第4話 彼の苦悩。その3

「由樹さん、お疲れ様」

「あっ、剛士さん……お疲れ様です」


そうか、剛士さんも休憩だったんだ。

でも私より先に来ていたらしく、もう食べ終えていてゆっくりとコーヒーを飲んでいた。


「由樹さん、どうぞ座ってください」

「ありがとうございます」


剛士さんの向かい側に私の昼食を置き、その場所に座った。

あまり話す機会がないから、少し緊張するな……。


「お昼、美味しかったですよ。ご馳走さまでした」

「いえ、剛士さんのお口に合って良かったです」


このクラブサンドは、皆に好評みたい。

教えたくれたオーナーに感謝しなくちゃね。


「由樹さんが戻ってきてくれて、本当に良かったです。皆、あまり口に出していませんが、とても喜んでいますよ」

「そうなんですか?そう言っていただけて、私も嬉しいです」


また迷惑を掛けてしまうかと思って、私は一生懸命に仕事をしていただけなのに……。


「あぁ、そう言えば……先程チラッと聞こえたのですが、クラブサンドに使ったソースは、以前バイトしていた時のオーナーに教わったとか言ってましたよね?」

「はい、そうです。そこの洋食屋のオーナーが、実は私の伯父で、その縁もあって……高校の時にバイトとして働かせてもらったんです」


伯父さんは、父のお兄さんで……私のもう一人のお父さんみたいな存在の人。


「そうでしたか。もしかして、そのお店で蓮斗くんと?」

「あっ、はい。蓮斗さんとは、そこで初めて会いました」


あの時の蓮斗さんは、今より恐く感じて……近寄れなかったなぁ。

今は……もっと近寄りたい……って、こんな事本人の目の前では言えないけど。


「ここで会ったのも、何かの縁ですね。そうだ、次の休みにでも、蓮斗くんとそのオーナーを訪ねてはいかがですか?そのソースの許可をもらうには、うちのオーナーである蓮斗くんも一緒の方が、都合が良いと思いますよ」


確かに……。

勤め先のカフェで使うと言っただけでは、伯父さんがすぐに許可してくれるとは限らない。

見知った蓮斗さんと一緒なら、伯父さんが快諾してくれそう。


「剛士さん、ありがとうございます。とても良い考えです!私、蓮斗さんに一緒に行っていただけないか聞いてみます」

「いえいえ。私も、由樹さんの喜ぶ顔が見たいですから。お役に立てて嬉しいです」


お店が終わったら、蓮斗さんに相談してみよう。

予定があって断られたとしても、一人で行けば良いんだし。


「剛士さん、改めて……これからもよろしくお願いします」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。由樹さん、あまり気負わない様に。では、私は先に戻ります」

「はい。私も、もうすぐ戻りますね」


戻ってきた初日に皆に向けて挨拶したけど……こうして改めて挨拶すると、絆が深くなった様な気がした。

さぁ、早く食べ終えて……閉店まであと数時間頑張ろ!



由樹が休憩に行ったのを見送ると、俺はキッチンに入った。

すると陽毅がクスッと笑い、こんな事を言い出した。


「オーナー、少し焦りすぎですよ。まぁ、俺も由樹の事を良いなぁと思っていますが、最初から勝ち目は無いって分かってるので、舞台には上がりません。だから、安心してください」

「はっ?陽毅、お前何を……」


舞台とか、勝ち目が無いとか……何を言い出すんだ。

確かに……以前、俺の由樹に手を出すなとか言ったことはあるが。


「由樹が好きなのは、皆知ってますから。だから、遠慮せずに頑張ってください」

「遠慮って何だよ」


由樹が好きなんだろ?それなら……。


「はいはい、話はこれくらいにしましょう。もうすぐ戻ってきそうだし。由樹に聞かれたら、オーナーも気まずいでしょうしね」


陽毅は言いたい事だけ言って、調理に戻っていった。

急に何なんだよ……。

確かに、俺は由樹が好きだ。

帰ってきてくれて、心から喜んだ。

だが、俺が由樹とだなんて……本当に良いのか?


いや待てよ……。

それ以前に、由樹の気持ちはどうなんだ?

また別の悩みが出来てしまい、頭が痛くなる俺だった……。

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