いの冒険者なんて変……だよね。
だが、約束を守れなかったら、冒険者をやめなければならなくなる。それは嫌だ。
「そういうことなので、これで失礼します」
かなり落ち込みつつ、ふたりに頭を下げたティラだが、急いで言葉を付け加える。
「あ、あの、明日も来ますので、できればまたよろしくお願いします」
もう一度ぺこりと頭を下げ、ティラはその場を去った。
あの感じだと、ふたりとも、もう一緒に冒険してくれないかもなぁ。
しゅんとしつつギルドの外に出ると、もうかなり日が傾いていた。日が落ちるまであまり時間がないようだ。
まずいっ! まだ余裕があると思ってたのに!
これはもう走っていたのでは間に合わないぞ。
町中を疾走し、門から出たティラは、街道沿いのまばらな木々の間に駆け込むと、周りを気にすることもせず、ポーンと地を蹴り、空へと躍り出たのだった。
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