第59話 この道の先に。その7
2年前由樹に再会した時、離婚したと伝えたら……驚いていたそうだ。
「由樹は、『私、お父さんの側にいるから。1人にしておけないでしょ?』と笑ったんです。私は、そう言われて嬉しかった。なんて優しい娘なんだと……涙が出ました」
そうだろうな……。
何年ぶりかで再会して、そんな事を言われたら……俺だって嬉しいよ。
「だけど、数ヶ月経った頃……由樹が泣いているのを見たのです。私は気が付かないフリをしました。ですが、結花は……由樹の気持ちに気付いて声を掛けていました」
……由樹が泣いていた?
会わない間に、何かあったのか?
「由樹が……いえ、由樹さんは何故……泣いていたのですか?」
「蓮斗くん、貴方に……会いたいと泣いていたようです。でも、私を置いていけないと……苦しんでいました」
由樹が……俺の事を想って、泣いてくれたのか。
俺が……無理に置いていったから、由樹を苦しめてしまったのか。
由樹……ごめん、そんなに苦しめていたとは知らなかった……。
俺が我慢すれば、由樹は幸せで笑って暮らせていると勝手に思っていたんだ。
「だから、蓮斗くんに由樹を頼みたいんだ。勿論、君が由樹を幸せにするという条件付きだが。……どうだろう?」
……ん?
今のは、どういう事だ……?
「健二さん、焦らないで。由樹ちゃんの気持ちが先ですよ?まずは、2人で話をさせましょう」
いつの間にか戻ってきていた結花さんが、苦笑しつつ健二さんの暴走を止めていた。
「あぁ、そうだな。つい……焦ってしまった。蓮斗くん、由樹をここに呼んでくるから待っててくれ」
「……はい」
健二さんと結花さんは、俺と由樹が2人きりで話せるように席を立った。
由樹がここに来る。
やっと……由樹と話せるんだ。
カタン……。
居間の襖が開き、由樹がゆっくりと部屋に入ってきた。
「……蓮斗さん」
「由樹……」
ここの庭で1度見たのに、こうして近くで由樹を見ると……嬉しくて言葉が出ない。
由樹の目は涙でいっぱいになり、溢れそうになっていた……。
俺はその姿を見て体が勝手に動き、由樹を抱き締めていた。
「ゆ、由樹……」
しかし、急に我に返り……戸惑う俺。
今まで躊躇していた筈なのに、一体俺はどうしたんだ?と、自分の行動に驚き、焦っていた。
「あ、すみません」
「いや、良いんだ。俺こそ……ごめん」
取り合えず向かい合わせに座ったのはいいが、まるで見合いの場でよくある、『後は若い人達で……オホホ』みたいな、異様な空気が部屋に漂っている。
こういう時は、男から……何か切り出すんだよな?
いや、ここは見合いの場じゃないだろ?と、自分自身に突っ込み、由樹に何か話さなければと焦っている俺。
「蓮斗さん、父から何か言われましたか?」
俺を見て何か察したのか、由樹から話が切り出された。
「まぁ、色々とな」
「そうですか……」
由樹……俺と帰らないか?
その一言がなかなか言い出せなくて、この2年の間元気にしていたか?とか、父親の店で腕が上がったか?とか世間話で時間が過ぎていく。
これではダメだと思いつつも、緊張しすぎて手汗が半端無い。
また……ヘタレな男だというレッテルを貼られてしまう……。
それで良いのか……?
いや、駄目だ!
ガタッ……。
俺はテーブルに手をつき勢いよく立ち上がると、由樹のすぐ側に座った。
そして、大きく深呼吸し由樹をしっかりと見つめ……俺の想いを伝えた。
「……由樹さん、俺と結婚して下さい」
「……えっ、蓮斗……さん?」
……由樹が俺の言葉に驚いて、キョトンとした目で俺を見ている。
俺……変な事言ったか?
ちゃんと伝えたよな?
まさか、今の言葉を聞いてなかったとか……?
しまった、肝心なものを忘れていた!
俺は焦りつつも、ポケットに忍ばせていたあるモノを取り出した。
「由樹、お前を愛している。ずっと俺の側にいて欲しい……」
「はい……。私、ずっと蓮斗さんの側にいます!」
「ありがとう……」
由樹の目から涙が溢れた。
俺は持っていたあるモノを、自分の手から由樹の左手の薬指へと移動させた。
「……蓮斗さん、指輪……ピッタリです」
「良かった……」
連れて帰るという告白から、プロポーズという告白に変わってしまったが、これで一安心だよな?
あぁ……今思うと、全くムードの無いものだったが、これで由樹は俺と共に歩んでくれるんだ。
そう思った途端……急に嬉しくなり、由樹にキスをしてしまった。
由樹も俺を求めてくれた。
この2年の間の互いの愛を確かめるかのように……何度もキスをした。
そして、このままお互いの体温を感じようと、俺は由樹を畳に押し倒した……。
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