第17話
「なにやってるの?喧嘩はダメだよ」
「あ、陽葵ちゃん。これは…」
陽葵は僕たちのところに辿り着くと、まずはクラスメイトを諌めにかかった。
そのほうが適切だと判断したのだろう。流石だというべきなのだろうか、僕とはまるで対応が違う。
(陽葵だって、さっきまで囲まれていたはずなのに…)
すぐにこうして動いて、助けにきた。
なにもできず、萎縮していた僕とは雲泥の差だ。
「僕は…」
どうしてこうなってしまったんだ。
理想の自分になれなくても、せめて普通になることくらいは、きっとできたはずなのに。
「なにがあったかは分からないけど、とにかく今は抑えて。もしタケルちゃんと私が付き合っているという話がきっかけなら、それは誤解だからさ。あとで説明もちゃんとするから、今は、ね?」
「あ、ああ。悪い、陽葵ちゃん」
「わかってくれたらいいんだよ」
僕が半ば呆然としている間に、陽葵は説得を終えたらしかった。
僕に突っかかってきた彼も陽葵の前では毒気を抜かれたのか、借りてきた猫のように大人しくなっており、さっきまでの剣幕はすっかり鳴りを潜めている。
そんな彼女に向けられるクラスメイトの視線も、僕に向けられていたものとはまるで別物。流石だという尊敬の混じったものと安堵の目が、陽葵へと注がれている。
憧れの人を見る目。誰からも頼られる理想の人物。これできっと、陽葵のクラス内での地位はますます磐石なものとなるだろう。
「ほら、タケルちゃんも謝らなきゃ。それで仲直りしようよ。ね?」
それに比べ、僕はどうだ。今回の件で男子からは、多少距離を置かれるかもしれない。
少なくとも友人達とはこれまで通り接することもできないんじゃないだろうか。
陽葵がいる限りそこまで露骨なことにはならないだろうが、腫れもの扱いくらいはされるだろう。
僕は陽葵の添え物。陽葵のおまけ。陽葵の腰巾着。
彼氏だなんだとはやし立てられたところで、傍からみれば、僕は勝手にキレて彼女に迷惑をかけた意味のわからないやつでしかない。
どこまでいっても、僕は陽葵に守られることになるんだろう。
それが嫌だった。本当に、もうなにもかもが嫌になってしまったのだ。
「くっ…!」
気付けば僕は駆け出していた。教室を飛び出して、どこともしれず走り出す。
「!タケルちゃん!?」
後ろから僕を呼ぶ陽葵の声が聞こえたけど、それをむしろ振り払いたくて僕は走る。
走ったところでどうにもならないことはわかってる。
だけど僕はとにかくそうしたかったのだ。
本当に、もうなにもかもを放り捨てたかった。
それこそ、僕を縛り付ける、この呪いごと。
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