第21話 甘い香りと苦味は、恋の味?その6

カチャ……。


あれ?部屋の中が暗い……。

勇気を振り絞ってドアを開けたのに、どういう事?


「……蓮斗さん、何処ですか?」


声を掛けたのに、返事もない……。

間違いなく、蓮斗さんはこの部屋に入っていったのに。


カチャッ……。


背後でドアの鍵が閉まる音がした。


驚いて振り返ると、腕を掴まれ……勢い良く引っ張られた為、誰かの胸の中に飛び込んでしまった。

しかも、その誰かが飛び込んできた私をギュッと抱き締めたのだった。


一体……何が起こっているの?

それに、私を抱き締めているのは……誰?


ドキドキしながら、顔を上げてみる。

だけど、私より背が高い人みたいで……顔が良く見えない。


「……誰ですか?」


そう言ったけど、何も答えてくれない。

そして、その人は……私を軽々と抱き抱えると、そのまま暗い部屋の中を歩いていた。


……この感覚、前にもあった。

この香りも……覚えがある。


この人は……。


「……あの日、助けてくれて嬉しかったです。そのお陰で私は今、また貴方に会えました」


何故か、私の口からこの言葉が出てきてしまっていた。

彼だと……確信していたから。


「……由樹、俺も同じだ。あの日、ずぶ濡れのお前を見付けて良かった」


私の言葉を聞いて答えた、彼からの言葉。

顔は見えなかったけど、私を見て言ってくれたのが分かった。


「蓮斗さん、私……貴方が好きです。だから、ここに来ました」

「…………」


なんて、大胆な告白をしてしまったのだろう……。

何故かは、自分でも分からない。

言ってしまった後、顔がまるで火のように熱くなっていたから。

蓮斗さんは、私の告白を聞いてどう思っただろう?

私を抱えたまま、微動だにしなくなってしまった。


「あの……蓮斗さん、そろそろ降ろしてもらえませんか?」


私は恥ずかしさのあまり、そう申し出ていた。

だけど、蓮斗さんはまた歩き出して私を何処かにそっと降ろした。

多分……これは、ソファだと思う。


「……そこを動くなよ?そして、目を閉じてろ」


……?


また蓮斗さんが何処かに行ってしまった。

そしてすぐに戻ってきて私を抱えると、膝の上に座らせられた。


「あ、あの……」

「由樹、このままで居てくれ」


蓮斗さん……どうしちゃったの?

今日はこんなに積極的だし、私に何度も触れている。

だけどそれが嫌じゃなくて、むしろもっと触れて欲しくて……。


「由樹、今……明かりをつける。ゆっくり目を開けてみろ」

「は……い」


耳元で聞こえた蓮斗さんの声。

とても心地良い響き……。

私は、うっとり聞き惚れてしまっていた。

そして、言われた通り目を開けると……。


「れ、蓮斗さん!」

「何だ?」


これは……どういう事!?

目の前のテーブルに、美味しそうな料理とワイン……そして、私の隣には大きなクマのぬいぐるみが置いてあった。


「こ、これはどうしたんですか!?」


「由樹、驚いたようだな。これはお前の為に用意した。俺からのサプライズだよ」


え……。

これ、私の為に?

こんな素敵なサプライズなんて……初めて。


「……ありがとうございます。すごく嬉しいです」


あぁ……嬉しすぎて泣きそう。


「由樹……帰らなくて良かったな」

「はいっ!」


私は膝から降りて蓮斗さんと向き合うと、感謝を込めて抱きついた。


「おいっ、俺の理性が崩壊しても知らないぞ?大人しく座ってろ」

「えっ!?あっ、す、すみません……」


理性が……って、そんなつもりは無かったんですけど。

覚悟はしてきたものの……急に崩壊されても困るので、大人しく蓮斗さんの隣に座ってみた。


そして、蓮斗さんの顔をチラリと見てみると……私の心をドキドキさせる様な優しい眼差しで見つめてくれていた。


「由樹、俺もお前が好きだ。本当は、このままお前を俺のものにしたい。だけど、お前が嫌がるような事はしたくない」


あぁ……蓮斗さんは、やっぱり私が思った通り人だった。

私を大切にしてくれる……とても優しい男性なんだ。


「……私、蓮斗さんからの言葉を待っていたんです。私が宗助さんと別れた翌日、行方が分からなくなった私を蓮斗さんが必死に探してくれていましたよね?オーナーの店でお世話になった時に、裏で聞いたんです。私を想っていてくれていたって事を」


今まで隠してきた事を、蓮斗さんに打ち明けた。

これでオーナーも琢磨さんも……これをネタに私を脅せなくなるかもね。



「なっ、お前……!あの時、あの店に居たのか?」


蓮斗さんは溜め息を吐くと、『それなら、その時出てこいよ……』って呟いてた。


「……ごめんなさい。その日以来……ずっと気になってしまって。だけど、何も言ってきてくれないから、あれは聞き間違いだったのかなって思ってしまって」


私は、申し訳無くて……何度も蓮斗さんに謝った。


ソファにもたれて脱力してしまった蓮斗さんは、何故か笑顔だったけど。


「はぁ……もう良いよ。お前からの愛の告白が聞けたから」

「あ、愛……!?」


改めて言われると、すごく恥ずかしいですね。

顔がまた熱くなってきた……。


「由樹、黙っていた罰だ……」


チュッ……。


蓮斗さんはソファから勢い良く起き上がると、私の唇を奪った。

そしてそのまま……ソファに押し倒されてしまった。


深く深く何度もキスをされ、私はそれを受け入れた。その行為がとても気持ちが良くて……蕩けそうになっていた。


「フッ……。由樹、俺を誘っているのか?そんな顔をされると、お前をもっと欲しくなるだろ……」


「……えっ?」


そんな顔って……どんな顔?

私は、蓮斗さんからの甘い行為にボーッとしていただけ……。

私がキョトンとしていると、蓮斗さんは困ったように笑い、私の体を起こしてくれてた。



「さて、せっかく用意したんだから、冷める前に食べるぞ」

「はい」


こうして嬉しいサプライズもあり、私達は相思相愛の仲になりました。


蓮斗さんからのキス……前に一度味わった気がしたのは、内緒にしておこう。

きっと、私が夢で見たのかも知れないしね……。

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