第17話 都庁神社(2)

「さあ、参拝も終わったところですし……、本題に移りましょうか。ちゃんと絵馬はあるんでしょうかね?」

「ところで、あの動画が出たのはいつなんだ?」


 ぼくは一つ気になった疑問をぶつけてみた。

 先程出た動画は、謎を出すだけだった。そして、インターネットでは多くの有識者が居て、謎を解き明かしていったのだという。他人行儀になっているのはぼくが実際にそれを目の当たりにした訳ではなく、六花から聞いただけに過ぎないのだけれど。


「あれが出たのは昨晩の六時です」

「え? でも、さっき『都市伝説になるかも』なんてことを言っていたような……」

「インターネットで話題になれば、どんな突拍子もない架空の存在だって、それを依代にするんですよ。……この動画はもう二十万再生を突破していて、ツイートもかなりの数があります。流石にトレンド入りまでは行っていないようですけれど……、これぐらいの人間が話題に出せば、十二分に『あやかし』となる可能性を秘めています」


 つまり、今ぼく達が追いかけているのは『あやかし』の卵だっていうことか……。だとしたら、厄介だよな。このまま順当に謎を解いていって無事に『あやかし』にならなかったら、それはそれで骨折り損のくたびれもうけだし、かといって『あやかし』になるまで待っていたら、被害が出る可能性は大いにある。この前の団地のアレぐらいなら未だ何とかなりそうだけれど……。


「一応言っておきますが、あの団地で遭遇した『あやかし』とは比べ物にならないぐらい強いと思いますよ、もし昇華したらですけれど。何故なら、一度に大勢の人が、それも全国規模で話題にしているのですから。一方、あの団地の都市伝説は時期こそは長いものの、あの団地に住んでいる人間の大半しか噂は出回っていませんでした。だから、苦もなく倒せた訳ですけれど……、流石に今回ばかりは昇華してしまったら、厄介なことになりますね」

『……わたしはどんなものだって斬ることが出来る。それが刀剣として生まれた使命なのだからな。だが、それでも限界はある。限界を突破することは、並大抵の努力では出来ないし……、それにわたしだけではどうすることも出来ない。それこそ、六花が成長しなければな』


 雪斬は喋る日本刀だと分かっていても、いざこう話題に出てくると少しおっかなびっくりしてしまう。いやいや、日本刀が喋るとかそれをもし誰かに言ったらそれこそ病院に連れて行かれる。或いは何かしらの薬物の使用を疑われるだろうな。普通の精神なら無機物が喋ったなんてことは絶対に言わないだろうし。


「で……、この絵馬だが」


 絵馬は結構多く結ばれていた。内容は普通に学業のことや結婚のこと、生活のこと……その種類は様々だ。正直、都庁の中にある現代社会と迎合した神社よりも、古くからある由緒正しき神社に行った方が願いは叶いそうではあるけれど。ちょっと行けば明治神宮とか東京大神宮とかあるし、日本橋のビル群のど真ん中には福徳神社とかある訳だからな。まあ、案外願いが叶うとか叶わないとか、そういうことは願った本人の問題であって、別に何処で祈願しようが変わらないのかもしれない……。願うということは、それが成功するために努力するのは当然のことであって、果報は寝て待てみたいなことはないはずだ。実際には何も努力しないで成果を勝ち取る人も居るんだろうけれど、そんなのは一握りだ。一万人に一人居れば良いぐらいの。


「あ、ありましたよ。……いやー、結構見つかりにくいものですね」


 人の願い事をこうまじまじと見ることでもないし見るものでもないのだろうけれど、それは結構あっさりと終わりを迎えてしまった。

 六花のところへ向かうと、そこにはこう書かれていた。


「ロンファイン事件が終息しますように……って、何だこりゃ?」


 ロンファイン事件って、あくまでその動画やツイッター――キャラクターが住んでいる『世界』で起きた事件だったよな。この世界ではそんな事件は起きていないはずだし、仮にそのことを一切知らない人からしてみたら、ロンファイン事件という事件が実際に起きているのだな、なんて思い込むに違いない。人によってはそこからインターネットで検索するかもしれないし、そこからこの動画に辿り着くかもしれないよな。プロモーションの一環と割り切ったら、案外良いプロモーションなのかも……。


「良い訳ないでしょう。これが神社の許可を取っていれば別でしょうけれど、多分取っていませんよ。というか……、神社にこれからファンが続々と押し寄せるでしょうね、ほら」


 そう言って六花はスマートフォンの画面を見せた。あれ? こういう機械には疎いって言ってなかったっけ?


「お気に入りに登録してあるので、直ぐに見ることが出来るんですよ。高度な操作はこれっぽっちも出来ません。……で、それを言いたいんじゃなくて、この画面ですよ」

「画面? ……ツイッターだろ、それもあの動画に出て来ていた女の子の」


 そこにあったのはツイッターのプロフィール画面だった。ヘッダーは花園神社で、アイコンは3Dで描かれたキャラクターになっている。しかし、概要欄に書かれている言葉だけを見ると、全く彼女が架空の存在であるとは思わせないようになっていた。


「最新のツイート……、ほら、『願掛けに行ってきました』って書いてありますよね?」


 確かに……。そこには六花の言った通り願掛けに行ってきた旨と写真が合わせてツイートされていた。写真は今ぼく達が見ている絵馬を映していて、投稿時間は五分前になっている。


「流石に、写真を撮ったその場所で投稿……なんてことはしないでしょうが、最近に絵馬を結んだことは確かでしょう」

「何でそんなことが言えるんだ?」

「これもあくまでインターネットのことを鵜呑みにしただけですが……、昨日時点では都庁神社にこのような絵馬はなかったそうです。現地に行った方がそう呟いています」


 行動力凄いな、インターネットの民。

 いやまあ、普通に考えて、いくらツイッターに張り付いているからといって、彼らが仕事をしていないとは言い切れないんだよな。学生かもしれないし、フリーランスかもしれないし、テレワークかもしれないし……。特に昨年感染症が大流行してから大幅にテレワークが国を挙げて推進されていったこともあって、東京から通勤列車という概念が絶滅危惧種になりつつあったりする。それもテレワーク推進のために国が大量の予算を投じたからであって、当時の総理大臣――と言っても今も同じ――はこの国をデジタル立国にするなんて言っていた訳だけれど、何だかんだ行動で示さないと国民は評価しないよな。まあ、どう舵を取ったってクレームの如く文句を言う勢力は居るし、国会の場を自分の行動を示すパフォーマンスの場とでも勘違いしている国会議員も居るのだから、案外国会は進行が予定通りに進まない。パフォーマンスするぐらいなら、結果で示して欲しいのだけれど、今の立場から離れたくないのだろうな……。ぼくが選挙権を手に入れたら、そういう議員には絶対に投票したくないな。


「ともあれ、謎はこれ以上進展しそうにありませんね……。となると、次に向かう場所はただ一つ」


 踵を返し、六花は歩き出す。


「え、え? まさか未だ何処か行くところがあるのか……? でも謎はこれで解決しているし、ロンファイン事件も進展していないんだろう?」

「そのロンファイン事件をどう解決するか、ってところですよ。わたしはサムライですから、探偵のようなことは出来ませんが……、真似事ぐらいなら出来ます。今は散りばめられた証拠から、新たな糸口を見つけなければなりませんし」


 結構楽しんでいるのか、これ。


「楽しむというよりかは仕事の方が強いですけれど……、さ、行きますよ!」


 御神籤を引いてみたかったのだけれど、ここについては致し方なし。まあ、どうせまた来ることは出来るだろうし。そんなことを思い浮かべながら、ぼく達は足早に都庁神社を後にした。

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