君だけを愛す
第67話 ごみ捨て場のハプニング
うちのクラスの文化祭の出し物はすぐに『ワッフル店』に決まった。
もちろん吾郷の店の宣伝も兼ねている。
さっそくそのことを報告しにいくと、吾郷は喜んでくれた。
あれほど刺々しかった吾郷だが、今では数年来の親友のようだ。
ちなみに岩見は相変わらず暇を見つけては手伝いにいってるらしい。
吾郷は感謝しているが、あの様子だと好意を向けられていることにさえ気付いてないようだ。
文化祭の準備は放課後を中心に進められている。
ちなみにワッフル店はなぜかメイド&執事というありがちな衣装で行うこととなった。
そのため女子はその衣装を作るのに忙しい。
男子は教室を飾り付ける大道具的な仕事がメインだ。
もちろん部活がある生徒も多いので、人手は足りていない。
このままだと本番近くになったらきっと完成してなくて大騒ぎになるかもしれない。
部活をしてない俺は可能な限り準備に時間を割いていた。
「なかなかいい感じじゃね?」
看板に取り付ける段ボールで作ったワッフルの模型を陽祐は満足げに眺めていた。
「いや、駄目だろ。なんか曲がってるし、升目の大きさがまちまちだ」
「相楽は細かいなぁ」
「陽祐が大雑把過ぎるんだよ」
不服そうに陽祐はワッフルを作り直す。
看板やら飾り付けを作っているとすぐにゴミが溜まってしまう。
そのままだと作業スペースの邪魔になるので集めて袋に入れてごみ捨て場へと持っていくことにした。
文化祭までまだ二週間近くあるが、各クラスとも準備に追われている。
あちこちのクラスから笑い声が聞こえていた。
(なんかいいな、こういうの)
中学の時の文化祭は先生から押し付けられたものをこなす程度のものだった。
それが高校では生徒が自主的に目標を掲げ、それに向かって自分達で組み立てていく。
自由でありながらその責任を果たすというシステムが、なんだか少し大人扱いされてる気がしてワクワクする。
男子と女子が言い争う声も、その奥には親しみや好意が滲んでいて、なんだか青春だなぁとほっこりさせられた。
そう思えるのも香月さんという彼女がいるからこそなのだろう。
なんだか急に香月さんと会いたくなって女子が裁縫をしている家庭科室を覗きにいく。
ここも各クラスの衣装を作っている生徒が集まっていて賑やかだ。
香月さんは縫いかけのメイド服を身体に当ててクラスメイトの意見を聞いていた。
(ちょっと声をかける雰囲気じゃないな)
そのまま立ち去ろうとすると、俺に気付いた香月さんが笑顔で手を振ってきた。
俺もゴミ袋を持ったままの手を振る。
そんなやり取りに気付いたクラスメイトから冷やかされ、香月さんは照れくさそうに笑っていた。
「うわ、これはすごいな……」
ごみ捨て場には既に大量のゴミが積み上げられていた。
どこのクラスも準備でたくさんのゴミが出ているのだろう。
俺の前には小さな身体の女子が、その身の丈に見合っていないゴミ袋を運んでいた。
(え、中学生?)
そう見間違うくらい背が低い。
でもうちは中高一貫校じゃないから中学生などいるはずがない。
彼女はゴミ袋を捨てようとするが、よたよたとして危なっかしい。
(大丈夫かな?)
心配しながら見ていると、ふらふらしながらゴミの山にぶつかってしまった。
「きゃあ!?」
「危ない!」
ゴミの山は不安定だ。ぶつかった衝撃で崩れてきた。下手をすると下敷きになってしまう。
持っていたゴミ袋を捨てて駆け寄った。
崩れてきた段ボールゴミを避けようとしていたが足が縺れて転んでしまっていた。
起き上がらせて逃げる余裕はない。
女の子に覆い被さって落ちてくる段ボールの廃材から守る。
「ぐはっ!」
予想外に固く、背中に激痛が走った。
衝撃で崩れ落ちそうになったがなんとか両手両足で踏ん張る。
「だ、大丈夫!?」
「ああ、なんとか」
ゴミ雪崩が収まり、ひとまず廃材の山から抜け出す。
「わっ!? 怪我してるよ!」
「ん? あー、これくらいかすり傷だし大丈夫」
「大丈夫じゃないよ! ちゃんと手当てしないと!」
女の子は申し訳なさそうに顔を歪める。
身長も低いが顔立ちも幼い。
本当に中学生なんじゃないかと疑いたくなる。
くりくりとした目に少しふっくらとした柔らかそうな頬、白くて綺麗な歯並びの美少女だ。
「ごめんね、ボクのせいで」
「えっ!? あ、いや……そもそもこんなにゴミを積み上げた奴が悪い話だし」
女の子なのに自分のことを『ボク』っていうのか。
小学生ならいるけど、高校生ではかなり珍しい。
「とにかく保健室に行こう!」
「いや、これくらい大丈夫だから」
「じゃあ絆創膏だけ貼るから」
あまり断るのも悪いので従っておく。
可愛らしい見た目だから絆創膏もキャラクターものかと思いきや、意外と普通のものだった。
「ありがとう」
「お礼を言うのはボクの方だから。ありがとう。ボクは二年一組の
「えっ……まさかの先輩!?」
「君の名前は?」
「一年三組の相楽大樹です」
「相楽くんね。ありがとう。このお礼は必ずするから」
「いいですよ、そんなの」
先輩と分かったからすぐに敬語に変える。
「それじゃまたねー!」
「あ、ちょっと……」
清家先輩は手を振りながら駆けていってしまう。
あんな後ろを向いて走って、また転ばないか心配になる。
なんだか危なっかしい人だ。
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