第14話 鉄道談義

 旅行に出かけるのは、きっとしばらくは難しいだろうな……。ワクチンが開発されれば良い方向に進むかもしれないけれど、それを政治のカードに使おうとする国家は――必ず出てくるだろうし。もしそれをされたら、ノーと言えるかどうかと言われると、難しいところもあるだろう。人命が大事なのは確かだが、それ以上に国家を維持することが大事かもしれないからな。


「旅行をしたくない側の人間だったりするのかなー? ジョンはVRゴーグルつけて『ここが襟裳岬だー』なんて言って室内で不審人物扱い受けたいのかな?」

「そういう価値観を持つ人間が居る以上は、VR技術も前には進まないだろうね……。とにかく、旅行はぼくはあまりしたくないし、家族も行きたがらないから……。最後に行ったのは何処だったかな。確か近鉄の特急列車に乗りに行ったのが最後だったかな……」

「えー、それって『ひのとり』だったりする? だとしたら羨ましいなー。わたしもスマホで予約しまくったけれど、なかなか取れなかったのよね。で、何処から乗ったの? どうだった?」

「何処から、って……。確か名古屋から大阪難波駅までだったかなあ。結構快適だったよ。リクライニングとか凄かったな。近鉄ってあんまり乗ったことないのだけれど、時間がかかっても良いなら名古屋・大阪間の移動には便利かもね。ただ、何処かのトンネルで携帯電話が圏外になったのは困ったな……。ちょうどメールを受信していたのだけれど、そのせいでメールのデータが中断してしまったんだよ。あれは困ったよ」

「ああ、東青山とかあの辺りのトンネルよね? あれは確かに気になるわよね……。九十九パーセント以上カバー出来ていますよ、なんて宣っている携帯電話会社もあるけれど、あれって一種の詐欺なんじゃないか、って思ったりするよね。だって、結構な割合で地下に潜ると電話が途切れたりするよ」


 それは別にぼく達がああだこうだ言う必要もないのだろうけれど――。もしかしてSNSで言えば、そこで拾ってくれたりするのかな? 何か商品名を呟くと作者の人が反応を示してくれて、場合によってはリプライやリツイートしたりするらしくて、恥ずかしがり屋の人にとってはそんなことは余計なお世話だなんて言ってしまうこともあるらしいけれど、果たして何処までほんとうなのやら。

「……まあ、あれは乗ったよ。エヴァンゲリオン仕様のミュースカイ。知っているかな、ミュースカイ。名鉄の特急列車なんだけれどね、中部国際空港セントレアから新鵜沼とか新可児まで走っているのだよね。アナウンスも確かミサトさんだったような気がするよ。装飾も完全に初号機だったし。あれ、絶対映画公開との相乗効果狙っていたよね」

「それは別に言わずとも分かっていると思うよ……。実際、去年は結構キャンペーンが繰り広げられていて、ああほんとうに公開するんだろうなあ、なんて思っていたら公開延期だった訳だし。あれで結構悲しんだ人も居るんじゃないかな? もっとも、昔から見ていたファンからしたら『延期は日常茶飯事』なんて言っていたけれどね」

「まあ、わたしはゴジラも好きだけれどね」


 今ゴジラの話はしてねえよ。

 いや、近くて遠い……かな?

 そんなことを言っていたら、新宿西口駅に到着した。新宿西口駅は、小田急百貨店の最寄り駅だったな……。新宿駅は幾つも駅があるから、ダンジョンみたいに通路が入り組んでいるのだという。それも東西自由通路が出来たから少しは楽になったなんて話も聞いたことがあるけれど、何処までほんとうなのやら。


「あ、じゃあわたしはここで。小田急はわたしを待っているのだー!」


 最後まで騒がしい女だ……、そんなことを思いながらぼくは手を軽く振って湯布院を見送るのだった。

 ドアが閉まり、電車は終点の都庁前駅に向かって走り出す。都庁前駅――文字通り都庁の目の前にある駅で、だけれど新宿近辺の駅は地下道で繋がっているために、歩くことが出来るならJRの新宿駅から歩いちゃえば運賃がその分お得だったりする。確か西新宿五丁目駅辺りから新宿三丁目駅まで繋がっていたんだったかな? 流石にそこまで歩く気にはならないが。


「何度か新宿駅は降りたことがありますが……、あれは迷路ですね! 何処に何があるのかさっぱり分かりません。というか、この街に住んでいる人は皆あれを理解しているのでしょうか?」


 知らないよ。少なくとも、ここを利用しているサラリーマンや学生は嫌でも理解しているだろうよ。雨の日は濡れないで目的地まで行けるし、信号を気にしなくて良いから案外楽かもよ? ぼくは全然覚えていないけれどね。新宿駅といえばあまりに迷路過ぎて、異世界への入口すらあるんじゃないかってネタにされたこともあったな……。実際、ほんとうにあるのかは知らないし、あったら大ニュースだと思うけれどね。


「東京駅もこんな迷路だと聞きました。何でも歩いているうちに全然違う駅に辿り着くとか」

「ああ、東京駅と大手町駅のことだな……。あそこも細長くて、距離が結構あるんだよな。気が付けば東京駅の地下街に辿り着くんだよ。それまでは殺風景な通路をひたすら歩くものだから、ポケモンストアが見えてくると、やっと東京駅だって感じがするんだよな。あれ、もう少し何とかならないのかな……。従業員通路を歩いている感じがして、好きじゃないんだよね」

「そうなんですか……。東京に住んでいる人の悩みはなかなか分かりませんね……」


 こんな悩みを抱えているのは、結構居ると思うぜ。ただ都民って、東京の蜘蛛の巣のように張り巡らされた交通網に満足しているのと、駐車場代が田舎のアパート一ヶ月分ぐらいの高さだから、自家用車を持ち合わせていないんだよな。いや、持っている人は居ると思うけれど、交通手段が皆無の田舎と比べたら雲泥の差だと思う。田舎は駐車場代が安いし、娯楽も少ないから、自ずと高校生になったら薄ぼんやりと免許を取ろうとしたりするんだろうな。そして気がついたらドライバーになっている、と。東京に住んでいたらそんな悩みは必要ないからな。そりゃあまあ、仕事で免許が必要だって人も居るだろうし、自動運転もまだまだ改良の余地ありってところだろうから、自動車免許の需要は高止まりなんだろうけれど、金銭面で自由になれないから、車は持っていない――なんて家庭も珍しくない。若者の車離れとは良く言ったものだと思う。


「車の免許って、大変なんですか? 車ってあの……鉄の塊ですよね?」


 車を鉄の塊と言う人間を初めて見た気がする。因みに道路交通法では車とは必ずしも自動車のことを指すのではなくて、自動車に軽車両などを加えたもののことを言うらしいんだったかな。だから軽車両――つまり自転車など――も含まれているので、うっかり車は通行禁止のところを自転車で通ってしまったら法律違反で切符を切られかねないのだ。

 

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