第42話 本日の目的

 情報収集をしたら、次は整理のターンだ。情報整理も肝心なことであって、それをしないと物事がきちんと進まない。しかしながら得られた情報がどれぐらいあったかというと……、それは未知数だな。


「最後の都市伝説がわたしは気になりますね」


 簡潔にそう言った六花に、ぼくは同意した。確かに最後の都市伝説は少しだけ引っかかる。今回のようにインターネットを使った都市伝説は多いのだけれど、それが現実になりつつあるというのは……、まるで『あやかし』の条件を満たしていないだろうか?


「このアカウントは誰が使っているのでしょうね? ただ……、危険なことはさせていないですから自殺幇助みたいなことにはならないので規約を違反してはいなさそうですけれど……、これもきっと『あやかし』になろうとしている。そして、多分あの女子高生バンドも首を突っ込もうとしていた」

「でも、スタンスが違うのはこの都市伝説だけ……じゃないか?」

「何故そう思ったのですか?」


 だって、今までの――といっても二個だけだが――都市伝説はVTuberが取り上げたことで注目を浴びて、それを依代にして『あやかし』が誕生した。

 けれど、今回は違う……。最初から知名度を持っていて、既に『あやかし』が存在してしまっている。

 どうしてこんな風にひっくり返ってしまった都市伝説が出て来たのだろうか?


「こればっかりは推測でしかありませんが……、恐らく全くの偶然ではないかと。無作為に選んでいた可能性もあります。実際彼女達が紡ぐストーリーに都市伝説が綿密に関わっているかというと、そうではありませんからね」


 そう言われてしまったらそれまでだけれど……、しかしながらそれって正しいのだろうか? 案外『あやかし』に精通している人が関わってある可能性は?


「十中八九有り得ませんね……。だって、あまりにも狭い界隈ですから、皆顔も名前も知られていますよ。全員が全員、宮内庁の許可をもらっている訳ですから……。宮内庁が元締めみたいなところがありますからね。かつては朝廷で全員宮仕えだったのを、明治維新を機にフリーにした……、それが今の退魔士の始まりでもありますから。まあ、全員が全員そうであるとは言えませんけれどね」


 退魔士というのはかなり面倒臭い成り立ちらしい……。確か陰陽師と同じだったんだっけ? まあ、陰陽師も退魔士もどれもそういった物を退治するために存在するのであって、科学技術が発達しきった今じゃあまり需要がなさそうだけれど。


「それがそうとも言い切れないのですよ……。だって、『あやかし』は未だ残っていますからね。人々が信じているのならば、それは永遠に残り続けます。平将門公の首塚だってそうですし、東京競馬場の大樹だってそうです。何でこんなところに未だ残っているんだろう、なんて思ったことはありませんか? それってつまり、人々が『あやかし』を信じているからであって、呪いを信じているからなんです。オカルトは廃れたなんて言いますけれど、だったら心霊写真の特集もホラー作品も都市伝説特番もやらなくなるでしょう? 視聴率が取れなければ、スポンサーのご機嫌取りをしなければ、テレビ局は生き残れないのですから……」


 そのテレビにも都市伝説はあるからな、有名なところだと臨時放送か……。テレビの放送が終わった夜更け過ぎに、いきなりゴミ焼却場の映像が写り始めて、そこをバックに人の名前がエンドロールよろしく流れ始めるのだという。そしてエンドロールが終わると最後にこう言って締め括るのだとか――『明日の犠牲者は以上です』と。そして実際次の日の朝刊を見ると、お悔やみ欄にその名前が載っていた……。それがその臨時放送の流れだ。

 しかしながら、これは当然嘘だと分かる。特に今は地上デジタル放送に一本化されてしまっているから砂嵐が出ることもないし、震災などの災害が出て来てからはスクランブル――つまりいつでも放送が出来る様に信号を出しっぱなしにしている――となっているからだ。

「ただまあ、テレビには不思議な話もありますからねえ……。都市伝説に詳しくなっちゃいましたよ」


 ワイオミングインシデントなんかは有名な都市伝説に入ると思うよ。アメリカのワイオミング州で発生したと言われているその都市伝説は、不気味な放送事故として伝わっている……。しかし、その放送事故ってのは何故だか出回っている映像が鮮明過ぎたり、それだけ有名になっているのに実際に見た人が居なかったりして、やっぱり都市伝説なんだろうななんて思ったりしている。マックス・ヘッドルームと勘違いしているんじゃないだろうか? あれもあれで不気味だったけれど……。


「実際、テレビやラジオは異界の電波を受信しやすいのですよ。特にアナログ放送の時代なら尚更……。今はデジタル放送に切り替わってしまったのであまりそういうのも見かけなくなりましたね。確か心霊写真が出回らなくなったのも、デジカメやスマートフォンで安易に写真を撮って加工しやすくなったからなんて言われていますねえ。何処までほんとうなのかは分かりませんけれど」

「不気味であることには変わりないな……。ブリキの迷宮でもパパが深夜のテレビで離島の高級ホテルを見つけてから物語が始まる訳だし、昔の人はテレビに何かそういう変わった物をイメージしていたのかもしれないな」


 まあ、テレビの都市伝説は思い込みが大きい訳で……。ミノケモヨダツ11ジなんてのもあったっけな。実際に多くの人が覚えている内容、人によってあやふやな内容、一人しか覚えていない内容――その種類は様々だったようで、それもまたマンデラ効果の一種であると言われていたっけな。


「人間は思い込む生き物ですから……。ただ、それにつけ入ろうとするのが『あやかし』だったりする訳で。それをどうにかしなければなりませんから、わたし達みたいな退魔士が居る訳ですよ。たまに会合も開きますし」


 会合って、退魔士だけの? そんなオカルト盛り沢山な会合を何処でやるんだよ……。古い屋敷の地下室とか?


「いえ、新宿駅前の飲み屋ですけれど」


 えらく一般的だな、おい。


「別に……、退魔士に変な期待を持ちすぎなだけじゃないですか? 実際、退魔士だって人間ですから……。皆違う攻撃手段を持っている訳で、わたしみたいに妖刀を使っているのは結構珍しいパターンだったりするのですよ?」


 そうなのか、てっきり世間知らずばかりが居るものだと……。流石に違ったんだな、少しは考えを訂正しておかないと。


「取り敢えず……、今日の目的は決まりましたね」


 六花がスマートフォンを操作して誰かに電話しようとしているようだった。

 誰かに助けを求めようとしているのだろうか? ぼくは居るけれど、『あやかし』に対しては知識がないので、もしかしたらそういう専門家を呼ぶのかもしれない。


「何をするつもりだ?」

「そりゃあ、分かっているでしょう。さっきの都市伝説ブロガーに聞いた話ですよ。女子中学生の間に広まったサンタクロース……もとい死神のアカウントを調査します」


 今はロンファイン事件も動きがありませんしね、と六花は付け足した。

 確かにロンファインの動きがないのなら、そうするしかないのだろう――そう思ったぼくは電話をする六花を他所にスマートフォンを操作していくのだった。

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