第一章 私をお食べください②
一方。
奥神殿の前で、ルーが「私を食べて! 物理的に」と必死に呼びかけていたころ。
澄んだ
現在のカメレア神殿と、カメレアのまちを守護する竜神。
――名を、オルフェンという。
折りたたまれた
もっとも、持ち主が湖底にまどろむ今、それらは
が、頭部から背にかけて生える
竜神の中でも特に強大な力を持つオルフェンの姿は、力に見合って
これまで過ごした長い時の中で、出くわした人間はおろか、動物、
――〝あたまでっかちだなあ、オルフェンは。竜ってのは怖がられてこそだろ。
ほぼ
――ひどく
(今回はどのくらい眠ったか……。やれやれ、少しは回復してきたな)
水の中で、牙の
(とはいえ、やはり眠りだけでは、
さる事情により、神殿からの祈りも楽の音も受けられないままカメレアの加護を続けているオルフェンは、まさに今、ひと呼吸ごとに
竜神は、神と名のつく限り、基本的にヒトを守るもの。
だが、そもそも竜というイキモノにとって、聖女の歌や
曲がりなりにも竜神として祀られているからには、神殿に求めれば、生贄のひとりやふたり捧げさせることができるだろう。
けれど。
(それは、したくない)
なぜなら彼には、とある人間の少女にまつわる、ひとつの思い出があるためだ。
――〝助けてくれてありがとうございます、竜神さま〞
笑うとえくぼのできる愛らしい顔立ち。
舌ったらずな幼い声で告げられた、純真無垢な感謝の言葉。
(まあ、覚えていないだろうな、言った本人は)
(
大切な記憶と、複雑な気持ちを押し殺しつつ。ごぼ……、と追加で水の
「竜神さま!」
(
オルフェンは目を
その時だ。
――ドボンッ!
水面をけたたましく割り、大量の気泡をまとって、何か小さなものが飛び込んできた。
……たとえばちょうど、人間のような大きさの。
さらに、気泡が晴れてその姿がすっかり現れれば、いよいよオルフェンはぎょろりとその
「!?」
人間のような、ではない。
人間だ。
それもまだ年若い。真っ白い花嫁衣装を着せつけられた
「……!」
考えられることはひとつ。
――自分に捧げられた、生贄だろう。
娘はゆっくりと
湖面から
衣装と合わせれば、まるで水中花のように
(仕方がないな……)
ここでは、ため息すら
オルフェンは、大きく長い首を
ヒトは
――が。
己に向かって進んでくる何ものかの存在にさっそく気づいたらしい娘は、ぱっと顔を上げて、こちらを見た。
(……美しい)
驚くほどに、
長い銀のまつげに囲まれた瞳は、
思わず見入ってしまったとたん、その手から大きな石が放り出される。 (え)
自分で重石を
オルフェンが疑問を覚えた
(! まずい)
急激に気道が引き
――急がなければ。
水中で
*****
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます