第二章①
サフィニアと話すことができた日を境に、マローネは
メアリたちに聞いても「サフィニア様のご意向」としか返ってこない。ヨハンなど「ちょうどいい休養だと思えばいいじゃないか。
そして、使用人たちに命令を出しているサフィニアは、部屋から出て来ない……いや、マローネが
約束の半月は近づくのに、サフィニアとの
「こうしてはいられません!」
サフィニアの部屋を訪ねると、ちょうど
「サフィニア様!」
「……なぜ、ここに」
対してサフィニアの表情は真逆で、険しい顔をしていた。
「私に任されていた仕事が
「……ああ」
顔にかかった長い
「あなたには、もう仕事はありません」
「え!? あ、あの、それは、なぜでしょう?」
マローネの脳内は
「あなたが、喜ぶからです」
「は?」
マローネの口から
「ご気分が
「……は? なぜ、そういう
「だって、険しいお顔をなさってます! 本当は、起きているのも
「あなたが来てから、気分がよかった日などありません」
「そんなに前から!? では、ずっとご無理をなさって……! それなのに、わたしの体調まで気にかけて下さるなんて、サフィニア様はなんて
「ちょっと待ちなさい。一体
マローネは感激した。もちろん、サフィニアの言い分は聞こえているが、それすらも自分が気に
「サフィニア様、どうかご無理をなさらず、今すぐお休み下さい! あっ、
「
マローネは同年代の中でも
「
サフィニアは、
「本気、ですか?」
「無論、わたしはいつでも本気です、サフィニア様!」
「……余計に
げんなりとした口調で断られ、マローネは
「ああ、おちびさん――」
「!? はい、なんでしょうか!?」
「……そんなキラキラした目で見ないで下さい」
元より聞かせるつもりはなかったのだろう
「目? わたしの目が、なにか?」
問い返すと、首を横に振られた。
「いいえ。なんでも。……それより、あなたはもう必要ないので、今すぐヨハンを呼んできて下さい」
つれない命令だけを残し、サフィニアは自室に戻ってしまった。
そばにいられるかもと期待したマローネは、予想が外れてしょんぼりと
それでも主の望みを
「……ヨハン
「あ、探してたんだよ、マローネちゃん!」
「……そうですか。……そんなことよりも、サフィニア様が、あなたをお呼びです……」
「うわ、暗い。……さてはサフィニア様にちょっかいかけて、追い払われたんだろ」
失礼な、とマローネが
「人は、しつこく追いかけられると
「今引いたら、それで終わりになってしまいそうなので、嫌です」
「……どっちにしろ、結果は同じだけどね」
「はい?」
「いや、こっちの話。……じゃあ、オレはサフィニア様のところに行くよ。そのかわり、マローネちゃんに、届け物をお願いしたいんだ。騎士団のジェフリーさんに、これを
ヨハンは、やけに白々しい口調で語りながら、手にしていた包みをマローネの前に
「ジェフリー……? もしや副団長と、お知り合いなのですか?」
「本の貸し借りをするくらいには、仲がいいよ。……あの人って面倒見いいから、オレが騎士を
「オレも昔、ちょっとだけ騎士団にいたんだよ。でも五年前にやめて、この
「……だから、サフィニア様はヨハン殿を、
いちばん辛い時、全てを捨てて
「本当にそうだったら、
語るヨハンの顔に、騎士への未練は見当たらない。
(たしかに、これではかないませんね……)
今日まで支えてきてくれた存在を、サフィニアはとても大切に思っているだろうし、ヨハンの思いもまた明白だ。
(サフィ様って呼んだ時、ヨハン殿、とても
相思相愛。そんな言葉がマローネの頭の中で
(サフィニア様の一番は、ヨハン殿――だから、騎士はいらないと
ヨハンはできる男だ。マローネが先日までやっていた仕事はもちろん、サフィニアの部屋にだって立ち入れる。
それに比べて、自分はどうだとマローネは
騎士にしてくれと
今の自分は、ヨハンのようにサフィニアの気持ちを考えていただろうか?
(わたしがしてきたことは、ヨハン殿の
ヨハンはマローネの沈黙をなんと受け取ったのか、気まずそうに声を上げた。
「あー、変なこと話しちゃったね。忘れてよ」
「とんでもありません、ヨハン殿。……大変ありがたいお話でした」
「え? どこが?」
「目が覚めました! わたしは、自身のことばかりで、本当の意味で騎士たり得ませんでした! 情けないことばかり考えて、お
「――はい?」
「マローネ・ツェンラッドは、自己
「いや、あの……」
「ヨハン殿はサフィニア様のところへお急ぎ下さい。預かったものは、きちんとジェフリー副団長へお渡ししますので!」
「あ、うん、よろしく頼むよ。それにしても、君――
ヨハンが
「……あとはあの人の説得にかかってるけど……
「説得? 一体、どういうことです?」
「実はオレの届け物ついでに、サフィニア様からジェフリーさん
「なんと!? サフィニア様は、ジェフリー副団長ともそれほどまでに親しいのですか!?」
「サフィニア様は全然。むしろ、距離を置いてるよ。だから、こういうのは
「でしたら、責任重大ですね!」
「そうそう。包みに
「はい! 行って参ります!」
ヨハンはこの後、サフィニアの部屋に行くのだろう。ふたりの間には強い
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