エピソードTWENTYーONE ー香月

「はぁ!?チッ・・・どこだよ!!!!」



僕は今、自分のスマホと葛藤している。




「もう!!行先ぐらい教えろよあのバカ!!パリっつったって色々あってわかんねえんだよ!!!」



スマホの地図片手に、ジョセフが送ってきたメールの内容に対して少々怒りながら、空港のベンチに座り必死に行き先を考えている。送られてきたメールには、住所も番地も乗っておらず、情報がゼロだ。



あぁ、ここまで来て読み取れてない人いたら申し訳ない。




僕は香月。姉さんのいとこであり、唯一の家族。 (姉さんがどう思ってるかはわかんないけど)



今までの話の流れだと、僕は姉さんを上手い具合にパリに送り出し、一人で順風満帆な孤独生活を送っているわけよ。




お前何者だよって思われそうだから言うけど、普通の高校生・・・だと思う。

一部を除いてはね・・・





僕の姉さんは声優をしているだろう?しかも有名。噂されてるよね。世間が恋に落ちるほどの声を持つ声優イトナは、世間が羨ましがるほどの「美貌」「お金」「愛情」「家族」を持っているって。





でもそんなものはただの嘘に過ぎない。



姉さんには・・・何もないというのに。






姉さんは「お金」というものを持たない。この前だって、僕が稼いだお金を渡そうとしたけど断られた。好きなように使えって言ってた。目にくままで作るくらい、お稽古も収録も僕のためにって頑張っているのに。




姉さんは、「愛情」というものをもらったことがない。悲惨な環境で小さい頃を過ごし、悲惨な環境で無惨なほど苦しい生活を送っていたから。その時僕以外の人達と過ごしたということを、姉さんは全く覚えていないらしい。必死に忘れようとして、いつの間にか本当に忘れてしまっていたのだ・・・残酷だ。








とか考えているうちに時間はすぎていく。













「ねえあれ、棗さんじゃない?」


「本当だ!棗様よ!!!棗様ーーーーー」



空港の中で大騒ぎしている連中がいた。さっきからすごくうるさい。こっちは今必死に姉さんの居場所を探してるってのに!!うせえなあ!!もう!!




「棗様ーーーーー」



「邪魔・・・」



「邪魔ですって!キャーー。素敵〜」



ああああ!!ちょっと黙ってろよ!






あれ、そういえば・・・棗って・・・








突然、その集団から出てきた男が僕の目の前まで来た。うわ・・・今1番絡まれたくない。



「ねえ、ちょっといい?」



「え・・・」

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