第57話 この道の先に。その5
「では、僕達もあちらに行きましょう。パーティが始まります。どんなデザートでしょうね」
「わ~い!どんな服が見られるかなぁ、楽しみ~」
「どんな料理が出るか、楽しみだな。まずは前菜から見るか」
……それぞれ楽しむ主旨が違う気がしますが、まぁ由樹さんを祝う気持ちだけは忘れないで下さいね。
それにしても、眉間にシワを寄せて由樹さんを見ている蓮斗くんが気の毒です。
このパーティが新たな出会いの場所になるように、協力しなくてはいけませんね。
「おや、貴方達も来ましたか。いつまでもこんな所で眺めていないで、行きましょう」
「……隼斗、来たのか」
さっきから黙って見ていたけど、兄さんは何をしているんだか。
あのお人好しが男性達に色目を使われているのに、行動しないなんて相変わらずですよね。
それとも、興味が無くなったとか?
いや……兄さんがそんな簡単に想いを断ち切れる性格では無いだろうな。
はぁ、全く……困った人だ。
まぁ……俺があのお人好しを義姉と呼ぶ機会が無くなるだけだから、それはそれで構わないけどね~。
パーティは、中山さんの号令で始まった。
「皆様、この度は伊藤由樹さんの誕生日を祝う為に集まっていただき、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
中山さんの隣に立つ由樹さんを、沢山の男性達が見ている。
きっと、自分がモノにしたいとソワソワしているに違いない。
パーティという名の狩り場になりそうだ。
……そう考えると、恐ろしいな。
でも、さっきの若い男性が由樹さんの側にいる限り、無理だろうけど……。
一緒に働いていた時もそうだったが、こうしてみると本当に可愛い女性だな。
俺が彼女にしていたら、ずっと側にいて別れたりしなかった。
彼女と将来の約束をしてもいないのに、離れるなんて出来ないだろ。
……なんて、俺は円子ちゃんに『愛してる』という言葉がまだ言えてないのに、偉そうな事は言えないか。
ほんと……兄弟してヘタレだな。
「あの子、やっぱり可愛いな」
「お前もそう思うか?フリーらしいし、俺狙っちゃおうかな」
「……抜け駆けするなよ?俺が先に目をつけたんだからな」
……おい、お前達が由樹と付き合おうと思っているなんて、百万年……いや何億万年かかってもあり得ないぞ。
だからそんな嫌らしい目で、由樹を見るな!
ここが由樹にとって大切な場だから大人しくしていてやるが、本来なら俺がお前達を殴り倒して、2度と由樹の前に現れないようにしてやるところだ。
「……蓮斗さんが、殺気立っていてコワイです」
「……おい、光は黙ってろ。俺だって我慢してるんだ。あの男達が、由樹に何かしてみろ……俺が出るから止めるなよ」
……こっちもコワイよ。
陽毅さんまで殺気立っていて、蓮斗さんと陽毅さんの間に立っている俺は、2人がアイツ等に何かしませんようにとヒヤヒヤしながら祈っていた。
だがその殺気は、ある人の一言によって……一瞬で消されてしまったのだった。
「突然ですが、皆さんにもう1つ……お知らせがあります。今からここで結婚式を行いたいと思います」
……何?結婚式だと!?
中山さんが、マイクで皆にそう言っていた。
もう1つの事って……これだったのか。
「えっ、もしかして……あの子が結婚するのか?」
「なんだ。じゃあ、さっきの男が旦那になるやつだったんだな。あんなイケメンじゃ俺達は勝てないだろ。はぁ……期待していたのにな」
……やはり由樹が、あの男と結婚するのか。
それでこんなに豪華な飾りや料理まで用意されていたという訳か。
突然の事で、俺の頭が真っ白になって……その後に中山さんが何か話していたが、全く入ってこなくなっていた。
「……兄さん、大丈夫ですか?」
結婚式をやると聞いてから、兄さんの様子がおかしくなってしまった。
心ここにあらず……でしょうか。
それにしても、誰の結婚式をやるのか……。
中山さんは、お楽しみにと言っていた。
でも、この場で該当するのは……やはり由樹さんでしょう。
それならここに兄さんを呼んで欲しくなかった。
兄さんの見た目は、イケメンで体格も良くて……仕事では鬼になっていますが、心はとても純粋な人なんです。
だから、報告するなら……風の噂くらいにして欲しかったです。
あぁ……始まった途端、兄さんがショックで倒れないといいけど。
由樹さんと中山さんが、私達招待客を残して何処かに行ってしまった。
結婚式の準備の為、退席したのでしょう。
この会場にいる皆は、誰が結婚式をするのか?という話題で盛り上がっていた。
有力候補は……由樹さん。
他には、近所の人とか……大穴で中山さんとか。
全く予想が出来なかった俺達は、ただ黙って事の成り行きを見守るしかなかった……。
庭の中央にフラワーアーチが設置され、そこにあった白い台から店の入口までバージンロード用の赤い絨毯が敷かれた。
暫くすると神父が現れ、白い台の側に立った。
本当に結婚式が始まるんだな……。
「ただいまより、伊藤健二と中山結花の結婚式を始めます。皆様、どうぞ中央の庭までお集まりください」
何!?
伊藤……健二?
……由樹の父親と同じ名前の新郎?
では、新婦は……中山って?
いや、同姓同名なだけだろう……。
2年前……由樹は両親が離婚しただなんて、そんな事言っていなかった。
俺の頭の中は混乱し、集まった皆も驚いている。
一体、どうなっているんだ!?
新郎である男性が、結婚式の曲と共に入場してきた。
同姓同名……かも?と疑ったが、やはり由樹の父親だった。
続いて入場してきたのは、中山さんと彼の腕に手を添えている新婦である女性。
……ん?あの女性は、この店に来た時にいた女性スタッフだ。
実年齢は知らないが、見た感じは20代くらいだ。
確か……由樹の父親の年齢は50だと聞いたが、凄い年の差だな。
「可愛い女性ですね」
「……あぁ」
愛しているなら年の差は関係ない……か。
新婦を待っている新郎の表情は、とても幸せそうだった。
新郎新婦の誓いの言葉が終わると、皆でフラワーシャワーをし2人を祝福した。
とても綺麗な光景だった……。
由樹は、バージンロードの向こう側にいて、父親と新たな母親を幸せそうな表情で見ていた。
俺も、由樹とこうして歩いている筈だったんだよな……。
あの時、由樹を連れて帰っていたら……。
いや、悔やんでも仕方がない……俺が自分からそうしたんだ。
由樹が幸せになるならと、何度でも同じことをする筈だしな……。
「この度は、おめでとうございます」
俺達は、健二さんと結花さんにお祝いの言葉を伝えた。
「蓮斗君、来てくれてありがとう。皆さんも、遠いところありがとうございました。蓮斗君、私の結婚式だなんて驚いただろ?後でゆっくり話をしたいから、パーティが終わったら時間をもらえるかな?」
「あ、はい……わかりました」
まぁ、驚きはしたが……特に話すこともないし、このまま帰っても良かったんだが。
健二さんの頼みを断る理由も無く、俺は了承してその場から離れた。
「……兄さん、良かったですね。由樹さんが幸せそうで」
「そうだな」
今まで苦労してきた由樹だが、父親のオシャレな喫茶店で働き……いきいきしているだろう。
そして、優しそうな両親に大切に育てられて側にいるなら、俺も安心して去れる。
それに、由樹にはあの男性がいるしな。
俺がここにいる理由も、パーティが終わってしまえば、無くなるんだ……。
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