第4話

「…どうしたの、これ」

小夜はわかりやすく動揺した。

瑠璃子るりこも…、来ているのは分かっていたけど、何かあったの?」

るりちゃんが「やっぱり」と呟いて肩をすくめる。

「小夜くん、今日は何の日か知っていますか?」

小夜は「えぇ…?」と首を捻り、ふと思い出したかのように言った。

「…あぁ、そっか。…僕の誕生日」

「正解」

「小夜のためにね、るりちゃんとパーティーの準備したんだよ!」

小夜は虚をつかれたように目を少し開いた。そして、力が抜けるかのように顔を綻ばせた。

「ありがとう」

「お礼を言うのは早いわよ。私が料理苦手なこと、小夜くんは知ってるでしょ?」

「うぅ…。まさか今日が命日になるとは…」

「失礼ね。恋人を怒らせてしまった貴方には、これから料理の手伝いをしていただきます」

二人の会話に思わず笑ってしまう。

るりちゃんといるときの小夜は、わたしといるときとは違っていておもしろい。小夜はいつもは無愛想に見えるのに、るりちゃんといるときはそんなふうに見えない。この前そう言ったら、るりちゃんには「愛の力ね」と、小夜には「僕はいつも表情豊かじゃないか」と返された。

それから三人でご飯を作った。

わたしは、かぼちゃとさつまいもを茹でたやつを潰して、くるみやローストピーナッツと混ぜる、おいしいやつを作った。

二人はわたしが作ったそれを、おいしいと言ってぺろりとたいらげた。

その他にも、テーブルの上にはローストビーフや、キリのクリームチーズとオリーブを乗せたビスケットや、ライス(今日のご飯はご飯ではなく、ライスと呼ぶのだとるりちゃんが言っていた)がいっぱいに並べられている。

その後はろうそくをつけたケーキが顔を出し(なぜかわたしがろうそくの火を吹き消した)小夜とるりちゃんは、だらだらちびちびとお酒を飲み出した。

「夏帆ちゃん、明日は学校行くの?」

「うーん。どうかなぁ。でも行くかも」

「そっかぁ。じゃあもう寝たほうがいいんじゃない?」

時計はもう十時になっていた。

わたしは小学三年生。良い子はもう寝る時間だ。

「うん。そうだね。わたしはもう寝ようかな」

「じゃあ、一緒に部屋まで行こうか」

わたしと小夜は寝る前にいつも少しだけお話をする。

今日あった良いこととか、嫌なこととか、明日の授業とか、欲しい服とか。

そのわたしの話を、小夜はいつもうんうん言いながら聞いてくれる。

「おやすみ、夏帆。いい夢見てね」

「うん。おやすみなさい。小夜もお酒飲みすぎたらだめだよ。お誕生日おめでとう」

「ありがとう。でも、お酒の心配は、どちらかと言うと瑠璃子のほうじゃないかな。僕はお酒、強いほうだと思うけど」

確かに、るりちゃんはあまりお酒に強くない。

「でも、だめだよ。この前授業でやったもん。『かどないんしゅ』は健康に悪いって」

「最近の小学生はそんなことも勉強するんだね。でも、大丈夫だよ。少なくとも僕のほうは」

わたしがくすくすと喉を鳴らすと、小夜が頭を撫でできた。

お酒のせいか、少しあたたかいその手が気持ちいい。

「おやすみ。いい夢見るね」

わたしは今日も幸せだ。

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