第19話 ゴーラド 〈結論に達す〉
三人はトードルの巣に近づいて行った。
ゴーラドは、巨鳥に気づかれないように身を隠しつつ近づくつもりだったのに、キルナはお構いなしで歩いていく。
もし巨鳥が気づいて襲ってきたら、迎撃するつもりなのだろう。
やれやれ。
キルナはパーティーを組んだ経験があまりないのかもしれない。自分の意見を曲げて他者に従うとか、苦手な性分なのだろう。
もうこうなったら、なるようになれだ。
キルナさんはずいぶんと自信があるようだし、襲われたら彼女に任せるとしよう。
そして彼らは巣の真上へとやってきた。
トードルが飛んでいたなら、あっさり見つかってしまっただろうが、いまは巣で羽を休めている。かなりの時間そうしているところをみると、卵がある可能性は高い。
依頼達成の可能性が上がり、俄然やる気がみなぎる。
巣の中に卵があるか、そっと窺ってみようと足音を立てないように崖っぷちに近づいていこうとしたら、なんとティラがさっさと追い抜いていった。
そして崖の先端までいき、片足を後ろへと上げて前屈みというとんでもなく危険な姿勢で下を覗き込んだ。
もちろんゴーラドは真っ青になった。
「お、おいティラちゃん、落ちるぞっ!」
ゴーラドが叫んだ途端、ひゅうっと風を切る音がした。
し、しまった! 叫んじまって、トードルに気づかれたっ!
その時にはもう、トードルは彼らの目の前にいた。羽ばきで強烈な風が発生し、身体がよろめく。
だが、なんとしてもティラを助けなければ!
駆け出そうとしたら、「あっれれーっ?」というティラの素っ頓狂な声がした。
「なーんだ、あなただったの。ひっさしぶりぃ」
なんとティラは、威嚇してくるトードルに親しげに話し掛けている。見ればキルナも困惑させられているようだ。
やっぱりおかしいぞ、この娘っ子。
混乱していたら、キルナが、「おいゴーラド、見ろ」と言ってくる。
「え?」
なにやらトードルの様子がおかしい。空中で固まっているかのようだ。
「こんなところで会うなんて、奇遇ねぇ。ねぇ、元気だったあ?」
ティラが手を上げて挨拶したら、ぎょぎょぎょぎょぎょっとばかりに、羽を大きく広げたトードルは後ろへと下がる。
「まさか、怯えてるのか?」
「そのようだな」
キルナがあっさり肯定する。
ありえねー、ありえねえって。
なんで、あの見たところ普通の嬢ちゃんに、巨鳥が怯えるんだ?
鎧もつけてなければ、武器も持ってないってのに……
「ねぇ、いま卵あるの? いくつかもらえないかな。全部よこせなんてひどいことは言わないから」
いや、卵をよこせという時点で、トードルにとっては十分ひどいことなのだが……
するとトードルがすっと崖下へと下がった。そして次に姿を見せた時、なんと卵を三個口ばしに咥えていた。
「わあっ、ありがとう」
トードルが涙目な気がするのは、気のせいか?
なぜか同情したくなった。
「もらえましたよ。しかも三つです」
卵を受け取ったティラは巨鳥に背を向け、喜び勇んでこちらに駆けてくる。
「ティラちゃん、背後に気をつけろ、襲われるぞ!」
「大丈夫ですよ。この子はしっかり手なづけてありますから」
手なづけてあるだぁ? いったいいつ、手なづけたってんだ?
そしてティラの言葉通り、隙をついて襲ってくることもなく、トードルは自分の巣に静かに戻っていった。
「きゅーーーぅ」というトードル特有の鳴き声は、恐れを込めて震えているように聞こえてならなかった。
「ティラちゃん、いまのはいったいどういうことなんだ?」
困惑して尋ねたら、ティラはあっけらかんと説明を始める。
「ですから、手なづけたんです。だいぶん前ですけど、あの子の親がわたしの家の近くに巣を作ってて、生まれたばかりの時、わたしに襲い掛かってきたんで、ちょっと反省してもらったんです」
「……反省?」
どんなことをして反省させたのか知りたい。いや、やっぱり、物凄く知りたくないような……
やはりこの子は普通じゃない。という結論に、いまさらゴーラドは達したのだった。
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