第48話 兄弟対決の行方。その7

「……隼斗君、まだ話は終わっていないよ?この対決の敗者は、俺が預かることになったんだよ。だから、勝手に何処かへ行かれると困るんだけど」


はっ……?

今、師匠の弟が俺を預かるって……言ったか?

そう言ったよな??



「桜井龍斗さん、隼斗君をお預かりしても構いませんよね?」


「えぇ、でも良いんですか?」


……ジイサンは、師匠の弟に申し訳無いと言った。

俺は複雑な気持ちで、そのやり取りを黙って見ていた。


「出来の悪い奴ほど、可愛いって言いますよね?それと似たようなもので、隼斗君に愛着が湧きました。俺がちゃんと責任をもって育てますよ。あぁ、勿論……パティシエとしてですけどね」


師匠の弟がジイサンに向けてハハハッと笑うと、今度は俺を見て『君に異論は言わせないよ?』と、ニヤリと笑った。


……逆らうと、師匠より弟の方がコワイかもしれないな。



「あぁ、名乗り忘れたけど……俺は永瀬智哉(ともや)だ。昔は黒の王子って言われてたみたい。だから、呼び方は王子でも智哉さんでも良いよ?『師匠』だけは勘弁な?という訳で、隼斗君……今日からよろしく」


えっ!?

黒の王子……って、昔話題になった超有名な凄腕のパティシエだろ?


まさか……そんな人に俺が預けられる?

いや、身近で働けるなんて凄いじゃないか!




「……隼斗君、大丈夫?」


「は、はい。智哉さん、よろしくお願い致します!」


凄い話しすぎて、頭が真っ白になってしまっていた……。

俺はジイサン……いや、お祖父様と師匠に再び謝罪し、智哉さんと共に店を出ていった。



「ここだけの話、昔……兄さんと比べられてさ辛かった時期があったんだよ。だからさ、隼斗君の気持ちもわかるんだよね。少しの間、この世界から離れちゃったしさ。だからと言って、これからも厳しくいくし、甘やかす気持ちは全くないから……覚悟しておいてよ?」


「……はい」


……知らなかった。

黒王子と呼ばれていたから、チヤホヤされつつもパティシエを楽しんでいたのかと思ってた。


智哉さんも、大変だったんだな……。


こうして、俺は心機一転……1からパティシエの道を進むことになった。


多くの人達を傷つけ、回り道をして……対決も負けてしまったけど、こうなって良かったと思う。

良い師匠達や周りの人達が、俺を見捨てることをしなかったお陰だよな。


今はまだ……顔を出せる立場では無いが、いつか……俺が作った甘いお菓子を持って、アイツと森の中にあるあの店に行きたいと思う。


その前に、アイツには土下座して謝罪もして、許してもらってからか……。

あぁ……その時は、1発殴られる覚悟もしておかなくてはな。

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