第15話 都庁

 ぼく達を乗せた電車は、都庁前駅に到着した。大江戸線の中心にある駅であり、光が丘方面と環状線部分に出る電車がそれぞれ行き交う場所となっており、四本ある線路のうち真ん中の二つは行き止まりという扱いになっている。一応繋がっているんだったかな? ただ、ここから直通して光が丘方面に向かったりすることはなかったはず。


「で……、結局都庁前までやって来たは良いけれど、何か目的でもあるのかい?」

「謎解きの話がありましたよね」


 ああ、そういえばそんなこともあったな。でもそれと都庁前に何の関係が?


「謎を解き明かすと、都庁が出てくるんですよ。東京にある二つの赤い塔ってね」


 赤い? 東京タワーなら分かるけれど、東京タワーは一本しかないしな。もしかして、何か違うことと勘違いしていないか?


「何故三十三年前に存在しなかった東京都庁が謎解きに使われているのか、という疑問は残っていましたけれど……。結局、謎を解いた以上はそこに向かわねばならないだろうと言った訳です」

「そこに向かって、何があるんだ?」

「都庁神社ってご存知です?」


 都庁神社?


「何でもオリンピックが終わった後も、観光地として都庁を使ってもらいたいなんて言うことで、神社を作ったらしいんですよ。祭っているのは、オモイカネだったかな……。知識の神として有名でしたね。それを祭っているそうで、何でも学業成就ならここにお参りに行こう、みたいな感じに仕立て上げようとしているそうです。何処までほんとうかどうかは分かりませんけれど」

「そんな思惑があったのか……。それはさておき、都庁神社に何の用事が?」

「都庁神社って、神社なので願掛けが出来るんですよ。都庁限定の『トーチョくん』なるキャラクターが描かれている絵馬があるそうで、それを使うことが出来るんですよね。それで、謎を解いたら出てきたのが、その絵馬に願掛けするってことで」

「でもそれっておかしくないか? ロンファイン事件はさっきの話が確かなら……、三十三年前に起きたことの再来ってことだよな? どうして三十三年前には影も形もなかった都庁舎の、つい最近出来たばかりの神社にお参りに行くという答えになるんだ? それ、絶対今になって謎を作り上げたよな。或いは、そういう風に誘導していた可能性すらある」

「まあ、何処までほんとうかは分かりませんけれどねー。そういうことでわたし達が調査に来たって訳です」

「調査……って。何のために?」

「いやいや、分かっていて言ったんじゃないんですか。都庁に向かいます。そして……絵馬を見るんです。絵馬にはきっと、何かしらのエネルギーを観測出来るはず。それを『雪斬』に感じてもらって……次の目的地を探します」


 そうは言うものの……、都庁って都知事とか居るから最高級のセキュリティが施されていると思うのだけれど。そこに日本刀を持った怪しい人間が入ることが出来るんだろうか?

 ちょっと、というかめちゃくちゃ不安だ。


「不安にならないで下さいよ。それと、安心して下さい。これには、『人払い』を模した……ちょっと変わったまじないをしています」

「呪い……ね。別にぼくは構わないのだけれど、不審者扱いだけはご勘弁願いたいね。出来れば普通にスムーズに通過しておきたいものだ。ここは東京のど真ん中。ここが何かあったら、この国にとっても一大事だろうしな」

「寧ろわたしはそういうトラブルを何とかする立場なんですけれどね……」


 それはそれ。これはこれ。仮にそう言ったところで納得してくれる人が居るのか……。あ、でも確かさっき六花は国に認められている、なんて言っていなかったっけ? その証明書でも出せば何とかなるんじゃないか?


「それはなるべく出したくないんで……、一応表向きの証明書ではないのですよ。多分都知事レベルの人なら把握しているかもしれませんけれど、下っ端の警備員に見せたところで偽装を疑われてお終いです。面倒臭いやりとりをして解放されるかもしれませんけれど、いちいちあちらの力を借りるのも嫌ですからね」

「あちら?」

「国ですよ、国。最近、総理大臣が変わったから面倒になったんですよね。デジタル技術を推進するっていうから従来の手続きが完全に撤廃されてしまって……。パソコンを持っていない人も居るのに、それを配慮しないんですから……。所詮、デジタルに疎い人がやることってそういうものですよね」


 それは六花も人のことを言えないような気がするけれど――それについては同意しよう。何でもかんでもデジタルを押しつけるのは良いことでもない。やるとするなら、的確なやり方で的確な期限で行うのが当然のことであるし、それをさも自分は分かっているという感じで進めていくのが一番たちが悪い。少なくとも、あんまり把握していない人が全体の管理に回るとなると、それはつまり自分が知らないことについてはおざなりにする可能性が高いという訳であり、それをすることがあまりにも危険過ぎる。しかしながら、指摘しようにもデジタルに精通している国会議員があまり居ないのだから、それが指摘出来ないだろうし、票田もあまり把握していないのだから、それよりも分かりやすい話題でセンセーショナルに攻撃した方が良い、って考えなのかもしれない。それをするから益々若者が政治に関心を持たないと思うのだけれどね。


「でも、それをするということは、自分から政治はどうでも良いよ、と言っているようなものですし……。それは良くないと思いますよ。やっぱり、政治に口出しするなら最低限選挙には行っておかないといけないような気がします。……わたしは未だ行ける年齢ではありませんけれど」


 そりゃあそうだ。ぼくもこう豪語してみたものの、選挙権がある訳ではない……。デジタルなり何なり自分の意見を貫きたいところではあるけれど、選挙権がない現状は自分の意見を言うことも押し通すことも出来ない。するとしたら、ツイッターで色々意見を言うぐらいだろうか。煙たい人しか集まらないような気がするけれど。

 ともあれ、都庁への潜入は、ぼくが不安に思うこともなく、あっという間に、あっさりと通過してしまった。警備員はギターケースを気にすることもなかった……。何だよ、あれで警備員って言えるのだろうか。明らかに怪しいし。金属探知機すらないから、中身を判定することも出来なかったノだろうけれど、仮にそれがあったら判明していたのだろうか?


「それは無理ですね。人払いは科学技術すら超越しますから。仮に金属探知機? とやらがあるとしても、人払いはそれを無視してしまうのですから。石ころ帽子みたいな感じですかね」


 何でいきなり二十二世紀のひみつ道具が出てくるんだよ。しかもまあまあマイナーな。でも大長編では出てきているし、そんなにマイナーでもないのかな?


「ひみつ道具は誰でも分かりますからね。でも、二十二世紀がほんとうにああいう世界になるんでしょうかね? あと一世紀もありませんけれど」


 知るかそんなの。漫画が制作された時代からすると二十二世紀というのは途方もない未来であるから、そういうものがあるだろう――なんてことで考えられたらしいけれど、その後結構実現出来ているものもあるしなあ。糸電話の糸なしバージョンなんてあったような気がするけれど、あれって要するに携帯電話とかが該当するだろうし。案外天国でもう少し近くにしておけば良かった、なんて思っていたりしてな。

 

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