第三章 東京都心の鬼門

第18話 花園神社(1)

 再び、ぼく達は移動し始める。目的地は六花に伝えてもらうはずだったのだろうけれど、肝心の彼女は何も教えてくれない……。一昔前なら目的地までの切符を買わないといけないからそこで判断出来るのだろうけれど、今はICカードが流通しているしそれすらもスマートフォンで管理出来るので、結局のところ切符を買わなくても良いのだ。それはそれで不安だけれどね。いきなりワンボックスカーに連れ込まれて海外に飛ばされたりするよりかはマシか。腹を割って話してくれると良いんだけれどね。

 とまあ、都庁前駅に向かうものだと思っていたのだけれど――六花は駅の改札に入らないでそのまま地下通路を邁進していったのだった。電車に乗らないで、いったい何処へ向かうつもりなんだ? もしかして徒歩圏内に次の目的地でもあるのか?


「彼女達は仮にも新宿区に住んでいた人間ですよ。そりゃあ、電車に乗れば何処でも行けるからその縛りは意味がないのかもしれませんけれど……、でも、それは忠実に守っていますね。学校の名前は、四谷第一高校だったかな?」

「四谷に高校なんてなかった気がするが……」

「だからフィクションなんですって。実際に学校のホームページも作られているらしいですが、そこではあまり情報発信していないようですね……。ただ、ロンファイン事件が起きてから学校説明会は中止に追い込まれています。まあ、それも設定ですけれど」


 でも実在の地名を組み込んだ架空の学校って……。普通に騙されて入学手続きとか取ったりしないのか?


「そこは一応フィクションであると明記されているようですよ。……ってか、ほんとうの学校なら怪しさ満点ですよ。校長の肖像画もちゃんとした学校の画像もないんですからね。そこは良く見ると直ぐフィクションだと分かるようにしているのかも。まあ、あくまでもわたしの考えですけれど」


 つまり、違う考えの可能性もある訳だ……。ぼくからしてみればそんなの関係ないとは言いたいところだろうけれど、物事を解決していくためにはそういうところも一つずつ解決していかねばなるまい。謎は謎のままにしておいては困る。確か謎が解決されて、一応の解決にはなったけれど、そこから進展がなかったんだっけ?


「そうです。事件は十三日周期で起きていて、明後日でちょうど前回のロンファイン事件から十三日目……。もしかしたら、誰かがロンファインを手にしているのかもしれないし、手にしていないかもしれない。それは流石に明言出来ませんけれどね。何せ証拠も見つかっていませんから」

「けれど……、今はSNS全盛期だぜ? そんな不思議な物を拾ったら、投稿とかするんじゃないか? ツイッターに限らずインスタグラムやLINEだって有り得そうなことだけれど」

「もしほんとうにそうだったらキリがありませんよ。……ただまあ、何処まで明らかにしているかもはっきりしていませんからねえ。ロンファインの製作者みたいな立ち位置に居るアカウントも見つかっていますし。死神アカウントなんて呼ばれていますよ。何でも、ロンファイン事件に関わった人間をフォローしていたそうで。しかし、それ以外の反応は一切なし。……はっきり言って、不気味ではありますね」


 ぼく達は歩きに歩いて新宿駅まで戻ってきた。ここから何かに乗って移動するのだろうか――あれ? でも、さっき新宿区が舞台って言っていたから新宿区から離れることはないのか?


「そろそろ何処に向かうのか教えてくれても良いんじゃないか? いきなりサイコロを転がして壇ノ浦リポートとかはしたくないぜ?」

「花園神社ってご存知ですか?」


 ぼくの渾身のボケをスルーしておいて、六花はそんなことを言い出した……。知っているよ、知らない訳がないだろう。

 花園神社は、新宿区でも随一の神社だ。たまに地方の人は靖国神社と勘違いするケースがあったりなかったりするが、明確に違うのは奉っている神かな……。靖国神社は確か戦争で亡くなった兵士を奉っているんだったかな。それが問題になってたまに海外から文句を言われることもあるらしいけれど、亡くなった人を偲んで何が悪いんだろうね。過去を振り返らないよりはマシだと思うのだよな。

 花園神社は酉の市が人気で、ぼくの家族も毎年行っていた。去年は流石に感染症のリスクがあるって話だったから自粛したけれどね。お守りはいつも早稲田の穴八幡宮で買うのだし。一陽来復という、有名なお守りで――親戚一同欲しいためにわざわざ東京まで上京してくるぐらいだ。去年はそうも行かないので、郵送で送ってあげたけれど。流石に五十個も買っていると業者だよな……。父親が買っていたはずだけれど、何か言われた時どう返しているんだろう。今なんかはフリマアプリで転売するケースもあるから、そういう説明を受けたりしているのかな。


「花園神社には、動画に出て来たメンバーが三杯しています。確か初詣だったかな……。ほら、人数制限がかけられてニュースでもやっていましたよね?」


 あれのことか……。確かに一月一日に各地の神社をリレーで中継するニュース番組――ワイドショーの方が正しい言い回しかもしれない――では、東京代表として明治神宮と皇居、そして花園神社が出ていた。他には鹿島神宮に伊勢神宮に出雲大社も並んでいたけれど、今年は県外への移動を自粛するよう言っていたものだから、あまり人出はなかったらしい。GOTOトラベルも何処へやら、という感じだ。感染が拡大しているから、致し方なしではあるのだろうけれど、観光地で飯を食っている人からしたら大問題だよな……。特にこの時期は神社に行くと出店が多く立ち並んでいて、特に安くもない食べ物や飲み物が売られている。でも、何故だか人間ってそういうところで売られている物に手を出しがちなんだよな。結果、割高だと分かっていながらそこで買い食いしてしまうのだ……。これならお小遣いが貯まる訳がない。


「花園神社は結構良い神社なんですよね。わたしも何度も行きました。けれど、人が沢山居ますからね。人が居るところは好きじゃないんです。かといって深夜に巡るのも悪いですし……」


 神様が寝ている時にお参りなんてするもんじゃない、とかどうとか聞いたことがあるけれど……、それってほんとうなのかね。監視カメラとか警備員を置きたくないからそう言っているだけだったりして。


「それは分かりませんよ。けれど、神社としても明るいうちに来てもらいたいのが本音でしょう。だって暗い時に来られていたら分かりませんからね。それに、御神籤やお守りも販売出来ませんから……、利益的な問題もあるのかと」


 それを言っちゃうとお終いだよな……。でも、宗教法人って非課税なんだろう? インターネットの知識の受け売りだけれど。

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