エピソードFOURTEEN ーマリアーナ

「・・・どうしようマリアーナ!私・・・イトナちゃん、避けちゃった・・・」




「大丈夫よジョセフ。言われた通りにやれば、私たちは被害を被らないわ。だから、ヤツの言う通りにするの」



「でもそれじゃあ、イトナちゃんが・・・」



ジョセフは怖がりだ。そんなジョセフをフォローするのが私、マリアーナ。私達は双子のようにいつも一緒にいる。双子のようにお揃いの服を着て、双子のようにお揃いのメイクをして、双子のように手を繋いで横を歩く。




「うまく、できるかな・・・もしイトナちゃんにバレたりなんかしたら・・・、イトナちゃん・・・」


ジョセフが泣き始めた。ここが唯一、一緒じゃない所。



イトナちゃん・・・か。





事の始まりは数日前。私は、生徒会室に呼ばれた。生徒会室にはあまり行きたくなかった。ヤツが、いるから。



「いらっしゃい・・・マリアーナ」


ヤツの不気味な呼び掛けに私は会釈をして、入室した。



「最近さ・・・君のクラスに新しい子が入ったよね・・・。名前なんだっけ。確か、イトナさんだっけ・・・」


いちいち生徒会室まで人を呼んでおいて、たったそんなことか。


私はヤツに顔を向ける。



「それだけですか?ご用件が他にあったのでは?」


ヤツの顔は見れば見るほど、恐ろしい。




「確か・・・顔も可愛かったよねぇ・・・。気になるなぁ・・・」



「!?」


こいつ・・・何を考えているのだろう。


ヤツは口元に手を寄せた。




「ねえねえ、マリアーナ。お願いがあるんだけど・・・」


ヤツは私に近づく。本来なら、寄るな!、とか言って押したいところだが、そうは言えない。ヤツだから。



「イトナさんを僕の所に連れてきてください」



ヤツは私にコソッと喋った。




「大丈夫。何もしませんから」


ヤツはニヤッと笑った。



「イトナちゃんになにかご用が?」




「そう・・・とっても大事な用事がね」



怪しい・・・イトナちゃんになにかする気満々だ。




ヤツは変わり者が大好物。転校生が来ると、どこから手に入れたか分からないようなプライベートな情報さえも入手し、脅す。



それがヤツの楽しみ方。



確か昨年も転校生がうちにやって来た事があったが、ヤツの餌食になって・・・。なんとも惨い。


ヤツは、私欲の為ならどんなに汚い手でも使う。



どれだけリスクを背負っていても、やりかねない。




「・・・断らせていただきます」



ヤツは首を傾げる。


友達を売るなど、人としてあるまじき姿である。



「なぜ断る?あ、わかった!褒美が足りないんだね。大丈夫。ちゃんとそれ以上の褒美は用意するつもりだから」



ヤツは頭がいかれている。



「いいえ。友達を売るなどしたくないからです。昨年、1人の転校生が姿を消しました。あれ・・・あなたが関係していますよね・・・?」



ヤツは笑っている。



「はぁ・・・手綱1本じゃあ引けないってことか。しかたないなぁ・・・やらなくてもいいけど、その時のお礼は勿論・・・わかってるよね」




お礼・・・




「わかりました・・・」


「よろしい!じゃあ、待ってるからね」



私は静かに生徒会室を出た。耳打ちされたとおりにすれば・・・私は救われる・・・。



このようにして、私はヤツと手を組んだ。数日前までは罪悪感でいっぱいだったが、ここまで来ると楽になる。そして、当たり前のことだと思えるようになった。



ジョセフは未だに嫌がっている。



「イトナちゃん・・・」



泣きそうな顔をしている。



「泣かないでジョセフ。これは私達の仕事。あんただって、仕事ほったらかして自分が犠牲になるの嫌でしょう」




泣いてはいけないのよ。泣いていては生き残れない。




ここは弱肉強食なのだから。

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