第22話 珍客来襲。その1
「……ただいま」
「お帰りなさ~い!……あれ?由樹ちゃんどうしたんですか?」
キッチンにいた光は、俺達の姿を見ると不思議そうに近寄ってきた。
「見ての通り、飲みすぎて寝ちゃったんだよ。だから、俺が抱えてきた」
アルコールにあまり強くないのに、『甘くて美味しい~!』って言いながらワインボトル1本も飲めば……そりゃ、酔うよな。
まぁ、由樹の可愛い寝顔が見れたから……良しとするか。
「そうだったんだ。由樹ちゃんがそんなになるなんて、珍しいですね~。何かあったんですか?」
おい、そこは聞くなよ……。
コイツは、変な所で勘が働くんだよな。
誰が教えるかっての……。
「光、由樹を部屋に運ぶから。珈琲いれておいてくれ」
「ラジャー!」
俺は由樹を抱えて自分の部屋に入ると、ベッドに寝かせた。
本当は、由樹の部屋に連れていくべきだろうが……部屋の鍵がしまっている。
男所帯に女が一人、念の為に由樹の部屋だけ鍵付きにしたという訳だ。
普通はスペアがあるが、由樹しか鍵を持っていない。
緊急事態が発生したら、俺達の誰かがドアを破壊すればいいしな。
「由樹、俺のベッドだけど寝心地は良い筈。だから、ぐっすり眠れよ」
それにしても、良く寝ているな……。
昨日の疲れか、それともサプライズまでの時間が長すぎたか。
アイツが変なことを吹き込まなければ、誤解することもなかったんだけどな。
まぁ……そのお陰で、俺達は恋仲になれたんだよな。
でも、感謝はしてやらないからな……。
あぁ……なんて可愛いんだ。
ずっと見ていられるな。
それにしても、俺のベッドでスヤスヤと眠るコイツが、俺に抱かれようとしてくれたんだよな?
ずっと恋い焦がれていたせいか、未だに実感がわかない……。
俺は由樹の髪を優しく撫でると、額にキスを落とし……光が待つリビングへと戻っていった。
「蓮斗さん……やっぱり何かあったんですよね?」
「光、その手に持っている珈琲……早く寄越せ」
「……はい」
光は俺が何も答えない事に不服そうだったが、後から怒られるのが嫌なのか、言われた通り珈琲をテーブルに置いた。
帰ってきてから俺をじっと見て何かを探っているようだけど、エスパーじゃ無いんだから分かる訳無いだろ。
お前はずっとリア充なんだから、俺達の事は少し放っておいてくれ。
カチャ……。
「ただいま」
「あっ、琉斗さん。おかえりなさい」
「お帰り。すごい荷物だな……」
光と兄さんが、帰ってきた俺を見て驚いていた。
これでも少なくしてもらったんだけどね。
「うん、お土産持たされた。男所帯だろうしって」
円子さんの家で、夕飯をごちそうになったんだけど……沢山作ったからって、重箱におかずやデザートまで入ってるんだ。
「凄いですね!彼女の家に招待されたなんて」
光、よくそこに気付きましたね。
確かに……俺も驚いたよ、まだ付き合ってもいないしさ。
でも、理由が理由だから……。
「昨日、彼女を助けたお礼だそうです」
「あぁ、なるほどですね」
兄さんは、『何?』って眉間にシワを寄せて睨んできたけど、あれは不可抗力ですし。
結果、良い思いをさせていただけたってだけで。
「もう夜も遅いですし、お皿に移して冷蔵庫にしまっておきますから。明日にでも皆で食べましょう」
「わーい!やった~」
光……その異常な喜び方は、夕飯の支度を免れたからですね?
光は由樹さんより大人なのに、小さい子供みたいです。
「そういえば、由樹さんは?」
兄さんと出掛けたって聞きましたけど……何故、兄さんしかいないんですか?
「あぁ、由樹は……」
「蓮斗さんの部屋で寝てますよ」
……ん?兄さんの?
「兄さん、まさか由樹さ……」
「外で飲んだから酔って寝ただけだ。アイツの部屋は鍵が……だから、俺のベッドに寝かせたんだよ」
兄さん、被せて話してくるなんて珍しいですね……。
その余裕の無い返しが、ますます怪しく思えますけど?
これ以上は詮索しないでおきます。
いずれ……判ることですし。
「そうでしたか。それなら仕方ありませんね」
兄さんは、会話を終わらせたことにホッとしていました。
さてと……。
さっさと着替えて、この沢山のお土産をしまわなくてはいけませんね。
「琉斗、サンキューな」
「……兄さん、大切にしてあげてくださいね」
「あぁ……勿論だ」
部屋へ行こうとした俺に、兄さんは小声でお礼を言うと、浴室へ入っていった。
やはり、兄さんと由樹さんは良い仲になったようです。
ずっと二人の事が心配でしたから、弟としては嬉しいですね。
後々……良い話が聞けそうですし、俺は自分の幸せの為に彼女との時間をもっと増やさなくてはいけませんね。
そして、翌日。
「おはようございます。今日も宜しくお願いします!」
「「はいっ!」」
この蓮斗さんの挨拶と共に、店が始動しました。
あぁ……蓮斗さんと私が恋人同士だなんて、未だに信じられないなぁ。
「おい、由樹……ボーッとしていないで手を動かせ」
「あっ、はい!」
……いけない、うっかり見惚れてた。
今は仕事中なんだから、しっかり集中しないと。
「……お前、何かあったな?」
「えっ?」
陽毅さん、何故それを……?
もしやエスパーですか?
「いや、そんなに驚くな……ただの勘だよ。お前が誰かさんを見てそんな惚けた顔をするなんて、珍しいだろ?いつもはビビってるのに」
……あ。
確かに……そうかも。
怒られるかも!?とか思ってるから、蓮斗さんの反応を気にしてビクッってなる時が多いしね。
「本当に……私、惚けた顔してました?」
ちょっと見ていただけなのに……。
「さぁな。恐い視線感じるから、これで話は終わりな」
「はい」
恐い視線……。
言わなくても、誰の事かは分かります。
私も恐ろしいので、振り返らずに仕事しよう……。
……なんだよあれは。
由樹のやつ、俺というものがありながら陽毅と楽しそうに話しやがって。
「兄さん、顔が恐いですよ?仕事中なんですから、嫉妬している暇はありませんからね」
「……!?」
琉斗が俺を見て溜め息を吐きつつも、クスッと笑ってロビーへ行ってしまった。
俺は嫉妬していたのか……?
想いが通じあったのは嬉しいが、こんな状態だと身がもたないな。
仕事を辞めてもらう訳にもいかないし、どうしたものか……。
「に、兄さん……ちょっと来てもらえますか!?」
「何だ?」
琉斗が慌てて裏に来た。
滅多に動揺する奴じゃ無いからな、何かあったみたいだな。
「良いから、ちょっと……。ほら、あそこ見て下さい」
ん……?
光が案内したらしい老夫婦。
琉斗はメニューを片手に立っていて、その老夫婦を良く見て欲しいと言っているのだが……。
「おい……何故、ここに来ている?」
窓の外を見ていて顔は見えないが、間違いなくあの人達だ。
「知りませんよ!ここに来るなんて、絶対に良いことじゃ無いと思います」
はぁ……。
ここに来たんだから、会わない訳にも行かないしな。
店の営業が終わったら、家の方に呼ぶか。
「取りあえず、琉斗が挨拶をしてこいよ。それで、食事が終わったら家で休むように伝えておいてくれ」
「わかりました」
琉斗は溜め息を吐くとその老夫婦の元へ行き、話をしつつオーダーを聞いてくれた。
……あぁ、頭が痛くなってきた。
今日だけは、時間の流れがゆっくりであって欲しいと願う俺だった。
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