エピソードTWENTYーTHREE
「わかんないですか?僕はこんなにも嬉しいのに」
「・・・誘拐しといて嬉しい?馬鹿げているとは思いませんか?そんな事、誰も望んでいませんよ」
この人の気持ちなんかわかってたまるか。
「え〜?馬鹿げているようには思いませんけど。イトナさんはそう思われるんですね。まあ、僕は気になりませんよ。人それぞれの感覚ですから」
気持ちが悪い・・・このにこにこ笑顔。何を考えているのか全く分からない。
「・・・もう一度聞きます。ここはどこですか」
「シェルターのなかです」
ケロッとした顔で言う生徒会長。
「違う!そういう事じゃなくて、どこのシェルターかっていうのを聞いてるんです」
「あぁ・・・僕んちです」
え・・・
「おっきいシェルター持ってて良かったです。こういう事に使えますから」
じゃあ私には・・・逃げるすべは残っていないじゃないか。どうすべきだ・・・考えろ、考えるんだ。
・・・!!そうだ。ジョセフに教えてもらった電話番号にかければ!
携帯・・・携帯を!
私は自分のポケットをごそごそする。
「あれ・・・?どこだ?」
ポケットの中にはない。どういう事だ?捕まる前に、電話番号のメモと一緒に携帯をポケットに入れておいたはずなのに・・・
「何をお探しで?」
「あっ・・・!」
見上げると、そこには生徒会長の顔が数センチの距離のところで止まっていた。
「これかな?」
そう言って出された手には、私の探していた物がしっかりと握られていた。
「な・・・んで、それを・・・」
「だから言ったでしょう。麻酔を投与したと。その時ですよ。ちょうど手荷物などで危険性のあるものは全て調べさせてもらったんです。いけませんねえ、こんなものを持ち込むなんて・・・誰かの電話番号らしき数字が書かれたメモと・・・メールの通知が100件の携帯」
通知・・・見られたのか?・・・ん?100件?最初そんなに来てたか?
「・・・!まさか、中身まで!?」
「しっかりと見させていただきました」
最悪だ・・・
「そしたら変なものを見つけましたよ・・・」
そう言って生徒会長はとある画面を開いた。
「棗…誰でしょうねぇ。“イトナちゃん、何かあったら言ってね“…、“イトナちゃん、危なかったら連絡して!“…」
うわぁ…読まれてる…
「誰でしょう、この性悪男は。あなたのボーイフレンドか何かですかねぇ…」
生徒会長が私を睨む。
「誰でもいいでしょう。生徒会長には関係のないことですし」
私も生徒会長を睨み返す。
「よくもまあ、そんな口が聞けたものですね。いいですよ…そんなの」
すると、生徒会長が私との間の距離を詰め始めた。
「なんですか!なんで近くんです」
生徒会長はニコニコ…、いや、ニタニタとした顔をで私に手を差し出した。
「僕と、結婚してください。MY HONEY」
は??????
「言ったでしょう。僕と共に生きると。…なんのことだと思われていたんですか?」
恐ろしい…この男!
「さぁ、いきましょ?」
連れていかれる!やばい!逃げなければ!
しかし、全く足が動かない。こんな時に恐怖に負けて動けないとは情けない!動け!動け!
その時だった。
「姉さん!」
聞き覚えのある声が、息を切らして叫んだ。
振り向くと、そこには懐かしい顔が必死に息を整えている姿があった。
「香月!?どうして…」
どうしてこれた?私は連絡した覚えないのに。
「棗さんが教えてくれたんだ。姉さんの場所を…。おかげで予定より早く着いた」
棗さんが…?どうして…。
「おや?誰でしょう。初めまして」
生徒会長が不気味な笑みを香月に見せた。
「え、もしかしてあんたが生徒会長?」
「いかにも。僕が生徒会長の…」
すると香月は顔を顰めた。
「う〜っわ。思ってた以上にキモいですねw」
えw
「いや、だって姉さんを誘拐するって相当自信家なんだろうなって思うじゃないですか。こんな美人捕まえるなんて事、普通しませんから。それがまぁ…こんな顔だと…出直してもらえます?w」
香月の辛辣な言葉に度肝を抜かれ、生徒会長も私も、開いた口が塞がらない。
「帰ろう姉さん。このバカは置いといて、日本に」
そうだ。助けに来てくれたんだ。香月と・・・帰ろう。
「返しませんよ・・・イトナさん。僕がどれだけ待っていたか・・・アイツがいなくなってから・・・どれだけ探したか」
生徒会長が香月を睨む。
「香月さん・・・と言いましたね。良いんでしょうか、そんな事してしまって」
「どういう意味だ」
「こちら側は有利な情報を持っているんですよ。名前、年齢、住所、学校・・・内密な事だって知り得ているんですから・・・」
生徒会長はニヤッと笑った。いつ見ても気持ちの悪い笑い方だ。
だからといって、香月が動じる訳でもない。
「脅しのつもりですか?脅迫罪で訴えますよ」
「構いません。たかが罰金程度でイトナさんが手に入るなら安いものです」
やっぱり気持ち悪い。
「行こう姉さん。じゃあ、帰るので。お疲れ様でした生徒会長さん」
香月が私の手を取って出入口に向かった時だった。
「いいのかなぁ・・・カツキくん」
香月の名前を、生徒会長が呼ぶ。
「いいの?ファンもびっくりだよ。国民的アイドルのカツキくんがさ、まさかお姉さんのために撮影をパスしたなんて知ったら…どうなるだろうね」
アイドル?カツキくん?ファン?撮影?
私はなんのことだかさっぱりわからなかった。
「いいのかなぁ。みんなガッカリじゃないですか?」
香月が無視しようとする。
「ねえ香月。アイドルって?どういうこと?」
「知りたいですか?イトナさん」
生徒会長がにやつく。
「香月くんはイトナさんが知っているような、いい子ちゃんな男の子ではありませんよ。確か、イトナさんに声優を勧められたのって香月くんだったらしいですね…その前から、香月くんはアイドルとして静かに活動をしていたんですよ」
え…
「どうして・・・香月、なんで言ってくれなかったんだ?」
「今はそんなことどうでもいい。姉さん、早く帰ろ」
香月はいつもの様に手を差し出してきた。
「ファンがいるって何?国民的アイドルってどういう事だ?私は何も聞いてないぞ」
香月は少し困ったような顔をした。
「いいですねぇ・・・兄弟愛ですか。僕も混ぜて欲しいものです」
生徒会長がニヤニヤと笑う。
「あんたに何がわかんだ、生徒会長さん」
香月が生徒会長の方へと足を運んで行った時だった。
ゴトッ
「え!?なんだ!?」
突如、シェルターで地響きがした。
「なんで揺れてるんだ!?地震か?」
香月が生徒会長を睨む。
見ると、生徒会長の顔がみるみる青ざめていく。
「どうした?何かあったのか?」
香月が必死に生徒会長に問う。生徒会長は口をパクパクさせて、必死に何かを訴えている様子だった。
「くっ・・・くず・・・れ・・・」
「は?聞こえねえ!もっとはっきり言え!」
香月が恐ろしい形相で生徒会長の胸ぐらを掴んだ。
「くず・・・れます・・・!」
その時だった。
シェルターの天井からゴトゴトと音がし、一気に崩れ始めた。
「姉さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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