第21話 花園神社(4)

「何ですか、それ。聞いたことないですよ……。ただまあ、そういう眉唾ものの都市伝説も良く調べていたようで、結構マイナーな都市伝説も調査していたようですね。そして、その中の一つが鬼門って訳です」


 鬼門ってマイナーだったのか? 良く分からないけれど、都市伝説にもグレードというのがあるらしい……。どうせなら色々とレクチャーして欲しいものだけれど、そうもいかないだろうしな。時間が足りないし、事件は十三日周期で起きているんだっけ?


「はい。なので、次に事件が起きるのは……二日後ですね。ですから、ロンファインを誰が手にしているのかを明らかにする……のではなく、我々はロンファインを見つける必要がある、ということです」

「うん? でも、ロンファインは架空の都市伝説で、それを所有しているのも架空の人物だとしたら……、それを手に入れることは不可能じゃないか?」


 だって、二次元の物を手に入れようとするなら、それこそ物理的に微分しないと出来ないだろう。そうなると、自分が三人に分離することになるのだろうけれど。あれ? それって結構便利じゃないか。だって、面倒ごとを一人に押しつけて、ぼくは遊びに出れば良いのだから。完璧じゃん。それなら何とかなりそうだし。


「それって絶対不公平が出て、自分同士で争うことになりそうですけれど、それでも構わないのでしょうか? いや、まあ、別に分離出来るとは限りませんけれど……」


 分からないぞ、いつかそういう技術が開発されるかもしれないだろ? だとしたら、夢ぐらい見させてくれても良いじゃないか。いつか実現するかもしれない夢物語をだ。確か、人間が想像出来ることは、必ず人間が実現することが出来る――なんて話もあるんだったっけ?


「そんなこと出来るんでしょうか……、疑問しか浮かびませんけれど。ともあれ、わたし達がここにやって来たのは、彼女達の行動を再現することです。ロンファインに、都市伝説研究同好会。その現実には存在しない二つの要素を、現実へと呼び起こす。その足がかりになるのですから」


 小難しいことを言っているけれど、要するにイタコみたいなことをするのだろう。……或いはシャーマンか? あれはどちらにせよ幽霊を人の身体に乗り移らせて、そこで喋ったりするらしいけれど。そういえば昔あったよな、イタコが出てくる漫画。最後にミカンのイラスト描いて、この作品は未だ終わっていませんよ、ってことをアピールした奴だったと思うけれど、確かもうすぐアニメやるんだったっけ。


「とにかく、目的はこれからです。そのスケジュール通りならば、彼女達はこのまま地下鉄に乗ったはずです。鬼門を確かめるために」

「……でも、鬼門は現実に存在しないんだよな?」

「どうでしょうね。ここまで騒がれている出来事です。つまり、人々が話題にして信じようとしているのであれば、それが現出する条件を満たしています。ですから、鬼門も案外現れているかもしれませんよ? まあ、ただ信じ込んだだけで出現するのなら、この世界は魑魅魍魎が跋扈する世界になっているのでしょうけれど」


 そりゃあ、アトラスもビックリだな。東京が死んでぼくが生まれたみたいなキャッチコピーの作品を作るぐらいのアトラスも、魑魅魍魎の世界になった東京を見たら、現実が追いついてしまったと阿鼻叫喚するんじゃないだろうか。まあ、アトラスといえば過去にゲームで取り上げた架空の事件が実現してしまったケースもあったようだけれど……。


「それも、一種の『あやかし』と言えるでしょうね。ただ、『あやかし』と言ってもジャンルは幅広いですから……。警察でも手に負えない事件の中に、そういった科学技術では解明出来ないジャンルの事件もあるようで、それを纏めて一冊のファイルにファイリングしているとかしていないとか言われていますね。まあ、ほんとうなんですけれど」


 ほんとうなのかよ。

 何か、そういうのって冷めるよなあ。実際にあるとしても言わないで欲しい。


「じゃあ、花園神社にやって来たのは大した理由じゃないってことだな」

「まあ、間違ってはいないですけれど……。さっきから何か結論を急ごうとしていません? 何か急ぐ用事でもあるんですか。最大限配慮はしますけれど、守る気はありませんからそのつもりで。仕事が優先ですから」

『……相変わらず、何度やったって、堅苦しいものだな、六花は。少しは緩くやってみるのも悪くないのではないか?』


 何で日本刀の方が聞き分け良いんだよ、そっちの方が疑問だわ。

 ただまあ、雪斬の声を聞くことが出来るのが現状ぼくと六花だけだから、それに対してツッコミを入れてはいけない。何故なら周囲からは聞こえない声に対して反応する訳だから、周囲から浴びる目線が痛いだろう。下手したら薬物を疑われて警察に連れて行かれる。まあ、実際は薬物なんてやっていない訳だから堂々と尿検査だってやってやるが。でも、出来ればそういうことはしたくない。社会的に殺されるからな。


「じゃあ、鬼門を見つけに行く訳だけれど……、やっぱりそこもその同好会のルートをなぞる訳?」

「そりゃあ、当然じゃないですか。そこにヒントが隠されていますからね。……と言ってもそのヒントは『あやかし』を見ることの出来る存在しか確認出来ないでしょうが。ただ、『あやかし』もひどくなってくると――具体的に言うと、強くなっていくと――あまり『あやかし』を見ることが出来ない普通の人間でも見ることが出来ます。そうなると非常に不味いので、それよりも早く倒してしまうのがベストですね」


 そういえば、どういう人が見えやすいとかあるんだろうか。良く言われているのは、子供は幽霊とか妖怪とかを見ないっていう話だ。子供は何らかの結界に守られているとか言われていて、その結界を破ることは出来ないから幽霊や妖怪は干渉出来ない、って話。何処までほんとうなのかは分からないけれど。


「それはあくまでも噂ですよ。実際は、誰だって幽霊を見ることは出来ます。ただし、霊感というステータスがありますけれど」


 霊感って、デタラメとか言われているような気がするけれど、やっぱり正しいのか。


「正しい正しくないというより……、『相性』という表現が正しいかもしれませんね。要するに、憑かれやすい人って居るんですよ。或いは、影響を受けやすい人と言えば良いんでしょうかね……。簡単に言うと、心霊スポットに行って幽霊が憑いてくる人って居ると思うんですけれど、それは心の器が限界に達しているからなんです。何処か心に余裕を持っていれば、幽霊に対しても対応は出来るのでしょうけれど、やっぱり心に余裕のない人間は居る訳でして、そういう人からしてみれば、幽霊は憑きやすいって訳なんです。自分に気をかけてくれないから、攻撃しちゃえ……みたいな。かまってちゃんって言うんですかね、こういうことを」


 そういうものかね……。

 ただ、考えとしては至極分かりやすいものだったと思う。たとえが上手いよな、普通に塾の講師とか向いているような気がするけれど。離職したら、そういうバイトやってみたらどうかな。割と稼げると思うぜ。


「何でわたしがそんなことをしないといけないんですか、意味が分かりませんよ」


 冗談だよ、冗談……。そういう冗談も言えない間柄だったか、ぼく達は。

 まあ、出会って未だ一ヶ月も経過していない訳で、こんな馴れ馴れしく話すのも間違っているのかもしれないな……。少しだけ反省する。


「もっと反省してください、二度と過ちを犯さないぐらいに……。さておき、次に見に行くのは、やはり鬼門のポイントとされる盛り塩ですか。恐らく未だ具現化の途中だと思いますけれど……、急いで見に行かないと最悪の結末も迎える可能性すらありますからね。一先ず急ぎましょう」


 そう言って六花が鳥居を潜った。ぼくも追いかけようとしたが、直ぐに立ち止まって踵を返す。……何かあったか?


「……ところで新宿駅ってどっちに行けば良いんでしょうか?」


 ぼくはそれを聞いて深々と溜息を吐く。そういや、方向音痴だったな……。やりとりですっかり忘れていたよ。でもそれなら、エスコートしてあげないとな――ぼくはそう思って、六花の前を歩き始めるのだった。


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