エピソードTHREE

「おーい!姉さーん!」


学校を出ると、門のところで香月が待っていた。


「姉さん、おかえりなさい。学校どうだった?」


「ただいま香月。どうもなにも、いつも通り。いつもと変わらず・・・楽しかった・・・」


「そっか。良かった」


その愛らしい顔といい、憎めない優しさといい、全てが暖かい。香月が本物の家族なら良かったのに、なんて考える。



「ところで姉さん・・・そのだっさいメガネやめろって言ったよね?」


香月が私の顔を指さした。


「いやあ、黒板が見にくいもので」


「嘘つくな。姉さん視力両目Aじゃん」


「あ、バレたw」


くだらない嘘をつく。


「姉さんの可愛い顔が台無しだよ」


「上手いこと言うね。でも、このメガネ便利なんだ。遠くまで見えるし、紫外線もカットしてくれるし。さらには、人の視線もカット!ブサイクに向けられる痛い視線もこのメガネのおかげで、なんとか乗り切ってるってこと」


「いいからそんなこと。ってか、そんなに人に見られるの嫌なの?姉さん可愛いのに?」


香月が私の顔を見つめる。


「何を言ってる。眼科行った方がいいんじゃない?」


私はついムキになって強く当たった。


すると香月は、顔を下に向けて黙った。


「・・・ヵ」


「何?聞こえない。ボソボソ言わないで」


「姉さんのバカっつってんの!」


「うわ!」


香月は顔を上げると、私のメガネを奪った。


「ちょっと!返しなさいよ香月!メガネ!それがないと・・・」


「これがないと、何?それより周りを見てみなよ」


言われるがまま、周囲に目を配った。人の目が、こちらを向いている。


「え・・・いや・・・いや!香月、メガネ返して!お願い!」


人の目が怖い。視線が痛い。ざわざわと集まった人達が、口々に何か言っていっる。中にははしゃいでいる人も。


私は必死に香月に訴えた。


「なんでそんな・・・みんな姉さんの事が可愛いから見てるんだよ」


「嘘つかないで!そんな冗談いいから、返して!」


「・・・わかったよ。ごめんね姉さん・・・」


そう言って香月は私にメガネを渡した。


メガネをかけて辺りを見回す。


「なにあれw」


「何かあったのかな?あの女の人、泣き叫んでたけど」


聞こえてくる怖い言葉。垣間見える人間の小悪さ。これが見たくなかったから、ずっとメガネをかけていたのに。



香月はこちらに目をやる。


「姉さん・・・ごめん。まあ、この調子だったら、一生気づかないだろうけどw」


香月は後ろを振り向いた。


「先に帰るね。じゃあ、またね姉さん」


「え・・・う、うん」


香月はカバンを肩にかけて、歩き出した。その背中は暗く見えた。

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