第36話 森の喫茶店、存続危機!?その6
「桜井のお祖父様にお祖母様、お久しぶりです」
「あぁ、元気そうだね。さぁ、この子の横に座りなさい」
「ありがとうございます」
もう一人って誰だろう……と、ドキドキしながら見ていた私。
だけど予想もしなかった人物で、いる筈の人がいないなと気付かなかった私も私だけど……。
まさか、さっきの男性の連れの方が永瀬由奈さんだったなんて思いもしなかった。
「やっと全員が揃ったな。さてと、私達がここに来た理由を知りたいだろうから、早速話してやろうか」
「そうですね。皆が待ちくたびれてしまいますし」
そっか、わざわざ蓮斗さん達のお祖父様とお祖母様が来たのだから何か理由がある筈よね。
お祖父様はきゅっと盃のお酒を飲み干すと、蓮斗さんに向かって話し出しました。
「蓮斗、お前に任せた喫茶店……近々閉めようと思う」
お祖父様は、全く迷いも無いという様な真剣な表情だった。
「な、何故……そんな大事なことを急に言うんですか!今まで皆で頑張って来たんです。それなのに、お祖父さんの意見1つでコロコロ変えるなんて、困ります!」
「……そうです、兄さんと僕と剛士さんと陽毅さん光、そして由樹さんで守ってきた大切な喫茶店を閉めるなんて言わないで下さい!」
蓮斗さんと琉斗さんは、お祖父様に向かって激怒していた。
だけどそれに反して……1人、それを楽しそうにあの男性が見ていた。
何が楽しいんだろう?
こんなに大変な状況なのに……。
「兄さん、安心してください。あの店は私が譲り受けますから」
えっ、兄さん……?
じゃ……もしかして、この男性が話に聞いていた蓮斗さんの弟さんって事!?
「隼斗!お前……まさか」
「兄さん、私がお祖父様に頼んだと思っているのですか?ハハハ!面白い冗談ですね。私がそんな酷い男に見えますか?」
……本当に違うのかな?
今だってお祖父様の隣で偉そうに座ってるし、最初に会った時よりかなり悪印象だし。
「蓮斗、これはあの店をお前に託してからずっと……考えていたことだ」
えっ……?
それじゃ、最初から閉めようとしていたって事?
でも、何故このタイミングで言ってきたんだろ……。
「お祖父様、あの店は……お祖父様のものかもしれませんが、俺は皆とあの雰囲気を作り上げてきたし、お客様も憩いの場として来店してくださっている大切な場所でもあるんです。それを無くすだなんて、俺は納得いきません!」
「兄さん、お祖父様が考えて決めた事です。それを、そんな理由で覆す事は出来ないと思います。この辺で諦めて、この場を送別会に変えたらどうですか?」
蓮斗さんは、お祖父様に考えを改めて欲しくて、一生懸命説得してくれている。
だけど、弟の隼斗さんはそれに対して冷酷なのか、それとも冷静なだけなのか……。
どちらにしても、店がどうなろうと関係無いと言う感じにしか受け取れなかった。
「……そんな理由だと!?隼斗にだって、あの店は大切な場所だった筈だ。俺達兄弟が育った場所でもあり、志を1つにして頑張ろうって決めた場所だろ?それを……お前は!」
蓮斗さんが怒りを堪えている。
それと同時に……何故この気持ちが分からないんだと、寂しそうな表情も見せていた。
「フッ……。私には、あの店に特別な思い入れはありませんよ。ただ、兄さんに店を奪われたという嫌な思い出はありますけどね」
隼斗さんに蓮斗さんの思いは通じていない。
ここまで溝が深くなってしまったら、兄弟の絆は元に戻らないのかな……。
「隼斗、蓮斗も……そのくらいで兄弟喧嘩を止めなさい。龍斗さん、私もあの店を閉める事には反対です。どうしても閉めたいとお考えなら、何か条件を付けたらいかがですか?」
「……条件?」
お祖母様は、お祖父様を説得してくれた。
それが……私達の関係を大きく変えてしまう事になるなんて、考えもしなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます