第79話 スケートダブルデート2

 休日のスケートリンクはそれなりの賑わいを見せていた。

 沖田さんは陽佑と二人でゆっくりながら滑り始めた。

 一方の香月さんはまだペンギンの赤ちゃんみたいな動きで氷の上をよちよちと滑っていた。


「すいません。私のことは放っておいて滑ってくださっていいんですよ」

「いいんだよ。俺は香月さんと一緒にいれば楽しいんだから。滑るのなんて二の次だよ」

「ありがとうございます」


 香月さんは頬を赤くして掴んだ俺の手を握った。

 そんな俺たちを小学生らしき女の子が悠々と抜き去っていく。


「あんな小さい子でも滑れるのに……恥ずかしい」

「子どもの方が飲み込み早いから。転ぶのも恐れないし」

「私も思い切って!」


 香月さんはぐいっと俺の手を引っ張り、勢いをつけてツツーッと滑った。


「きゃあっ! 見てください! 速いです!」

「すごいじゃん、香月さん」


 スーッと隣に寄り添い、背中を支えて押してやる。


「わっ!? あ、危ないですよ!」

「力を抜いて。自然な感じで」

「無理ですっ! きゃあっ!」

「うわっ!?」


 香月さんがバランスを崩し、支えようとした俺も一緒に転倒してしまった。


「大丈夫?」

「腰打ちました。痛い。これはもう、家に帰ったら相当マッサージしてもらわないとです!」

「はは。分かったよ」


 氷の粉を払って一旦ベンチに移動する。

 香月さんはしょんぼりしてリンクを眺めていた。


「運動音痴ですいません」

「そんなに落ち込まないで」


 そんな俺たちの前に一周滑って戻ってきた沖田さんたちがやって来る。


「どうしたの?」

「ちょっと休憩だよ」

「そっか! 私はもうちょっと滑るね!」


 一周回って大分慣れたのか沖田さんは軽くリンクを蹴るように滑っていく。

 陽佑はその後ろを見守るように滑っていた。


「陽佑はやけに心配してたけど、全然問題なさそうだな」

「沖田さんにそれとなく聞いてみたんですが、なんか意識しちゃってぎこちなくなることがあるそうです」

「意識しちゃって?」


 片想いならいざ知らず、何を意識するというのだろう?

 首を傾げると香月さんは恥ずかしそうに首を竦めた。


「ほら、クリスマスが近くなると、なんかこう、特別感とかあるじゃないですか。なんというか、その……聖なる夜というか……」

「?」


 なんのことかよく分からないけど、クリスマスが近いからそわそわしてるということらしい。


「わ、わたしも、その、なんとなくそういう気持ちが、分からなくもなくもないこともないというか、その……特別な日ですし……」

「分からなくもないこともないこともない? え? 何重否定してるの、それ?」


 香月さんにしては妙に回りくどい、理解不能な言い方だ。


「前から思っていたんですけど、相楽くんって超絶に鈍感なのか、恐ろしいほどピュアなんでしょうか?」

「は? いや、そんなことないと思うけどなぁ。ピュアじゃないし勘は鋭い方だと思うよ」

「はぁ、そうですか」


 なぜそんなに深いため息をついているのだろう?

 おかしな香月さんだ。


「と、とにかく心配はないってことです。ああやって仲良くしていたら解決すると思います」

「そっか。ありがとう。香月さん」


 言われてみればもうまもなくクリスマスだ。

 香月さんと初めて過ごすクリスマスとなる。


「あ、そうだ! クリスマスパーティーしようか! 俺たち二人と、陽佑たちも誘って」

「え? なぜいまの話でそういう流れになったんですか?」

「クリスマスを特別なものにしたいんだろ? みんなでパーティーしたら思い出になるんじゃないかなって」

「……そうですね。むしろ相楽さんらしくて清々しいほどピュアなアイデアで、いいと思います」


 香月さんは呆れたように笑って頷いた。



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