第20話 ゴーラド 〈魔道具入手〉
さて、トードルの卵が三個手に入ったのは、最高の結果なのだが……
「すまない。失敗した」
ゴーラドは、頭をかきながらティラとキルナに頭を下げた。
「失敗とは、どういうことだ?」
キルナが眉を寄せて尋ねてくる。
「魔道具の袋を申請し忘れたんだ。手に抱えて帰ることになる」
トードルの卵は想像していたよりでかかった。荷物袋には収まらないし、かといってこのまま抱えたのでは表面がつるつるしているから、取り落としてしまいそうだ。割れてしまっては報酬をもらえなくなる。
「ゴーラドさんは、魔道具の袋は持っていないんですか?」
「ティラちゃん、この俺があんな馬鹿高いもの、持ってると思うか?」
「なら、わたしのポーチに預かってもいいですけど……あ、そうだ! お古でよければあげますよ」
「お古があるのか?」
物凄い勢いで、キルナが前に出てきた。
ゴーラドは危うく地面に転がるところだった。
「お、おい、キルナさん?」
「私にもくれ」
「いいですけど……ゴーラドさんは?」
ティラがゴーラドに問うように聞くと、キルナは「お古はひとつじゃないのか?」と聞き返す。
「はい。いくつかあります。愛着があったので、捨てるのもなと思って、置いといたんです」
「捨てる? 魔道具を捨てるなんてありえないぞ」
「でも、一つあれば十分ですよ」
「なら、私が大事に使ってやるとしよう」
キルナは横柄に言って手を出す。もらう者の態度ではないと思うが……
いや、そんなことではなく……
「魔道具をもらえるのか?」
魔道具はどんなものであれ、とんでもなく高価なのに……
ティラはポーチの中に手を差し込み、ひょいと何かを取り出した。
「はい、これですけど」
ティラから受け取ったものをキルナはまじまじと見る。
真っ赤なポーチには、水玉模様のでっかいりぼんがくっついている。
「さすが、お前のお古だな」
感慨深げに口にしたキルナは、それでも嬉しそうにしている。だが、キルナにはあまりに不似合いだ。
まさか、それを本気で腰に下げるつもりか?
黒装備の女冒険者の威厳が大幅に損なわれると思うのだが……
「ゴーラドさんはいらないんですか?」
「いや……俺は……」
魔道具は欲しいが……さすがにそんな可愛いデザインではな。
「ティラ、これはどれくらい物が入るんだ?」
ポーチに腕を突っ込み、キルナが聞く。
「そうですねぇ。それはちょっと容量が小さいので」
「この卵なら、何個くらい入る?」
「それですか……うーん、はっきりとはわかんないですね。けど、大型魔獣五十体は余裕で入ると思いますよ」
は? ティラちゃん、いまなんてった? 大型魔獣五十体だ?
「ほお。予想をはるかにぶっとんだな。つまり、これがあれば、いちいち申請してギルドから借りる必要はなくなるわけだ」
「小分け袋もいくつかあげますよ。まとめて取り出しやすいですから」
ティラはさらに巾着型の袋を数枚キルナに手渡す。容量は格段に小さいものの、これも魔道具だ。
「五十体入るってのか? そのちっこいやつに、本当にか?」
ゴーラドは黙っていられず、ふたりの間に割って入った。
「なんだ、やっぱりお前も欲しいのか? だが、ティラのお古だ。たぶん他のもこんなだぞ」
キルナは真っ赤なりぼんのついたポーチを、意地悪そうに見せる。
そうかもしれないが……大型魔獣が五十体も入れられる魔道具……便利すぎる。
「もらえるのであれば、俺も欲しい」
そうは言ったが、ティラがポーチに手を入れるのを見て、ごくりと唾を飲み込んでしまう。
いったいどんなポーチが……
ティラが取り出したのは、まんまるで黄色く、緑のヘタのような飾りがついたものだった。
「ずいぶんと可愛いデザインじゃないか、ゴーラド良かったな」
そのからかいに、どんな反応をすればいいのかわからない。
「それと、ゴーラドさんにも小分けの袋、はい」
まんまるポーチと小分け袋を数枚受け取ってしまった。
「それじゃ、卵は三つともゴーラドに預けよう。リーダーだからな」
「了解です。それじゃ、ゴーラドさんお願いします」
ふたりの卵も預かり、まとめて小分けの巾着に入れ、まんまるなポーチに入れた。
手にぶら下げ、なんとも言えない気分になる。
「さあ、ゴーラド、さっさとポーチを腰に下げろ。町に戻るとしよう」
キルナが急かしてくる。
マジでこいつを、腰に下げなきゃならないのか?
渋々言われた通りにしようとしてハタと気づく。ゴーラドの腰にはすでに貴重品を入れたバッグが下がっているのだ。
「これに入れればいいんじゃないか?」
「なんだ気づいたのか、つまらないな」
ゴーラドはむっとしてキルナを睨んだ。
「そのバッグの中身も、ポーチに入れてしまうといいですよ。荷が軽くなります」
いささか意地悪なところのあるキルナと違い、ティラはどこまでも親切だ。
ありがたくティラの助言通りにする。
そこでキルナを見ると、真っ赤なポーチを腰に下げてはいなかった。しっかり自分のバッグにしまい込んだらしい。まったく、キルナさんは……
苦笑してしまう。
それにしても、こんなに魔道具を持っているとは……
ティラは、まったく不思議な娘だ。
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