第20話 花園神社(3)
花園神社は、新宿区の中でも自然が多く残っている場所だ。正確には新宿中央公園とかがある訳だけれど、高層ビルのコンクリートジャングルの合間に突如由緒正しき神社が姿を見せると、それはそれでギャップを感じる。まあ、神社からしてみれば後から出来たのはコンクリートジャングルな訳だし、別にその辺りは気にしていないのかもしれないな。神様だって人間が豊かになるのは悪いことではないだろうし。だって、自分が作った生き物が成長するのは楽しいだろうよ――それこそ、親が子供を見るように。
「そんなことを考えているのはジョンさんぐらいですよ……。でもまあ、変わった感じはしますよね。ビルの谷間に神社があるんですからね。それも小ぢんまりじゃなくて立派な神社なんですから。ここには良く来ますか?」
そりゃあまあ、何度かね。ただ、我が家はいつも早稲田の穴八幡宮に通っている。お守りを買うのもそこだし、何か願い事をするのもそこ。何故ならそこが一番近いし、そのお守りもまあまあ有名なのだ。ただまあ、知名度的にはこちらの方が格上だけれどね。
「……花園神社は、こんなに人が居るんですね」
六花は大量の人に辟易しているようだった……。花園神社は歴史ある神社だからな、観光地としても立派に機能している訳だし、そこを利用する人は多いと思うよ。
ともあれ、これは予想外ではあった。何せ、出店も何も出ていない。けれど、それなりに人が居るのだ。感染症対策で手水舎はこちらも閉鎖中。さらにはお守りや御神籤をするところに至っては透明なシートを張って対応している。マスクも付けてフェイスシールドも付けて、さながらSWATでも見ているかのような重装備だ。
「……で、ここに来たのには理由があるんだろうね?」
「もちのロンですよ」
古くない? その表現。
「花園神社は過去に動画に出てきたメンバーがお参りをしている場所なんですよ。彼女達が向かった場所は、現実にも存在している場所であって……、そこには何かしらの手がかりを残している可能性があります。話は変わりますけれど、鬼門ってご存知ですか?」
「鬼門? 何か縁起が良くない方角のことだっけ?」
「まあ、そうですね。で、その鬼門ですけれど……実は東京にもある、なんて言われているんですよ。あくまで都市伝説ではあるのですけれど、あまりにも話されている量が多い。だから結果として多くの人が知っていることになって……、だから『あやかし』になるには充分過ぎる理由があるんですよ」
そう言われても全く分からないので、ぼくは鬼門のことを聞くことにした……。何でも太極図なるものが東京の都心のある路線と合致するのだという。
山手線は東京の都心をぐるっと一周している。そして、その真ん中には東西を蛇行しながら中央・総武線が貫いている。これが太極図を現しているのだとか。……ほんとうか、それ?
そして太極図にある二つの丸はそれぞれ皇居と歌舞伎町を指していて――、つまり百年近く前からこれを計画していて、東京に『鉄の太極図』を作り出したのだという。実際、これを作ることで戦争によって空爆を受ける危険性もあっただろうが、何故だかそれを強行した。そこからも、何故そこに拘るのかということについて違和感が浮かび上がってくる。
「で、ここからが問題の『鬼門』なんですけれど……、インターネットに『鬼門を開ける方法』と書かれた物が出て来たんです。地下鉄の駅幾つかにある盛り塩を蹴飛ばすことで鬼門を開けることが出来るんだとか。けれど、そんなもの試す人は居ない。……でも、現れたんですよ、試そうとした人が」
人生に絶望したサラリーマンだとか――その辺りなのだろうか。実際に現場に向かったその男は盛り塩を発見し、順調に進めていく。
「それで……どうなったんだ? 鬼門を開けたらどうなるんだよ」
「パンドラの箱……ではないですけれど、それに近しい物ですよね。結果的に、その人は死にました。しかも不審死と言われていますね。ただし、何処までほんとうなのかは分かりません……。インターネットですから、現実の証明をしなければ良い話です。それさえしなければ、ほんとうに鬼門を開けたのかどうかすら分かりません。鬼門を開けた証明は出来るかもしれませんけれど、鬼門を開けていない証明は出来ないのですから……。ただ、その後インターネットのメディアなどが挙ってその謎を解明しようとしましたが……、残念ながらその謎は解明出来ず。デマであるというのが、今のところの結果ではあります」
デマだというなら、今この時代でも伝わっているのは何故だ?
「そりゃあ、簡単に言えば……キャッチーかそうでないか、ということです。鬼門の開け方を聞いた人が不審な死を遂げたかもしれない、というネタと……やっぱり鬼門の開け方はありませんでした、というネタ。どちらが目を引くと思います? 何も知らない人からしたら、鬼門の開け方というオカルトに食いつくでしょうけれど、そんなものはなかったというネタについては……元々そのネタを知っていないと食いつきませんし、それが流行する訳もありません。チェーンメールと同じですよね、ほら、テレビ番組の企画で『何処までメールが行き渡るか』なんて言って芸能人がメールを書いた体で送ってきて、それを複数人に転送する……みたいな奴です」
あったな、そんなの――すっかり何処かに消えていたような気がしたよ。中学生の頃にもちょくちょくメールが来ていた気がする。人気番組の企画でやっています――とかそんな文面だったかな? ただまあ、ああいうメールが出回っているってことは一定数騙されている人は居るのだろうし……。あれって、呪いの手紙の現代バージョンだよな。今はメールよりはLINEやツイッターになるのかね。
「鬼門の開け方については分かった。……でも、それとこの動画には何の関連性が?」
「どうやら彼女達、学校では『都市伝説研究同好会』なるものをやっていたそうなんですよ」
そりゃあまた、胡散臭そうな名前だな。
「胡散臭いか胡散臭くないかは別として……、そこでは数多くの都市伝説やフォークロアを調べていたらしいですよ。有名な物でいえば、キットカットのロゴが違う風に見えていたり、実際に生きている人が亡くなっていると思い込んでいたりとか」
そりゃあ都市伝説じゃなくてマンデラ効果じゃないか……。ネルソン・マンデラという実在の人物が、未だ生きているのに亡くなっていると思い込んでいる人が多かったとか何とか。それでその名前が付けられたんだったかな。アニメでもあったそうだよ、それ。ある国民的アニメでラストが地球の模型が割れて中から血のような物が出て来て、二人で号泣する――みたいな。確かタイトルのカタカナがある言葉を崩しているようにも見えるから不気味なんだったかな。でも、見たことはあるという人が沢山居る割には映像が出回っていないし、それについては勘違い――というのが正しいのだろう。
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