エピソードTWENTYーFIVE

「両親が私を捨てて出てった日」



「え・・・」






「全く寂しいなんて思わなかったんです。捨てられて当然、と思ってましたから。逆に、捨てられたことで助かったと思いました」



棗さんの動きが止まる。




「私の保護者が居なくなったって事で、保健所の人達が家まで来ちゃって。毎日インターフォンをピンポンピンポン。正直もうストレスがすごかったんですよ。そんな時だったんですよね・・・香月と・・・出会ったのが」



思い出す。あの頃の私は、生きている事をどうでもいいと感じていた。今みたいに生きているだけで幸せだなんて、思ってもみなかった。










初めて会ったのは、ある雪の日。怪我した男の子を見かけた。隣の男子学校の制服を着ていた。




腕にはかすり傷。足は血まみれ。口からは血を吐き出している。



「母さん・・・」




かすかに、その男の子が呟いたのが聞こえた。それを聞いて私は、いてもたってもいられず、男の子に声をかけた。






「私の所・・・来るか?」




その何気ない一言が、香月を助ける一言になったんだと思う。








「お姉さんは、どうして僕なんかを助けたりしたんですか・・・?」



不意に香月が問う。






「私と・・・そっくりだったから。あなたの姿を見た時、ちょっと前の自分を思い出して」







「お姉さんは、家族はいないんですか・・・?」



その質問に驚きもしなかった。



「家族かぁ・・・間違いなく両親はいないな。兄弟もいない。あ、そうだ。いいもの見せてあげる」





部屋の奥にとあるものがあるのを思い出し、引っ張り出してきた。




私が出したのは、1枚の懐かしい写真。




「ふふ。懐かしい。ほら、この女の子が私で、こっちの可愛い男の子が私のいとこ。香月っていうんだ」




すると、香月は動きを止めて言った。




「僕と同じ名前だ」



ニコッと微笑んだその笑顔は、どこか懐かしい感じはしていた。





「そうだなw・・・どうしてるかな・・・香月」



ふと私は、悲しくなる。




「会ってないの?」



すごく心配そうな顔で私の顔を覗き込んだ。





「そう。会ってないんだよ。私も香月も小さかった時、私の両親が二度と香月と会わせないって約束したんだ。私の両親は会社経営で、香月の家は会社員。サラリーマンと主婦。格が違うとか言ってたっけ・・・悲しかったな・・・」




香月は何も言わなかった。






「あ、ごめんwなんか、しんみりするなw」



香月は笑わなかった。





「この・・・写真・・・」



香月が写真に指を指す。




「この写真・・・僕も知ってます・・・」




私は驚いて、香月を2度見。




「母さんが・・・昔渡してくれた写真にそっくりです・・・」










「何があっても、僕らは一緒・・・って言って、お別れした日です・・・」



そう言いながら、香月もなにかゴソゴソとポケットから取り出してきた。








「その写真・・・!?」



「そう・・・僕らって、知り合い・・・なのでしょうか」




渡された写真には、小さい頃の香月であろう男の子と、その隣で歌っている私らしき人の様子がうかがえた。



「なんで・・・」




なぜこの子がその写真を持っているのか、なぜ私と写っているのか。全く不思議だ。







その次の日に、怪しすぎて私は戸籍を調べに行ったのだ。



すると、いとこだったことが判明。血縁関係者ということだから、私が保護者替わりになるか、シェアハウスという形で登録するか、名義で迷っていた。結果、保護者という形にしたのだが。














「という感じで、血縁関係がわかってからすごく仲良くなったんですよね・・・最初は戸惑いもありましたけど。色々あってやっと唯一の家族が・・・できたんです」



棗さんは何も言わなかった。ただ私を、優しい目で見つめていた。






「たった1人の、私の家族だったのに・・・私に愛情を注いでくれた、たった1人の・・・」




すごく胸が痛かった。どうして自分が生きて香月が犠牲になったのか。どうしてあの時、棗さんは私を助けたのか。







「いっその事あのまま消えたかった!香月と一緒に消えられるのなら本望!なのに、なぜ助けたんですか!」



棗さんは私を見つめる。






「何か言ってくださいよ!」












「約束・・・したんだ」



棗さんはゆっくりと話し出した。





「空港で香月くんと再開して、メモを渡した後、本来なら帰るつもりだった。けど、香月くんに呼び止められて・・・もし何かあったら姉さんだけでも逃がしてください、って頭下げられた・・・」





じゃあ・・・香月は・・・






「最初からそうするために、イトナちゃんを逃がすために・・・」










棗さんは私の手を取った。




「香月くんは、イトナちゃんを生かすために助けに来たんだ。その命を粗末に扱うんじゃない。これから精一杯・・・生きるんだ」




棗さんの顔が、香月と被って見えた。









「か・・・香月・・・」






そこで私は意識を失った。

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