第68話 帰省(4)

 家って物は大抵見た目からグレードが決まるのだと思う。マンションやアパートが悪いと言っている訳ではないが、結果的に一軒家の方が見た目的には良い気がする。そりゃあ高層マンションに住んでいる人間を全否定する気はないけれど、一軒家に住んでいたらその土地と建物が全て自分の物だと言える訳だし――ただし、ローンがある場合も考えられるのだが――自分の城であると明確に宣言出来るのはそっちなのかもな、って思ったりするのだ。

 しかしながら、この家はぼくが今まで訪れた家の中で一番グレードの高い家であることは間違いなさそうだった。陰陽九家って、要するに昔からずっと続いている一族ってことだもんな……、当然そこにある歴史も普通の家より長いし由緒正しい何かがあるのだろう。一般家庭の歴史など砂一粒としか解釈出来ないぐらいには、大きい歴史であることには変わりない。


「しかしこれだけ大きいとなると……、地元の名士と言われても差し支えないんじゃないか?」

「ご明察。わたし達九重家に限らず陰陽九家はどれも地元じゃ知らない人は居ないってぐらいの有名具合だよ。……まあ、陰陽九家であることを知っているのは少ないだろうけれどね。普通は地元の名士、或いは魔術師の家系である……なんて思われたりするのだけれど、魔術師とは違うんだよねえ。第一、魔術師だったら魔女狩りで滅んでいるからね」

「魔女狩りは日本では起きていなかったんじゃ……?」

「正確には、踏み絵かね。ありゃキリシタンかどうか判別するためだったのだろうけれど。……でもそういったことでも淡々とこなして生き残ってきたのが今の陰陽九家な訳であって。それが出来ていなかったら今頃この国から陰陽師という仕事は消滅していただろうねえ。呪術師だって居たかどうか分からないし」


 不確定要素だということなのだろうか?

 いや……、でもそれは別に誰にだって有り得ることだと思う。バタフライエフェクトなんて話にもあるように、例え蝶が羽ばたいただけでも、歴史への影響は窺い知ることが出来ないと言われているぐらいなのだから。風が吹けば桶屋が儲かる、と同じ理論だと思う。グレードは下がるけれど。


「でも世界各地で似たような意味合いのフレーズが出ていたということは……、やはりそういった効果は世界各地の人々が考えていた一般常識である、というニュアンスで良いのかもしれない。……わたしは科学のことは詳しく分からないけれど、ドラえもんでタイムパトロールが居るのもそういう理由だったりするんじゃないかな? まあ、確かに親殺しのパラドックスだってあるぐらいだし……、人間は過去へのタイムトラベルのことは考えられても、それに対する影響ばかり考えて先に進められていないんだよね。不可能であることは分かっているけれどさ、もう少し前向きに物事を進めても良いと思うんだけれどねえ……」


 確かに人間は、物事について予想を立てることが出来る。危険予測、というのかもしれないな……。例えば車道の脇を歩いていたとするならば、急に車がそこに突っ込んでくるかもしれないし、車道の側が崖だったらそこに転落するかもしれないし、石に躓いて怪我をするかもしれない。それこそ上げたらキリがないのだけれど、こういった危険予測を考えた結果得られる道筋が安全なルートである、と認識してから行動する――人間に限った話ではない、と言われたらそれまでだけれど、少なくとも人間の知能はほかの動物よりも高い訳だし、それぐらいは考えても良いんじゃないかな、と思ったりする訳だ。それにとって代わろうとするのがロボットだったりするのだろうけれど。

 門を潜って、九重家の構内に入る。九重家の家屋までの通路は、飛び石のようになっている。何かこれって水捌けが良くなるとかそういった理由でもあるのかね。詳しいことは知らないけれど、ただ単純にレイアウトの関係とかそういうことでもなさそうだし。だとすりゃ、それはそれで問題がありそうな気がしないでもない。枯山水だって風情があるから導入――その言い方もちょっとおかしいけれど――しているようなもんだろうし。


「枯山水を馬鹿にしちゃあいけないよ。確かボードゲームが出ているぐらいには、それなりに需要があるのではないかな? ただ、それを何処まで捉えるのか……と言われたらまた別問題だけれどね。でも、あの感じからしてまあまあ需要はあるのかな?」


 そりゃ需要はあるだろう。日本文化って日本人が思っている以上に海外の人が好きになっているケースだってあるのだし。……そういやこないだクイズ番組で日本に誇れる文化を当てろ、って奴で九位がゲームだったよな。……いや、そんなことあるのか? 主要ハード三つのうち二つが国産だぞ? あ、でもソニーってもうアメリカに本社が移ったんだっけ。でも、片や家電メーカーとパソコンメーカーの一分野に対して、国産メーカーはゲームが主要産業な訳だからな。そりゃクオリティが違うのは当然だよ……。昔は国産メーカーのハードは一杯あったらしいけれどね。セガにNEC、バンダイあたりが有名かな?


「ドリームキャストは売り方を間違えたんじゃないかな、とは思いますけれどね……。需要に応えられなかったから台数が足りなくて、そのうち飽きてしまったユーザーが多発したんでしょうね。手に入らないならもういいや、みたあな。それって今のゲーム機にも適用されるんでしょうか?」

「良く警察に寄せられる意見としては、転売屋を何とかしてくれ、って話はあるわよね。そりゃあこっちだって何とかしてあげたいけれどね……、転売屋が使っているサービスの企業に何とかしてもらうよう指示するしか出来ないのよ。民事不介入って言葉も……あれ? あったわよね、確か」

「そこはちゃんとしてくださいよ。そりゃあ、エキスパートではないにせよ、ちゃんと単語の中身ぐらいは理解しないと。……まさか別の部署に異動することはないと思っているんですか?」

「少なくとも、『あやかし』関連の事件がゼロに近づいていけば、可能性はなきにしもあらずだけれど、現実はそこまで行っていないからねえ……。わたしが定年になるまでは続くんじゃない? それこそ、人間と『あやかし』の立ち振る舞いが変わっていかない限り、不可能よ」


 不可能とまで言い放たれたら、何も言えなくなってしまうじゃないか……。でもあれか。何百年も続いてきた『あやかし』との付き合い方がある日突然いきなり変わっていくなんてことは、普通に考えて有り得ないって解釈なのかもしれない。だとしたら納得だ。


「それより……、何か誰も居ないような感じがするのですが、ほんとうに誰か居るのですよね? 幾ら何でも静か過ぎませんか」

「そう? ……まあ、我が家は少しあっさりし過ぎていると言われたらそれまでなのかもしれないけれど。ただ、これが普通よ。わたしが帰ってくるのは、一応連絡をしていたとはいえ、イレギュラーなことなんだからね。イレギュラーであり続ける以上、向こうに当たり前の対応を求めてはいけない。だからこそ、姉さんの突然の来訪は、きっと本家だって青天の霹靂だと思うわよ……。そんなことなんて、今まで有り得なかったのだから。何年ぶりなのかしらね、わたし達姉妹が一堂に会するなんて。一堂に会するなんて仰々しい言い回しをしているけれど、結局はわたし達二人きりなのだし、大勢の人間が居る訳でもないのだけれどね。このご時世、幾ら家族だからとは言え、大人数の人間が集まって話をするのは宜しくないし。それぐらいは理解して……いるはずがないわよね。そんなことを理解出来ていたら、きっとフリーの呪術師なんて続けていないだろうし」

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