第60話 書庫(2)

 そりゃ、技術と知識を持ち合わせているのならそれぐらい簡単に出来るのだろうけれど……、それは同じぐらい技術を理解していないと難しい話なのだと思う。例えば自動化したとして、メンテナンスはどうなるのか――。永遠にその人がメンテナンス出来る保証はない訳だし、いつかは別の人に引き継がなければいけない時がやってくる。そのタイミングで誰かが技術を持ち合わせていれば問題ないだろうし、適切なマニュアルでも作れば良いのだろうけれど……、当然そんなことをしている暇はない。そういう煩雑な業務を減らすために自動化したのに、それを平準化することは簡単ではないし、通常業務の合間にやるとなると残業せざるを得なくなる。それだけは、出来ることなら避けておきたいことだ。


「マニュアルを作りたくても時間はありませんからね。……結果、わたし達はずっとやっていかないといけない訳です。フローが多過ぎて面倒臭かったとしても、それを直すことは難しいのですから」


 神霊保安部の部屋に辿り着くと、そこには誰も居なかった。……まさかとは思うが、またあの少年は遊んでいるのか? 仕事しろ、仕事を。


「言いたいことは分かりますけれど、致し方ないことなのですよ。実際、ここに仕事があるかと言われると微妙ですし……。うちは権力がまったくありませんからね。昔からあるというだけでやっている話ですから、管理を受け持っているだけで実際に現場に行くことは滅多にありません。逆に言えば、うちが出る時はヤバい時ですよ。虚数課とかが手に負えなくなるぐらい……ね」

「まあ、そんなことは有り得ないけれどね。そのための虚数課だ。普段は影の部隊に甘んじているけれど……、何かあった時は全力を尽くす。そうやって生きているのさ、うちはね。給料だって、大して高い物でもないし」

「……ところで今日は磐梯さんはいらっしゃらないんですね?」

「あいつは雑用だな。昨日六花が言っていたロンファイン事件について調べるよう言っておいたよ。まぁ、六花に聞けば良い話なのだろうけれど、流石に何もしないで情報だけ手に入れるのもねえ……。やっぱり、足で稼がないといけない訳だし。あ、でも探偵業にはテレワークやリモートワークが導入されつつあるんだっけ? ドローンとか使えるし、必要最低限の人員だけを現場に派遣して自分は事務所で推理する――なんてこともあるらしいよ。安楽椅子探偵の正当進化……今で言えば何て言えば良いのかね、リモートワーク探偵とか?」


 リモートワークというのも、ここ一年であっという間に導入された印象がある。まあ、ノマドワーカーってのもあったからいきなり流行った訳でもないのだろうけれど、感染症が世界的に大流行してからは一気にそちらに傾倒した。この国って、そういう緩急は激しいのだよな。だからコントロールするのが難しかったりする訳だけれど。


「……取り敢えず、部長を呼んできますね。どうせまた奥の部屋でゲームをしているのでしょうから……。多分この時間ならリングフィットですね」


 時間によってやるゲーム決めているのか?


「朝はリングフィット、昼はゼノブレイド、夜は桃鉄というローテーションらしいですよ。パーティーゲームは毎日するのは大変だと言っていましたから……、そこについては変えていると思いますけれどね。何のゲームを遊んでいるかまでは把握していませんが」


 何でいつもゲームをしている前提でいるんだよ。仕事しろ、仕事。やることないからそうしている――なんて言っていたけれど、それって最高の仕事のような気がする。だって働いていなくても、ちゃんと給料は出るんだろ?


「そりゃあ勿論……、待機時間という扱いですから。給料が出なかったら困りますね。一応わたし達は何かあった時に直ぐに駆けつけられるように待機している、というだけですから……。拘束されているということですよね、つまりは。だからわたし達はここに居るという訳です。仕事があろうがなかろうが」

「随分楽な仕事ね……。こっちが残業時間マシマシで仕事をしているというのに、神霊保安部はこうやって遊び呆けている訳か。何というか、呆れ返って何も言えないわ。こっちを手伝って欲しいぐらいね」

「駄目ですよ、それは。だってこちらは一応管理する役目を担っている訳なのですから。それが出来なければこの国は『あやかし』に飲み込まれてしまいますよ。古代から呪術師や……あの頃は陰陽師が主流でしたかね? そういう存在を管理・使役してきた存在でもありますから、その大義名分は確保していかねばなるまいと……。まあ、別に良いと思いますけれどね、完全に宮内庁で管理しなくたって。今は虚数課のような組織が育ってきている訳ですからね。だからうちも勢力を大幅に縮小しても問題ないのですし」


 小さい政府、というものがある。とどのつまり、民営で可能な限り公営のサービスを取り扱って、公営で出来ること――ひいては政府組織そのものの規模を小さくしてしまおうというものだ。それをしたところでどうなるのだ――って話ではあるけれど、案外民間でやれそうなことを公共サービスとしてやっている例はままあるもので、かつては電話や郵便、鉄道でさえ国営だった。それぞれは民営化され、NTTや日本郵便、JRに変わった訳だけれど、変わったから大幅に何かが変わったかと言われると……、あまり思いつかない。民営化したからといって、完全に国が関わっていない訳ではなく、現在も大株主であることには変わりない。


「まあ、インターネットがここまで発達してくると、小さな政府を実現することはそれ程難しくはありませんよ。この国だってマイナンバーカードを使えば証明書の発行や保険証、運転免許証の代替が出来るでしょう? まあ、未だ多くの人は国に個人情報を渡したくないという人は居ることは居ますから、百パーセント浸透させることは不可能でしょうね。マイナンバーカード一枚で役所の申請をコンビニのATMなりプリンターなりで出来るようになれば楽なのでしょうけれど、それが出来たら苦労しませんからね」


 めぐみさんが言ったそのタイミングで、奥の部屋の扉が開け放たれた。

 やって来たのは、紛れもなく少年――皇だった。


「……何だ、来ているから言ってくれれば良いものを」


 皇は欠伸を一つして呟く。その感じからするとリングフィットをしていないように見えるな? リングフィットは結構ハードなトレーニングになるとは聞いたことがあるし。ガッキーが宣伝しているから買う人は居るんだろうけれど、見た目に反してかなりハードらしいからな……。フィットボクシングといい、実際に身体を動かすゲームが流行っているのかな? プレステやXboxもあったような気がするけれど、あまりそこまで流行していないし……。ジャストダンスはそういうの使えるんだっけ? ムーブとかキネクトとか。


「そりゃあ、ゲームに馴染みのない人をゲームに触れさせるにはどうしたら良いのか……。どのゲーム会社も試行錯誤しているはずだよ、基本はね。ただし、それを見捨ててゲーマー向けのゲームに極振りするメーカーがあるのも事実。プレステ5がズッコケたのも、ゲーマーにしか見向きしなかったからだよ。まあ、一応購入はしたけれど……、今のところ日本のメーカーは注力しているようだが、売れるかどうかと言われるとはっきり言って売れる訳がない。土壌が育っていなければ、良い収穫が出来る訳がないのだからね。結局、去年の年末商戦もスイッチが圧勝だった訳だし……。今年も沢山面白いゲームが出るからねえ。モンハン然りブレイブリーデフォルト然りファミコン探偵倶楽部然り……。後はポケモンのダイパリメイクが発表されていたっけなぁ。二十五周年だから盛り上げていきます! って話なのかもしれないが、ポケッチはどうするのかね? 今ならスマートフォンと連動させるのが一番か……」


 DS時代に出ていたゲームをリメイクなり移植するのは大変そうだよな。何せ二画面で構成されているのだから……。キングダムハーツとかすばらしきこのせかいとかどうやって移植出来たのかね? 一画面を二画面にするのは、遊び方なり操作方法を追加すれば良いだけだから問題はなさそうだけれど、その逆は難しそうだ。一画面削れるということは、その分遊べる要素が減るという訳であって……。それを如何にして生かすかというのが問題な気がする。それにしても、DSが出てもう十五年以上経過しているんだよな……。だって、ダイパが出たのが十五年前だろ? 雪が降り頻るシンオウ地方での冒険はなかなか面白かったよな。ポケモンコンテストもバトルタワーも継続されていて、全国図鑑は五百近くまでいったんだったか……。ただ、バグ技も多かったような。

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