第15話
「台場、お前ついに陽葵ちゃんと付き合い始めたんだって?」
「クラスの女子から連絡きたんだけどさ。なんつーか、よくやったよな」
どうしてこうなっているんだろう。僕の日常は、いったいどこで崩れてしまったんだ。
未だ頭のなかが呆然とするなか、僕は自分の席に座っていたのだが、気付けばクラスの男子に囲まれて、なにやら話しかけられていた。
「俺も狙ってたんだけどなー。まぁ陽葵ちゃんは明らかにお前にご執心だったし、こうなったかって感じではあるけど。今度彼女に友達紹介してくれるよう言っといてくれよー」
その中にはたいして話したこともないのに、やたら馴れ馴れしく絡んでくるやつもおり、正直不快感と嫌悪感が物凄い。腕を肩に回して顔まで近づけてくる始末だ。
彼らにとってはスキンシップのつもりなのかもしれないが、それは通じる相手とそうでない相手がいることを知らないのだろうか。
たとえクラスで人気のイケメンだろうと、僕にとっては彼の息が顔にかかるのは、とてつもなく不快なことだった。
「……そんなの、直接陽葵に言えばいいじゃないか」
「ダメなんだってそういうの。わかってないなぁ兄弟。がっついてるように見せるのは案外女子の食いつき悪いんだぜ?女の子の知り合い増やしたいなら、女子から紹介してもらうほうが警戒が薄いのよ。覚えといたほうがいいぜ」
僕の精一杯の拒絶はあっさりと流され、何故か不要なアドバイスを貰う始末だ。
軽薄な彼の言葉にはマイナスの感情しか積もらない。誠実さの欠片もないその言動は、明らかに僕とは違う人種であると暗にほのめかしていた。
「……それはどうも」
「しっかしほんと上手くやったなお前。新橋陽葵っつったら誰の告白も受けないことで有名だったぜ。まぁお前がいたからってのは噂にもなっててわかってたけどさ。やっぱ顔なんかねぇ」
流そうとしているのに、次から次に話しかけてくるやつがいるのはいったいどういうことだろう。
これほどまでHRのチャイムが待ち遠しいと思ったことはない。
(早く時間が過ぎてくれ…!)
ここは耐えるときだった。今の彼らは噂に踊らされているだけに過ぎない。
時間が経てばきっと陽葵が説明し、誤解も解けていくことだろう。
だから、それまで我慢すればいい。そうすれば、きっとまた。いつも通りの日常が―――
「いやいや、それもあるかもしれないけどさ。そうじゃないんだよ」
そう思っていた時だった。僕の耳に、ある言葉が飛び込んできたのは。
「え、なに?お前なんか知ってんの?」
「ああ。俺さ、台場と新橋とは同中だったから知ってんだけどさ」
やめろ。言うなと、僕の心が叫びだす。
「この二人、幼馴染なんだってよ。ずっと一緒だったらしいから、昔から仲良かったんだとさ」
「え!?マジか。そりゃ羨ましいな」
ふざけるな。なにがだ?いったいなにが羨ましいっていうんだよ。
「あんな可愛い幼馴染がいたら、楽しかったろうなー。台場、お前幸せものだな、おい!」
小突かれる。なにも知らないくせに。なにもわかってないくせに。
楽しい?幸せもの?そう思ったことなんて、呪いにかかってからまるでない。
「なんでもできて可愛くて欠点なんかないもんなー。俺なら絶対手放すとか考えらんねーわ。かーっ!いいなぁちくしょう!」
欠点がない。完璧。そうだ、だから僕はこんなにも苦しんでいる。
それをこいつらはわかってないんだ。上辺だけしか見ていない。
そのことが、僕はもう許せなくなってしまって―――
「いい加減にしてくれよ!!!」
気付けば僕は叫んでいた。
我慢するつもりだったのに。
そうしていつも通りの日常に戻るつもりだったのに。
こいつらが放つ無遠慮な言葉に、僕はもう耐えられなかったんだ。
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