エピソードNINE

「ねえねえ、イトナちゃん。イトナちゃん声優さんでしょ?なんかセリフ言ってよ」


「え!む、ムリです(汗」


「じゃあ歌ってよ!」


「は、恥ずかしい・・・」


大勢のクラスメイトに囲まれている。人の目が沢山・・・怖い。やっぱりメガネ、香月から取り返しておくべきだった・・・。



「そいつさあ、本当に声優かよwセリフも歌も無理ってさあ、ダメじゃんw」


あの不服そうだった男子生徒が、私を見下ろす。


「何言ってんの!この子転校生なんだから、そういう茶化しは勘弁してよ!」


「そうよ!イトナちゃん下向いちゃったじゃない!」



嬉しかった。クラスメイトが、自分を気にかけてくれる。日本にいた頃、そんなことは1度もなかった。優しくされたかどうかも、覚えていない。毎日が苦痛だった。


「イトナちゃん、気にしなくていいからね?あいつ、いつもあんなのだから」


クラスメイトは、私の頭を撫でた。暖かい。優しい手だ。香月以外の人に優しさをもらったのは、初めてかもしれない。


頬を涙が伝う。



「え!ちょっと、イトナちゃん!?」


「どうしちゃったの!?どこか痛いの?」


嬉しさのあまり、涙を流す。暖かい空気をもらって、暖かい優しさをもらって。本当に幸せだ。



「あの・・・うっ・・・私、今まで優しくされたことなくて・・・こんな気にかけてもらえたの、初めてだから・・・嬉しくて・・・」


喋る度に涙が溢れ出る。


「・・・イトナちゃん、日本で何かあったのね・・・」


「辛かったでしょう・・・」


暖かい。


男子生徒を見ると、やはり不服そうな顔をしていた。

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