第4話 勇者の本性
「あの女の子、この家の子だったよな」
クロードが村を出て少しした頃、情事を終えたエリオットがそう呟いた。
「なんだ、まだ足りねぇのか」
「いやぁ、このおんぼろ村に来た時から気に入ってたんだよね」
「ひっどーい、ルナとサレアは前座ってこと?」
「まぁまぁ、英雄色を好むと言いますし」
乱れた服を整えながらルナが口をとがらせる。
「でもやっちゃったら宝珠貰えないんじゃないの?」
「良いよ、どうせあのジジイ最初から渡す気無いみたいだし。それにおもてなしって言ったら夜伽の相手もあてがって貰わないと」
「あー、悪い顔してるぅ」
「カイザも来るか?」
「おっ、良いねぇ。じゃあ俺は母親の方を頂くとするかね」
「相変わらず年増好きだな」
「勇者様の少女好きも中々だろうが」
……………
「……どうすれば良いんだ」
自室に帰った村長は誰に話すでもなくそう呟いた。
確かに祈願の宝珠の力を勇者が得れば魔王討伐の大きな力になるだろう。
しかし今日一日の彼らの態度を見ただけでも分かる、彼らは宝珠に相応しい人間ではない。
息子のクロードもそれが嫌という程分かっているようだった。
しかし協力を拒み、王国に目を付けられれば宝珠を奪われるだけでは済まないかもしれない。そうなれば愛する家族や村民たちにも危害が及ぶ。
(過去と未来、どちらを取れば良いんだ……)
思考が頭をぐるぐると回り、眠れない。
その時だった、隣の部屋からバタン、ドスンと何か大きな音が響く。
「……!? どうした!!」
隣の部屋は妻と娘の寝室になっている。明らかな異常事態を察知した彼は部屋を飛び出し、隣室の扉を蹴破らんばかりの勢いで開く。
そこに広がっていたのは悪夢のような光景だった。
「ちっ、暴れやがって」
乱暴に寝巻きを引き裂かれた妻と娘、そしてその上に半裸でのしかかっているのは勇者とその仲間の男。
「な、何を……しているんだ……!!」
「あぁ、おもてなしって言う割に夜の相手を用意してくれないからさ。こっちで適当に見繕ったんだよ」
思考が真っ白になる。これが勇者だと?
噂に聞いていた弱気を助け強きを挫く清廉潔白な正義の勇者の姿はどこにもなかった。
そこに居たのは勇者という称号を持つだけの下劣な獣でしかない。
「別に良いでしょ? 勇者とその仲間の子供を産めるんだし……あっ、そしたら子供と孫が同じ年齢になっちゃうか!」
「ぶはは! そいつはややこしい事になるな!」
「ふざけるな!!」
少しでも選択を迷った自分が愚かだった、こんな外道共に宝珠を渡す訳にはいかない。
「お前のような人間に宝珠を渡す訳にはいかん!!今すぐ出ていけ!!」
「【
背後から女の声、眼前の光景に気を取られていた彼は振り向く間もなく紅蓮の炎に包まれる。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!?」
「バカなおじさん、勇者さまの言うことさっさと聞いてれば良かったのに」
全身を覆う灼炎は幾ら床を転げ回ろうとも消えず、皮膚、そして肉を焼いていく。
「早く止めなければ奥様と娘様が酷い目に会ってしまいますよ? そんな所で転げ回っていて良いのですか?」
ケラケラと面白い見世物を見るようにルナとサレアが火達磨を見下ろし笑う。
「なぜ!! なぜこんな事を!! お前は勇者じゃないのか!?」
「勇者だよ、だから何をやっても許される」
シャロンを嬲りながら当然のようにエリオットが答える。
「魔王を倒せるのは俺たちしか居ない、そして俺たちを止められる人間も居ない。俺たちは君たち人間にとっての神なんだよ」
「……ッ!! 外道……外道め!!!」
「はは、もっと罵りなよ。それしか出来ないんだから」
ありったけの罵詈雑言を吐き出すが、エリオットは意に介さず情事を続ける。既に気を失わされたシャロンと母の無惨な姿を最後の景色に父の意識は闇へと沈んで行った。
「さて、もう此処も用済みか。 ルナ、サレア、カイザ、後片付けよろしく」
それからは地獄絵図だった。
ルナが村に火を放ち、サレアが毒を撒く。それらを逃れた幸運な人間もカイザによって肉塊へと変えられる。
村の外へ逃げようとする人々も周囲に張られた結界によって逃げ出す事は叶わなかった。
豊かではなくとも、それなりに活気のあった村は僅かな時間で死臭と焦げた臭いの漂う荒地へと変えられてゆく。
目に映る景色に動く物が居なくなり、結界が解除される。こうして勇者一行の蛮行を知るものは居なくなった。
……クロードを除いて。
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