第49話 光、店長代行をする。その1
ドサッ……。
「……疲れたぁ~」
帰ってきて早々、光がソファに倒れ込んだ。
おい、長距離運転して疲れたのはこっちだよ……と言いたかったが、兄さん達の事を心配しすぎて気疲れしたらしい。
少しだけ大目に見てあげましょう……。
と……思っていたのですが、そうもいかないようです。
「光、そこで寝ていないで片付けを手伝え」
「え~!陽毅さんの鬼~」
光は叫びながら外へ連行されてしまいました。
……まぁ、仕方が無いでしょうね。
兄さんと由樹さんは、ここに戻ってきていない。
たぶん、1週間以内に戻ってきてくれる……筈。
「俺達は、ここで別行動するからな?」
「「はぁっ!?」」
対決が終わってお祝いでもしようと盛り上がっていた最中、兄さんは由樹さんの手を握り、満面の笑みでそう言ってきた。
「……じゃ、店はお前達に任せた。くれぐれも俺達の邪魔はしないように」
「……すみません、なるべく早く帰ってきますね」
由樹さんが兄さんの隣で申し訳なさそうにしていた。
はぁ……。
兄さんの事だから、『対決が終わったら、二人きりで旅行でも行こう!』とか由樹さんに言ったのでしょうね。
……これは、反論したら大変なことになりそうです。
「わかりました。お店は僕達で何とかしますから、兄さんと由樹さんは楽しんできてください」
「琉斗さん、ありがとうございます!」
……いえ、由樹さんが喜んでくれるなら頑張るしかないでしょう。
「蓮斗さん、お土産待ってますからね~」
「オーナー、浮かれすぎて帰ってくるのを忘れないでくださいよ?」
「由樹さん、蓮斗くんを頼みますね」
……皆、兄さんの行動に呆れていたけど、連れて帰るのを諦めた様ですね。
皆、兄さんと長い付き合いですし、機嫌を損ねたらどうなるか把握している様です。
俺が予想するに、拒否した途端……由樹さんと逃避行とまではいかないにしても、連絡を途絶えさせて何年も帰ってこなくなるでしょうね。
「はい、わかりました」
「わかったよ……。お前達もしっかりやってくれよ~!」
『兄さん、急に元気にならないで下さいよ……』とツッコミを入れたかったが、俺達は黙って2人を見送った。
「はぁ~、疲れた……」
またまた光がソファに倒れ込んだ。
陽毅さんと剛士さんに、体力仕事を頼まれていましたからね。
一番年下ですから、頼まれるのも当然ですよね。
仕方無い……何か飲み物でもいれてあげましょうか。
「そう言えば……光、スマホが鳴っていましたよ?」
「えっ、あ~!そうだった。もしもし~瞳ちゃん、ただいま。今から行くね~!」
彼女にお土産を渡す約束をしていたらしい……。
有名店のお菓子ですからね、きっと彼女も喜ぶでしょう。
光は電話を終えると、お土産を持って家を飛び出していきました。
「光、夕飯を家で食べる時は早めに連絡下さいね~」
……これは、光に聞こえていませんね。
まぁ、気が向いたらメールでも入れておきましょう。
「ったく……光は元気だな。さっきそこで倒れていた筈なのに、落ち着いていられないのか?」
「そのようですね。光くんは、服の縫製以外……その場でじっとしていられない性分なのでしょう」
陽毅さんも剛士さんも、光の元気の良さに呆れています。
体力が有り余っているのか、それとも……彼女に会いに行けるから急に元気になったのか、謎ですね。
「それはそうと、明日から通常通り開店ですよね?誰が仕切りましょうか……」
そうですね。
適任者と言えば、年長者の剛士さんでしょうけど……。
「まぁ、ミーティングはやるとしても、俺達4人だけだしなぁ……ちゃんと決めないと大変だろ?」
ですよね。
しっかり割り振りしないと、手が回りませんし。
……そうだ!もう1人適任者がいました。
「たまには、光に任せましょうか?少しは落ち着きを身に付けないと困りますし。何かあった時のフォローは、皆でやれば問題ないと思うんです。……どうでしょうか?」
「俺は調理に入るし、全体を仕切るのは無理だが……光で大丈夫か?」
確かに、陽毅さんは厨房からは離れられないですから無理ですね。
「経験も必要ですし、試しに……という事で任せてみるのも良いですね。最終的には、光くん次第だと思います」
「そうですね、では光の返答次第ということで」
光が断るとは思えませんが、まぁ……とりあえず帰ってきたら話してみるとしますか。
「えっ、それ本当に!?やったぁ~!俺が店長だぁ~」
明日から通常通り仕事だからと、夕飯前に帰ってきた光。
兄さんが留守の間、店長の代行をしないかと光に訊ねたら……目を輝かせて喜んでいた。
……光は想像以上に喜んでいますが、正確には店長代行ですよ?
「何かあったとしても、僕達がしっかりフォローしますから、なので……」
「大丈夫です!蓮斗さんと由樹さんの分まで頑張りま~す!」
……大丈夫でしょうか。
かなり不安がありますが、この意気込みのまま頑張って欲しいですね。
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