第二章④
その日の夜。マローネは
屋敷は城の
夜に見回ることで、陽があるうちには気付かなかったことにも目が行くかもしれない。それにこの行動は、日々のサフィニアの安全に
そう考えて、メアリが
(うう、どうしてわたしはこう……この大馬鹿者!)
サフィニアは謝罪を受け取る気はおろか、マローネの顔を見ることすら拒絶していた。
部屋での言動は、完全に
(サフィニア様にとっては、過去の思い出話ですら
傷ついたような表情が、寂しげな呟きが、マローネの頭から
(あんなお顔、させたくなかったのに……!)
笑顔でいて欲しいのに、自分が彼女からそれを
そうやって、
不意に屋敷の窓が開かれ、マローネは驚いてビクッと肩をはねさせた。
なぜ窓が開いたのか、自分が今いる場所は屋敷内だとどこら辺だったかと考え――青ざめた。失念していたが、ここはちょうど、サフィニアの部屋の前だ。
案の定、窓の向こうに立っていたのはサフィニアだった。
「こんな
無表情のサフィニアに見下ろされ、マローネは正直に答える。
「よ、夜の見回りです……」
「……命じた覚えはありませんが?」
「はい、その……わたし個人の判断です……!」
ばつが悪くマローネが苦笑いで答えると、サフィニアは片手を額に当てた。
「……なぜ、あなたはそう……」
「え?」
「いい加減にもう、出て行く準備をしているかと思っていました」
サフィニアは珍しく困った顔をしていた。困り果てて、どうしていいか分からない……そんな表情を見て、マローネは
まだ自分を気にかけてくれているのだ。マローネは主の
「心配して下さったのですか? わたし、サフィニア様を傷つけたのに……」
「は? 別に、あなたの図太さに呆れているだけです。それに……おちびさんの言葉ごときが、私になにか
気まずそうにそらされる視線と、
ローネはサフィニアの変わらない部分を見つけた。
口調も、
が
「えへへ」
「なにを笑っているのです。人が
マローネが思わず笑い声をもらすと、サフィニアはムッとした表情を浮かべた。だが、やがて
「だから、そんな風に笑っている場合ではないと……」
「申し訳ありません! その、気にかけていただけたことが嬉しくて、つい……」
マローネが答えると、サフィニアは「そうですか」と
だが、浮かれてばかりはいられない。今の自分にできることを期日まで続けるのだと決めているマローネは、一礼して見回りに戻ろうとしたところでサフィニアに止められた。
「おちびさん。見回りの必要はありません。ウロウロしてないで、早く休みなさい」
「
胸を張るマローネに、サフィニアは引っかかりを覚えたらしい。
「……まさか、夜明けまで外にいるつもりですか?」
「はい! わたしが、外敵からお屋敷をお守りするので、どうぞご安心下さい!」
「寝なさい」
「え? いいえ、サフィニア様、わたしはこれから夜間の番を……」
「ダメです、寝なさい。仮にも王城の敷地内ですよ? 夜の見回りなど必要ありません」
「でも、お屋敷の周りは巡回路から外れております。念には念を入れ、わたしが……!」
「そこまでする必要ないでしょう」
「少しでも、サフィニア様のためにできることをしたいんです!」
「…………」
サフィニアは
「……もう休みなさい、おちびさん」
その呟きは、突き放すでもなく、ただただ
「子どもは、
「子どもではありません! あなたに
「
サフィニアが目を
「サフィニア様?」
「……あなたの努力は分かりました。けれど、それで昼間に差し
まさかそう返されるとは思わなくて、マローネは言葉に
サフィニアは、さらに続けた。
「私のお願いです。今夜はもう、休みなさい。言うことを聞いてくれなければ、
それは嫌だと首を横に振れば、サフィニアは「よろしい」と頷く。
「では、部屋に。……メアリを起こさないようにして下さいね」
「心得ております」
なにせ、夜間の見回りは誰にも秘密である。戻る時も、メアリを起こすようなヘマはしないとマローネは自信満々で答える。
「今日は、このまま
「……今日は?」
「おやすみなさい、サフィニア様!」
「…………」
少々疑いの
「…………――おやすみなさい、おちびさん。いい夢を」
そして、窓がパタンと閉じられる。もうサフィニアは顔を出さないと分かっているのに、マローネはしばらくそこから動けなかった。
(お……おやすみなさいって、言ってもらえた……! よし! 明日はサフィニア様の
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