情
夏の陽炎
第1話
父としての務めをしてない非道な人だと言われないことを気にしていたのかな?
父親は、会社務めも実直で、
「欲しい。」
と言えば、父は、お菓子も少々のおもちゃも道楽も買い与えて遊楽地に連れて行ってあげ、そして学費も滞りなく支払った。
父親は、家では無口でそして時々苛立ちやすく、それでいて面として人に当たらずにボソボソと文句を言い、
一人娘として生まれた
再び
父の男根らしきものが、服ごしに
今度ばかりは
「嫌、気持ち悪い。」
その日はそれ以上なく過ぎた。
だけどそれから、家族で飲食する帰りにトイレの前で奇妙に
もう
そんな兄は、15歳を数える時に発狂した。人の良い優しい顔立ちは、本能をむき出しにした怒り顔になり、盗聴されているとかなんとか…ありもしない妄想を並べ始めた。統合失調症と診断された。
兄が荒れ狂う家の中で、初めて兄の怒声を浴びた。
服薬治療を始め兄が落ち着いている時、いつもの優しい表情に戻った。そして病気を手探りで受け止める兄は薬の副作用とも戦っていた。
兄が落ち着いている日、兄は始終家でオーディオで音楽を流しリビングで兄妹そろって音楽を聞いた。
「大丈夫?」
とか
そんな言葉は必要なくお互いがお互いの存在を許し合うようにそこにいた。
「おいしい、おいしい。」
と素直に喜び食べる優しい兄だった。
不器用で友達が少なくコミュ障と発達障害の疑いのあったかもしれない
兄は発病後、2年という短さでこの世から出ていった。
生きたかっただろう兄との最後の約束
「一緒にカラオケへ行こう。」
その台詞は
その後、10年、20年と、飽き足らずカラオケを1人や誰かを伴ってし続けていた
父には心を同じくできない災いをかけられた、のであるが、
ほどほどに男性というものを知っていった
兄が亡くなる前だった。
「兄ちゃんが私にエロ本を見せてくる。」
とクレームをつけた。
ところが母は助けてくれるどころか
「兄と二人でエロティックな気分を味わっていたんでしょ。」
と考えられない台詞を吐いた。
母親は常に
そして来たった晩は悲しみの闇色に今も瞼の裏から消えずにいる。
その日、中学を終え疲れ果てた
すると少し離れた斜め前で、右手を上下に動かし身体をくねくねと捩らせる黒い人影を見た。兄だ。
発病前にはなかった理性の吹き飛んだ兄だった。
何も見なかったように忘れるように目を瞑り眠ってしまった数十分後くらいにまた起きると、背後で兄が腰を
ただ一つ言えるのは母の放った言葉の意味ではない。
あんなに上品で繊細で思いやりのある兄が、病気のために理性を失い生きる屍化した、まさにその様であった。
その夜、そしてその後も願わずにはいられない。
兄に分け隔てなく幸が訪れ苦しみがなくなることを、ただただただただただただ……
それが14歳の
父親の物が服ごしに
同じ様に過ちを課されたのであるが、
親としての父は許すことができない。
生まれたそれは感謝より産んだ方に責任を求めるのもいけないことかもしれないけれど、産んだのなら、娘の心の平安と清純さを守り続けてほしい。
父と娘と母と…
もうどちらが悪いかも分からないほどに喧嘩し父母を罵倒した
気持ち悪くも、兄の生を守ることを念じた日によって浄化されるような気がした。
つまりは、“わたしは親にさえ恩情を抱けない奴”という痛みを、兄を許した日によって人間との情が繋がれるのを感じた。
おかしな奴だと思い自分は同じ病には絶対なりはしない、統合失調症になったら人生は終わりだとまで思った。
でもひとつひとつ、1人で歩き始めた世界で、失敗を繰り返し、人にも迷惑をかけ生きていく厳しさを経験したその後、
統合失調症になった兄を人生の終わりだと思ったことは誤認だと知った。
否、社会にうまく適合できずに右往左往した
“わたしも統合失調症である”ことを素直に受け止め医療や社会を信じ
(そうね、何が問題かきちんと自分で把握し相手にお願いをする姿勢がなくては誰も助けることなんてできないものね。)
許すというのは、許す対象の人の立場によって匙加減が違う。
父のことは許さずただ怒らないことを誓っただけ。
兄は、その後の新しい人生に恵まれるように“何事もなかった”と許し、兄の悲運を一緒に嘆いた。
ただ一つ言えるのは、何もない私に精神的な道筋をつくったのは兄だった。
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