第41話 Web会議(6)
別にそこは文句を言う筋合いはないと思うけれどな……、実際そういう物を好きな人間って年寄りが多いんじゃないのか。そもそもうる星やつらだって一九七〇年代に連載されていたからざっと四十年前? リアルタイムで見ていた子ども達は最早今団塊世代になっていると思うのだけれどね。お金を落とす世代がそれしか居ない――ってことになるのだろう。
『手厳しい一言ですねー……、でもそれが事実ではあります。VTuberにお金を落とすのは、つまりお金を稼いでいるということになりますからねー。残念ながら、今の若者は身銭を切って生きているのですよ。生活費を削ってまで趣味に費やすって、それは最早病気なのかもしれませんね?』
どうだろうか。確か初任給はバブルが崩壊してからほぼほぼ据え置きなんて話も聞いたことがある。もしかしたら貧しくしたのは企業の方かもしれない。だって税金は下げてもらっているらしいからな。内部留保を増やしまくってどうしたいのだろうか。
『内部留保は必ずしも全てが現金ではありませんけれどね……。ただ、企業がキャッシュを持っていることは、かなり重要なことだとも言えますよ。だって、破産することがありませんから。一番キャッシュを持っている企業といえば何処になるのでしょうねー。任天堂とかも凄いんでしたっけ? 確か一兆円ぐらいのキャッシュを持っていて、今後十年以上一円も稼がなくても社員を養っていけるぐらいの蓄えがあるんだとか。だからリストラもしなかった。岩田社長が言っていましたね、どうしてリストラをしないのかという株主の問いかけに対して、いつリストラされてもおかしくないぐらいビクビクしながら作るゲームは人々を楽しませることが出来ない――って。あれって名言だと思いますよ? だって実際、スイッチになってから任天堂の躍進が留まるところを知りませんからね』
ニンテンドーダイレクトの案内役ってイメージが強かったけれど、そんな名言も残していたのか……。確かスイッチの完成とヒットを見ないで亡くなったんだよな。モバゲーの運営会社と業務提携した時に新型ゲーム機を発表して、任天堂は未だゲーム機のビジネスを続けていきますよ、ってことをアピールしていたんだっけ。まあ、幾らWiiUが転けていたからって、3DSは好調だったのだからゲーム機のビジネスを続けない理由がないんだよな。
「ところで……、あの都市伝説研究同好会が調べていた都市伝説ってご存知ですか?」
脱線に脱線を重ねて、最早何が正規ルートなのか分からなくなってしまっていた会話を、強引に六花が修正した。
神の見えざる手と言っても過言ではないぐらいの発言に、ユリコさんは言った。
『ああ、それなら……今まとめてあるんでちょっとお待ちくださいねー。……ええと、彼女達が調査した都市伝説は全部で五個ですね。東京の鬼門、それから――』
ようやく本題に入ってきたので、六花もぼくも安心する。このまま永遠に話し続けてしまいそうだったからな……。
そして都市伝説について話し終えると、ユリコさんはこんなことを話し始めた。
『ところで、最近女子中学生の間にこんなことが流行っているらしいですねー、ほんとうかどうかは分かりませんけれど。ええと、それも調べようとしていたんだったっけな? 多分、これから調べるかどうかは分かりませんけれどね』
「その都市伝説とはいったい?」
『都市伝説というよりはー、迷信みたいなものなんですけれど。「どんな願いを叶えてくれる代わりに、一つ生贄を捧げなければいけない」っていう話なんですよね。でも、それは生贄と言っても人を殺す訳ではなくて……、ちょっとした怪我で済む程度らしいのですよねー。そして怪我をする箇所というのは、大抵人があまり使わない場所だったりします。例えば、右利きの人だったら左手を怪我したり、逆も然りですよねー。で、その程度だったら良いのですけれど、それがどんどん悪化していくと――』
「いくと?」
『――魂ごと持って行かれる、みたいな話ですねー。まあ、何処までほんとうなのかは分かりませんけれど。しかもそれって、面白いことにツイッターのアカウントらしいのですよねー。何か願いを叶えて欲しいと思った時に、決まってそのアカウントはフォローするらしいのですよ。たとえそのアカウントが非公開だろうと関係なく。そして、そのアカウントをフォローし直して、お互いにDMが出来るようになると、「願いを叶えてあげましょう。ただし、代償を伴います」って言ってくるんですってー。それで願いを言うと、少し時間を空けることになるのでしょうけれど、願いは叶うらしいのですよね』
何かそれって猿の手みたいな話だな……。あれも願いを叶えてくれるけれど、歪曲した願いを叶えてくれるんだったかな。そこについては少しひねくれていないような気がするけれど。サンタクロースに近いのかね?
『それは分かりませんけれどー、でも実際に願いを叶えてもらった中学生は多いようで、そのアカウントにお礼を言うそうな。ただし、そのアカウントを自分からフォローしても向こうからフォローを返してくれることはありません。絶対に。向こうからフォローしてこない限り、こちらは何も出来ないのですよ。見てみます? そのアカウント。今ID送りますから』
そう言って即座にキーボードに打ち込む――タイピングがあまりにも早すぎて、何かガトリングでも撃っているような音が聞こえた――ユリコさん。そして数秒も経たないうちにSkypeのメッセージにIDが表示された。
「ありがとうございます。ちょっと見てみますね。……ジョンさん、お願い出来ますか?」
はいはい、どうせそんなことだろうと思っていたよ……。だって六花はスマートフォンをまともに操作することが出来ないんだからな。こういうのは助手の――いつ助手になったのかはおいておくとして――ぼくがやらないとね。
ツイッターのサイトを開き、検索欄にIDを打ち込む。直ぐにあるアカウントがヒットした。
「ふうん……、アカウント名は『Null』か……。これって確か空ってことを意味しているんだったっけ?」
『ゼロって意味だったかな、確か……。何でプレゼントというか願いを叶えてくれるのにゼロなのかは全然分かりませんけれどねー。まあ、多分代償を伴うから差し引きゼロって意味なのかも?』
「それはそうとして……、このアカウントは被害者が結構居るようですけれど」
被害者って。間違ってはいないだろうけれど――現在はフォロー数が百人ぐらいか。結構な数になっていないか、これ。実際どうなっているのだろうか。
『何処までほんとうかは分かりませんけれど、フォローされているアカウントの中には数日間ツイートしていないアカウントもありますね。確か一日五十ツイートもしたらツイッター廃人の仲間入りだったと記憶していますけれど、しかしながら一日もツイートしないというのは長く続きすぎですね』
それって環境の変化でツイートしなくなっただけなんじゃ?
『予兆もなく、いきなり有り得ますでしょうかねー? まあ、このアカウントについては面白そうなので今度記事にしようかな、なんて思っていますのであまりぺらぺらと喋らない方が良いですね。あ、でももし調査している段階で何か良い情報を入手したら是非教えてくださいね。情報提供料はしっかり払いますから』
ちゃっかりしているようで、しっかりしているな……。ぼくはそんなことを思いながら、ツイッターのサイトを閉じる。
情報収集も出来たようだし、ここらでお開きといったところかもしれないね。後はぼく達が二人で何とかするしかない。何せ、女子高生バンドの次の犠牲者は、もう決まっているのかもしれないのだから。
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