第68話 中二病

 翌日も放課後は文化祭の準備に追われていた。


「どこのクラスも気合い入ってるみたいだな。俺たちも負けられねーな」


 陽祐はやけに気合いが入っている。

 お祭りが好きなんだろう。


「勝ち負けじゃないだろ」

「そりゃそうだけどやるからには一番よかったって思われたいじゃん」


 陽祐は他のクラスがどんなものをやるかと熱く語る。


「そういえば二年一組の清家先輩って知ってる?」

「清家先輩って、あの清家葵さんか?」

「知ってるんだ」

「知ってるもなにも有名だろ。すごい美少女なのに変わってるから男子もなかなか近寄れないって」

「へぇ。知らなかった」

「香月さんも近寄りがたい存在って言われてるけど、清家先輩はまた違った意味で近寄りがたいんだって」

「どんな風に?」

「とにかく変わってるんだよ。自分のことをボクとかいうし、授業中へんてこな質問するし、空気読まない発言も多いらしくて」


 確かに一人称は『ボク』だったが、そこまで変わってる印象はなかったので意外だ。


「そんな変わり者だったら結構煙たがられてるの?」

「いや。性格は明るいし、特に害はないし、見た目も可愛いから嫌われたりはしてないらしい。コクる男子もそこそこいるらしいんだけど、ワケわからない理由で断られるらしい」

「ワケわからない理由?」

「なんだか『魂が響き合う輪廻のパートナーじゃない』とか、『漆黒の炎に焼かれる覚悟のないものに私を愛すことはできない』とか」

「えっ……? 清家先輩って中二病なの?」

「そうらしいな」


 あのときは特にそんな様子は感じられなかった。

 きっとあまりのハプニングに頭がパニクって素が出たのだろう。


「なんでまた急に清家先輩のことなんて聞いてきたんだ?」

「この間ちょっと話す機会があってさ」

「へぇ。まああんまり関わらない方がいいと思うよ。香月さんもやきもち焼くし」

「そういうんじゃないから」


 それほど興味もなかったのか、陽祐はワッフル焼き練習の方に行ってしまった。


 下校時間になり、片付けを終えて昇降口に向かう。

 香月さんは衣装作りの生地が足りないということでクラスの女子と買い出しに出掛けたので帰りは一人だ。


「やあ、相楽くん」

「あ、清家先輩」


 ちっちゃな先輩、清家さんがやって来る。


「昨日はありがとう。お陰で助かったよ。君の怪我は大丈夫?」

「もちろんなんともありません」

「それはよかった。これはお礼だよ」


 にっこり笑って紙袋を渡してくる。


「お礼なんていいですよ」

「そんな大したものじゃないよ。手作りのクッキーだから」

「そうですか? じゃあ」

「もちろんこれだけじゃなくて他にも恩返しはするよ」

「これだけで十分ですから。それじゃ」

「あ、待ってよ。一緒に帰ろう!」


 清家先輩がちょこちょことあとをついてくる。

 邪険にするのも失礼なので、仕方なく途中まで一緒に帰ることにした。


「へぇ。相楽くんのクラスはワッフル屋さんか」

「先輩のクラスは何をする予定なんですか?」

「うちは射的屋さんなんだけど、なんかいまいち盛り上がってないんだよねー」

「面白そうですけどね」

「なんかお祭りの屋台みたいじゃない? 男子が決めたわりに、あんまり協力的じゃなくてさー」


 清家先輩は不服そうにブスッとした顔をする。

 制服が大きくてダボットしてるし、背負ってるリュックも大きくて失礼ながらランドセルっぽく見えてしまう。


「相楽くん、なんか今、失礼なこと思わなかった?」

「い、いえ。全然」


 あまりジロジロ見ていたので感づかれたのだろうか?

 勘は鋭いのかもしれない。

 慌てて話題を文化祭の模擬店に戻す。


「射的ってなんの飾りもなくただ台に置いたものを撃って落としたらあげる的なものなんですか?」

「そうだけど? 射的って普通そうなんじゃない? ま、一応夏祭りをイメージした感じだけど」

「もう少し変えてみても面白いかもしれませんよね。西部劇のガンマン風にするとか」

「どういうこと?」

「西部開拓時代のアメリカみたいな雰囲気のセットにして店員もカウボーイとかカントリーガール風の格好したり」

「おー! それ、面白そう!」

「テンガロンハットとかネットなら案外安く買えたりしますし。手作りでもいいですけど」

「そのアイデア、パクっていい?」

「もちろんどうぞ」


 その後も二人でウエスタン風射的屋さんのアイデアを出し合った。

 意外と盛り上がり、あっという間に駅に着いてしまった。


「お礼をするつもりが、なんかまた借りを作ってしまったね」

「借りだなんて。無責任に適当なアイデアを出しただけですから」

「君はなかなか面白い奴だね。それじゃまた!」

「失礼します」


 清家先輩はアイデアの実現のため、そそくさと帰っていった。

 変わった人というのは噂通りだったけど、中二病的な感じはそれほどしなかった。


 家に帰ってからもらった袋を開けると十字架や悪魔的な顔を模したクッキーが入っていた。

 こういうところに中二病が出ているのだろうか?

 でも味はなかなか美味しかった。


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