第35話 森の喫茶店、存続危機!?その5
「由樹さん!」
「由樹!」
「由樹さん、お帰りなさい」
部屋の前で、琉斗さん剛士さん陽毅さんの3人が私を待っていてくれた。
光さんは、私達を見て『やっと来た~』って笑ってたけど。
「……ご心配をお掛けしました」
私は心配してくれた皆に、改めて謝罪した。
「本当なら、罰として夕飯抜きにするところだが、今日は特別に許してやる。そろそろ飯の時間だろうから、皆で行くか」
「そうですね、僕もお腹すきましたし。このまま皆で行きましょう」
皆で夕食だなんて、前にやったバーベキュー以来かなぁ。
あの時は、まだ……私が蓮斗さんの事を好きだなんて気付いていなかったのよね。
「由樹、何やってるんだ?ボケッとしてると置いていくぞ」
「あっ、はい!」
回想していたら、この場に蓮斗さんしか残っていなかった。
皆はさっさと行っちゃったのね。
「ほら、手」
「……はい」
ふふっ、蓮斗さんが優しい。
こんなちょっとした事だけなのに、幸せ……。
あぁ……夕飯何が出るんだろ、楽しみ~!
「ここだよな?」
フロントで教えられた部屋、『華龍の間』に来ました。
カチャカチャと配膳する音も聞こえますし、きっとここですね。
「そうですよ、だって廊下まで美味しそうな匂いがしますし」
「判断材料がそこですか……」
琉斗さんは、光さんがクンクンと匂いを嗅いでいる姿を見て苦笑していました。
光さんはそんな事は気にせず、嬉しそうに目の前の襖を開けた。
「えっ……?あっ、し、失礼しました!」
バタン……!
光さんが部屋に入ったのに、急いで部屋を出てきてしまいました。
「おい、光……何やってるんだ?部屋はそっちだろ」
蓮斗さんが急に戻ってきた光さんにぶつかりそうになり、腕でそれを阻止していた。
「そうですよね?ここで良いんですよね?」
「光、もしかして……中で何かありましたか?」
かなり動揺している光さん、驚きすぎて声も出ないみたい。
「……光さん、大丈夫ですか?」
「由樹ちゃん、俺……幻覚見ちゃったかも」
幻覚……?
「光、何を見た?」
蓮斗さんが聞いても、『たぶん気のせいだし』としか答えてくれない。
……一体、何を見たんだろう……?
「蓮斗くん……光くんに聞くより、そこを開けた方が早いと思いますよ」
「そうですね」
剛士さんに言われ、蓮斗さんは静かに襖を開けた。
すると……光さんが驚いた理由がすぐに判明しました。
部屋の中には、豪華な料理の数々と10人分のお膳が並べられていた。
そして、上座には……2人、ちょこんとこちらを向いて座っていました。
「お祖父さん、お祖母さん……あなた達が何故、ここにいるのですか!?」
蓮斗さんの大きな声に驚いて、思わず部屋の外に出てしまった。
「やっぱり……幻じゃ無かった」
光さんが、蓮斗さんの後ろから部屋の中を覗き込んでいる。
ちょっと待って……蓮斗さんがお祖父さんとお祖母さんって言ったよね?
もしかして、蓮斗さんのお見合い話を進展させる為に2人で来たとか!?
……どうしよう。
本当に、蓮斗さんの側を離れる時期がこんなに早く来るなんて思わなかった……。
「由樹さん、大丈夫ですか?」
「……あ、はい。大丈夫です」
クラッと目眩がして、よろけてしまった……。
それを見ていた剛士さんが、私側に来て体を支えてくれた。
『心配しないで』剛士さんがそう言ってくれた。
だけど、私の心は……不安でいっぱいだった。
「お前達、そこに突っ立っていないでこっちに来て座りなさい」
「……はい」
お祖父様が痺れを切らして、私達に声を掛けた。
そう言われても、中の雰囲気がピリピリしていてなかなか動けない。
蓮斗さんが『はぁ……』と溜め息を吐いてから、先頭をきって席に座ると、私達も後に続いてお膳が並べられている席に座った。
席に座ったのはいいが、この緊迫した空気はどうしてくれる?
楽しく皆で夕飯を食べようと思ったのに、ジイサンが来たから台無しだ。
「
「あぁ、そうだな。蓮斗、琉斗、私に遠慮せずに冷めないうちに食べ始めなさい」
お祖母さんがジイサンに言ってくれて良かった。
このままおあずけ状態だったら、空腹で光が暴れだしそうだったからな。
俺は琉斗に目で合図し、号令を掛けるように促した。
「はい。それでは、お言葉に甘えて……いただきます」
「「いただきます」」
それぞれのお膳には、この土地の食材を使った美味しそうな料理が盛られていた。
だけど、私は……上座にいる二人が気になって、味わう事が出来なかった。
「由樹ちゃん、これ美味しいよ!ほら、早く食べないと」
「あっ、はい……」
光さんは、この空気が気にならないらしい……。
美味しそうにぱくぱくと食べ続けていた。
そう言えば、お膳があと2つあるのに誰も座っていないな……。
誰か他に来るのかな?
そう思って顔を上げた時……。
カタン……と部屋の外で音がし、襖がサッと開いた。
「お連れ様がお越しです」
旅館の女将が、お祖父様にそう申し出た。
「すぐに通してくれ」
お祖父様がそう答えると、私達に向かってニッコリと微笑んだのでした。
「失礼します」
その声と共に、お祖父様が待っていたと思われる人物が現れました。
あの人は……さっきの迷子になっていた男性よね?
何故ここに?
「そこに座りなさい」
「はい」
お祖父様は、その男性に隣の空いていた席に座るよう促しました。
男性が部屋に入ってきた時、空気が変わった。
緊張感が増したというか、ピリピリとしているというか……これは、なんなんだろう?
私には、息苦しくも感じた。
「彼女は……来ないのか?」
「いえ、襖の向こうに控えています。こちらの皆さんに気兼ねしている様ですよ」
彼女?
この男性が連れの人って言ってたのは、その人なのかな?
「気にすることはない、入ってもらいなさい」
「わかりました」
男性は立ち上がると襖の向こうに行き、彼女と一緒に部屋に入ってきた。
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