第60話 この道の先に。その8
トントン……。
「蓮斗くん、由樹と話は終わったかな?」
「あ、お父さんちょっと待って!」
俺は勢いよく由樹を引き寄せると、元の位置に座り直した。
由樹は乱れた服や髪を直している間、父親が部屋に入らないように戸を押さえていた。
……ハハハ、ここは由樹の実家だった。
しかも、両親を待たせたままだったんだよな……。
思いが通じたから、つい……我を忘れてこのまま燃え上がる所だった。
……危なかった。
「……どうやら話は済んだようだね」
健二さんが俺と由樹を見て何かを察したらしく、苦笑しつつも部屋に入ってきた。
「健二さん、良かったですね」
結花さんは、健二さんにこれで安心ですねと声を掛けていた。
由樹と俺の想いが通じあって、これで……一安心したかったが、一番大事な事がまだ残っているという事に気付いた俺。
和やかな雰囲気の中、俺は健二さんに向かって正座をし、話し掛けた。
「あの、健二さん……いえ、由樹さんのお父さんにお話があります」
「……ん?蓮斗くん、急にどうしたんだ?」
「蓮斗さん?」
健二さんも由樹も、キョトンとした顔で俺を見たが、この状況を理解した結花さんだけがにっこりと笑って俺を見ていた。
「由樹さんと結婚させてください。俺が必ず幸せにします!」
「お父さん、私……蓮斗さんとずっと一緒にいたい。だから、蓮斗さんのお嫁さんになってもいい?」
健二さんに頭を下げた俺に続いて、由樹が父親に自分の気持ちを話し、許可して欲しいと訴えた。
「あぁ、蓮斗くん……顔を上げて。私こそ、君にお願いしたいんだ。由樹を頼んだよ。必ず幸せにしてやって欲しい」
「はい、勿論です。ありがとうございます」
「お父さん……ありがとう」
由樹は号泣してしまった。
しかし、すぐに結花さんが泣いている由樹に近寄り、お祝いの言葉と共に優しく抱きしめた。
由樹の母親が生きていたら、きっとそうしていただろうな……。
健二さんは泣くのを見られたくなかったのか、立ち上がって席を外してしまった。
それから俺達は、新婚夫婦の邪魔をしたくないと……伊藤家での宿泊を丁重にお断りし、駅前のビジネスホテルに泊まった。
そして、次の日の早朝……健二さんと結花さんに挨拶すると、始発の電車に乗って皆が待つ町へと急いだ。
「蓮斗さん、私……幸せです。2年前、別れてしまってから、とても淋しくて。何故離れてしまったんだろうって後悔していました。私達はもう会ってはいけないんだと思い込んでいたし。それなのに、まさか……蓮斗さんと再会できて、プロポーズまでしてもらえたなんて、夢のようです」
「そうだな。俺も由樹に会えなくて辛かったよ。でも、きっといつかは会えると信じていた。由樹が俺を想っていてくれるなら……別れてしまった2つの道はいつか交わると、そう思っていたからな」
そう、俺は……ずっと信じていた。
時には不安になった事もあったが、こうして由樹と繋がる事が出来たんだ。
これから先……俺は何があったとしても、由樹となら乗り越えられる。
そして、由樹や店のスタッフと楽しく幸せに暮らしていくだろう。
ん?
何処からそんな根拠が?だと……?
俺と由樹は、祖父が建てた『静かな森の喫茶店。(『Coffee shop in a quiet forest.』が縁で結ばれたんだ。
だから、こうして再び帰って来れた。
そして、俺達に素晴らしい縁や幸せをくれた。
森や店を愛する限り、それは続くに違いない……そう感じるんだ。
「あの、伯父さん……このお店って何処にあるんですか?」
「あぁ、それか……コイツの実家だよ。な、蓮斗?」
「あ、はい。師匠、そうです」
「そうなんですか。凄く素敵なお店ですね」
これは、初めて由樹が俺に話し掛けた話題。
俺が以前……働いていた師匠の店に飾られていた絵。
俺達が再会した、この店の絵だったんだぞ。
しかも、俺が描いた絵だし。
まぁ、由樹は忘れてしまっているかもしれないけどな……。
「蓮斗さん、皆さんが見えます!」
「あぁ、そうだな」
家の敷地に入った途端、皆が笑顔で出迎えていた。
やっと……帰ってきたな。
「由樹さん、おかえりなさい」
「由樹ちゃん、おかえり~」
「由樹、やっと帰ってきたな」
「由樹さん、待っていましたよ」
「皆さん、ただいま帰りました!」
「……おい、俺にはないのか?」
「「おかえりなさい」」
この物語は、これでおしまいです。
『静かな森の喫茶店。(『Coffee shop in a quiet forest.』は、イケメン従業員がお客様を笑顔でお迎えいたします。
そして、美味しい珈琲と美味しい料理が、お客様の心を癒し、温めてくれるでしょう。
おわり。
静かな森の喫茶店。~イケメン達に会いに来ませんか? 碧木 蓮 @ren-aoki
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