エピソードSIXTEEN

私は今、学食にいる。


今日も1人。


あの日以来、あの二人は私に話しかけてこなくなった。



「嫌われただろうな・・・」


ため息がこぼれる。友達って、失ったらこんなにも重たいものだっけ?


あまり友達がいた事のない私は、友達の重さすら分からない。嫌われたって確信したら、「ああ、こんなもんなんだ」って、自分の中で片付けてしまう。





「あの・・・隣いいですか・・・?」


誰かに声をかけられた。


「どうぞ」


相席を了承し、顔を上げる。




「・・・あの時の!」


相席の相手は、最近水をかけられそうになっていた女子生徒だった。



「ご無沙汰してます。えっと・・・イトナさん、でしたよね?」


ニコッと笑いかけられた。その笑顔はとても愛らしい。




「この間は・・・ありがとうございました!」


突然、女子生徒が頭を下げる。


「私、優しくされたの初めてで。ずっといじめられてたから・・・」


女子生徒は下を向いた。



「本当ならあの時直接お礼を言いたかったんですけど、手が話せる状態じゃあなさそうだったので」


女子生徒は顔を上げる。



「あれ・・・、今日はお2人はいらっしゃらないんですね」


「あ・・・うん」



最初はいつも一緒だったジョセフもマリアーナも、いないのだ。不思議に思うだろう。



「でも、イトナさんがお一人でよかったです。あの方たちがいらっしゃったら、お声掛けれませんでしたし」



そうだなとクスッと笑って返した。






「イトナさんって不思議ですね!」


突然、その女子生徒が笑い出す。



「普段はかっこよくてクールで、女子なのに女子じゃないみたいな。で、お仕事ではイケボ!LaLa役になってどうでした?」


「え・・・知ってるの? "優しさのかくれんぼ"」



すると女子生徒は、机を叩いて大はしゃぎ。



「知ってるも何も、大ファンなんですよ!初めて見た時から、LaLaに惚れてしまって!!LaLa様の役は一体誰がやっていらっしゃるのか気になって気になって」


ファン・・・すごいな。海外にもあのアニメが知れ渡っていたとは。



「やっと出会えたなぁって感じです!イトナさんは私の王子様ですから!」



なんとも言い難い・・・(汗


嬉しいやら、暑苦しいやら。




「私、イトナさんに憧れて芸能界に入ったんです」


女子生徒は上を見上げた。



そういえば、ここは芸能学校だ。一般人はいないのだ。てっきり忘れかけていたが(汗



「あ、私女優です。一応いい所の事務所には入っているんですけどね・・・」


頭をポリポリとかいて話し始めた。




「うちの家、両親がだいぶ前に亡くなったんです。なおかつお金もなくて、毎日借金取りに追われる日々で。家にはもう何も残ってなかった。あるのは、命と、両親が残した莫大な量の借金だけ。毎日毎日、借金取りに頭下げて見逃してもらっては、その日の分の貯金で何とか生き延びていました。学校なんて行けたものじゃないから、外で働くこともできなかった。でも、カーテンの隙間から見える景色だけは、私を受け入れてくれてる気がして、生きなきゃって・・・両親が残してくれた命だから・・・」



「両親のことは・・・恨まなかったの・・・?」




「それはもちろん恨みましたよ。でも・・・恨んだ所で両親はいないし、お金も降ってこない」



寂しそうに涙をこぼす。



「・・・そんな時にであったのが・・・"優しさのかくれんぼ"でした。たまたま通りかかった所の映像に、流れていたんです。そこから・・・私、役者になろうって・・・」




女子生徒は涙を拭った。



「泣いてちゃダメですからね」



そう言って笑っていた。



その笑顔は、香月を思い出させるようだった。













「おやおや、こちらは随分とお楽しそうに」



振り返ると、知らない人がたっていた。先輩だろうか?


「おや?そちらはCanonさんではないですか。お元気ですか・・・?」



誰のことだろうと思い、女子生徒を見ると、下を向いていた。



「イトナさん・・・でしたよね・・・お話があります。一緒にお茶でも」



私が了承しようとしていた時だった。



「イトナさん・・・」


女子生徒が私の腕を掴んで、こちらを見上げる。



「行ったらダメです・・・ヤツは・・・」



また、ヤツという言葉を聞いた。



「おや・・・お友達を取られるのが嫌みたいですね。大丈夫、何もしませんから」



しかし、なかなか嫌がる女子生徒。



「ヤツは・・・行ったら・・・」



ずっと私の手を掴んでいる。


早く離してくれ・・・なんて思ったことは秘密にしておこう。とにかく、今行ったら良くない気がした。




「申し訳ないですが、今は友達と一緒なので断らせていただきます。行こう、Canon」


一礼してその場を去った。










「イトナさん・・・イトナさん・・・」


廊下を歩いている間、女子生徒は私の手を掴んでいた。



「何?」




「私の事・・・Canonって・・・呼んでくれましたね!!!!」


「え・・・うっ、うん。呼んだけど。それがどうしたの」



女子生徒は目を輝かせて私を見た。



「やっと!!やっとお友達です!」



くすくすと笑ってしまった。


「何笑ってるんですか?じゃあ私も、イトナちゃんって呼びます!」



「イトナでいいよ。だって、友達なのだろう」





Canonは嬉しそうに頷いた。



この幸せは、長く続くといいな・・・。

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