第2話 夢
「キスがしたかった。」
LINEをめくれば飛び込んできたのがその言葉だった。
続いてまたLINEが来た。
「嫌がると思ったから言えなかった。」
「ストレートですね。笑」
「
案の定、
今日のお出かけの時に、
「今月は、予定もあるし疲れているから会えない。」
と
“
でも
それから、精神疾患の薬の副作用…。
「他に炭水化物がメインでないお店はない。」
Go To Eatキャンペーンで混雑していて受付が出来なかったレストランで彼はそう言った。以前も食事するお店で少しもめたことがあった。
結局その日は、たまたま空いていたファストフードショップで食事を彼におごってもらった。彼の運転で家の付近まで帰る途中、車窓を眺めながら他にも空いているお店を何件か見つけては、彼は
ところが、帰宅早々届いたLINEは
「キスがしたかった。」
だった。
何がいけないって?
出会いはネットだった。彼はLINEのやりとりは淡白で毎日挨拶がくるが
だけれども、3度目でキスをしたかったと言われ、しかもできないのは
まだ正式に恋人になっていないのにもう、そんなにキスができないのもストレスと言わんばかりなんだ…と
「出会い系はすぐ恋人になりたがってキスなどを求められる、そんなもんよ。」
「すぐにキスは嫌だね。」
と
―――—――—
気づけば霧のようにあたりはくぐもって不鮮明だった。
微睡む視界の中で、男性の笑顔が差した。
細く長い二本の手がそっと伸びてきて
そこには背の中くらいの大人が辛うじて潜れるほどの小さな小さな鳥居があった。鳥居の色は視界がぼやけて分からず背景に溶け込んでいた。白っぽかったが、何か鳥居にふさわしい大事な色を付け忘れているようだった。
そして地味な色の小さな賽銭箱と小さな神様しか入れないような社殿が佇んでいた。
再び男性は
去り行く彼の方向には、夢のように美しい女性がこの空間に溶け込みながらも優美に髪をなびかせていた。男性と女性は手を取り合い、更に男性は手を女性の肩にまわし優しく抱いた。
―男性は誰だったんだろう…
男性の名前を思い出した時、
目が覚めた。先ほどまで
「大変だったね。辛い思いをしたね。
タカシも猫が好きだよ。
ツンデレなところが激萌えだよね!」
男性の名前はタカシ。SNSでの何気ない会話から男性とは始まった。
好きな趣味や音楽の話を
タカシの一言一言は、ひとりぼっちで友達も少なく親ともギクシャクして世間話もする相手がいない寂しさを埋めていった。
(この人ならいいな。)なんて欲を持ったが、はっきり公言しないがタカシには素敵な相手がいるようだった。そして地元から離れて生きていくのは病気上無理な
失われたお兄ちゃんとの日々、友達とのやりとり、それを取り戻せるような暖かさを身に染みて感じていた。
――――—―
「しばらく距離を置かせてください」
出会い系で出会った彼に
“キスをしたらもう、元には戻れない”
(成人過ぎて何年もたってもうおばんな年齢なのに貞操が固い淑女のように心を固めるなんて馬鹿げているかな。)
自分の悪い所を感じているから、余計彼からの返信を待った。返信次第で覚悟を決めていこうと思ったのだ。
なのに、もう返信はない。
「“しばらく距離を置かせてください”じゃ、返信返すなって意味にとられるか…。」
夕飯をいつも彼におぎってもらっていて申し訳ないとは思っていた。
一週間経った頃、彼から画像が送られてきた。
料理の写真だった。この前の昼食にレストランで彼が注文して彼が気に入ったレシピだった。
“料理するなんてマメだね”とか
“あの日の楽しかったという彼の気持ちが伝わってくるね”とか
必要な彼への愛情を…
思おうとしても思おうとしてもそれは創作で、
もう彼に伝える言葉も思い浮かばなかった。
LINEは返信しなかった。
晩秋の休日の朝、
幸せでもあった過去の思い出を優しく蘇らせるように見せてくれた夢の中で、
一つの区切りのように、その夢は正直な
(私の人生に結婚なんてないかもしれない。恋人もできないかもしれない。
それはただの不運でただ縁がないだけなのかもしれない。
中東でもアフリカでもその他の発展途上国でも紛争や政治的な混乱、そして貧困が問題になっている。そんな世界で、私は、一般的に暮らせて行けるのだから、求めすぎなのかもしれない。自分の性格的な癖もあり確かに短所でもあるが、でも、人生を上手く生きれなかった自分を許し認め、無理なく生きていこう。)
コーヒーの湯気に母親の面影が過った。母も台所でよくコーヒーを淹れる。そして、
母には父にも伝えていける人でありたかったのだ。
“ありがとう”と。
きゅっと結んだ指が一つほどけて小指を立てた。
男性―タカシの優しい眼差しを瞼の裏に見た。
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