第3話
「あれっ?夏帆ちゃんがいるー!」
玄関から聞こえる声で目が覚めた。
わたしはお昼ご飯を食べてからずっと寝ていたみたいだ。お腹のあたりにガーゼのシーツがかけてある。時計を見ると、もう少しでおやつの時間になってしまうようだった。
るりちゃんがぱたぱたとスリッパを鳴らし、部屋へ入ってくる。
「学校が終わるにしては早いよね?どうしたの?サボった?」
るりちゃんがふふ、と声を漏らしながらわたしにハグをする。
「うん。朝ね、なんだかすっごく学校に行きたくなくて休んじゃったの」
「そっかそっか。私もあったなぁ、そういう日」
「今はないの?」
「あるけど…、そうも言ってられなくなっちゃって」
「ふぅん」
小夜の恋人のるりちゃんは、とっても綺麗だ。るりちゃんはいつもキラキラしたピアスや、ネックレスや、メイクをしていて、わたしはずっと憧れている。
「るりちゃんも今日は早くない?まだおやつの時間だよ?」
るりちゃんが少し動くたびに、ふんわりとした優しい石鹸の匂いがする。
「ふふふ、今日は午後からお休みもらったの」
るりちゃんは、デパートでお客さんにメイクをする仕事をしている、と小夜が言っていた。
「どうして?」
「…やっぱり、小夜くんは覚えてないんだろうなぁ。今日はね、小夜くんの誕生日なのよ」
「えー!!!」
「小夜くんったら、自分の誕生日も覚えてないんだから困っちゃうわよね」
わたしは自分の誕生日を忘れたことなんてない。三ヶ月も前からカウントダウンを始めるくらい、楽しみにしている。
るりちゃんの足元を見ると、黒い小さな文字で英語が書かれている白い箱があった。きっとケーキだ。
「ちょうど夏帆ちゃんも退屈してるみたいだし、パーティーのお手伝いしてくれる?」
「うん!」
小夜は隣の部屋で仕事をしているようだった。小夜は『フリーランスの翻訳家』らしい。どんなことをするのかと聞いたら、「英語を日本語にしたり、日本語を英語にしたりして、もっとたくさんの人がその文章を読めるようにするお手伝いをする仕事」だと教えてもらった。
わたしは、この前買ってもらった水色にレモンの柄のエプロンをつけ、るりちゃんと並んでキッチンに立った。
このサプライズに小夜がどんな顔をするのか、考えるだけでにやにやしてしまう。
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