第62話 吾郷の反応
早速チョコレートとトッピングするためのナッツやカラースプレーを買ってくる。
焼き上がったワッフルを湯煎で溶かしたチョコに斜め半分をとぷっと浸け、そこにカラースプレーと砕いたナッツでデコった。
「わぁ、なんか可愛らしいかも!」
「いいねー。美味しそう!」
試作品は確かに可愛らしい。
でもなにか『コレジャナイ感』があった。
「んー。なんか違うんだよなぁ。なんかバレンタインの手作りワッフル感がある」
俺の変わりに告げたのは濱中だった。
しかもその違和感を正体まで言い当ててくれた。
普段からフォトジェニックにこだわった画像を撮っているからセンスに優れているのだろう。
指摘された沖田さんも頷いていた。
「あー、言われてみれば……」
「ワッフルってもっと『どてっ』とした感じでもいいのかもしれないな。その方が美味しそうって伝わりそうな気がする」
デコレーションを施したワッフルを手に取り、眺める。
「一度チョコレートをかけてナッツだけにしてみよう」
「ナッツはピスタチオとかどう? 緑色できれいかもよ」
「あー、いいね、それ」
買ってきたミックスナッツからピスタチオだけを集めた。
それを砕いてチョコをつけたワッフルに乗せてみる。
「お、いい感じかも」
先程のものより華やかさはないが、本格的で美味しそうものに見えた。
「でもちょっと見た目的なインパクトが足りないかな?」
濱中は顎に手を当てて首を捻る。
「じゃあ棒を指してみない? 少し可愛くなるし、持ちやすいし全体を撮影できるよ」
「なるほど。さすが沖田さんです!」
取り敢えず家にあった竹串を指してみる。
「悪くないけど不安定だね」
「それだったらアイスの棒なんてどうでしょうか? 持ちやすいし、可愛いと思うんです」
「ナイスアイデアだよ、香月さん」
冷蔵庫からアイスを取り出し、棒を引き抜いてワッフルに刺す。
「おおー!」
完成したチョコかけワッフルスティックを見て、四人の声が重なる。
ぼてっとした武骨さを持ちながら、アイスの棒を刺したことで可愛らしさがある。
ピスタチオのグリーンも映えていた。
「かなりいいんじゃない?」
「これならインスタ映えしそう!」
「よし、この案で吾郷に提案してみよう」
「ちょっと待ってください」
すぐにでも行こうとした俺たちに待ったをかけたのは香月さんだった。
「どうしたの香月さん?」
「吾郷さんに提案する前にやっておきたいことがあるんです」
────
──
試作品が完成してから三日後。
俺と香月さん、沖田さん、濱中に陽祐を加えた五人で吾郷の店へとやって来ていた。
「なんだよ、お前ら、ぞろぞろと」
「今日は吾郷に提案したいことがあってな」
「岩見から聞いてるよ。てか岩見から会って話だけでも聞いてくれって言われなきゃ追い出すところだけどな」
面倒くさそうに吐き捨てる吾郷のとなりで前掛けエプロンをした岩見が照れくさそうに笑みを浮かべていた。
(へぇ。岩見のやつ、けっこううまいことやってるみたいだな)
無償での手伝いという岩見の申し出を当初吾郷は断ったらしいが、押し掛け女房ならぬ押し掛けバイトで手伝いはじめたらしい。
「洒落た店だな」
「当たり前だ。親父とお袋がインテリアの一つひとつに気を遣った店なんだからな」
「へぇ。それはすごい」
陽祐は感心した様子で年代物のコーヒーメーカーや壁にかかった振り子時計を眺める。
尖った対応の吾郷だが店のことを誉められると相変わらず嬉しそうだ。
「で、なんだよ? こっちは夜の仕込みで忙しいんだよ」
客はいないが暇じゃない。
そんな言い訳みたいに吾郷が苛立つ。
「実はこれを見て欲しくてな」
タッパーに入れたデコレーションした実物のワッフルスティックを見せる。
「なんだ、これ?」
「あたしらが考えた新製品」
「は? そんなこと頼んだ覚えはないけど?」
「どう、可愛くない?」
明らかに不機嫌になる吾郷だが、濱中はまるで気にした様子もない。
図太いのか、鈍感なのか、大したものだ。
その隣で香月さんは不安そうに眉尻を下げている。
「勝手なことをして申し訳ない。でも俺たちも吾郷の役に立ちたかったんだ」
「こんな棒に刺さったおもちゃみたいなワッフルを店で出せるかよ」
「店では出さない。これはテイクアウト専門だ」
「テイクアウト?」
「店の前で売るんだ。作り置きして保温ケースに入れておけば作り置きも出来るから忙しくない時間に出来るだろ」
「……ふぅん」
吾郷は訝しがりながらも手に取って眺める。
おばさんには事前に話してあるのでカウンターの向こうから静かに成り行きを見守ってくれていた。
「吾郷の店のワッフルは美味しい。味がいいんだからあとは食べてもらってよさを知ってもらうことだ」
「売れなければ味をみてもらうことも出来ないだろ?」
「そこはあたしらがインスタとかツイッターとかネットで拡散するし」
「そんなのたかが知れてるんじゃないのか?」
「はあ? ナメんな。あたしらフォロワー多いし!」
濱中は笑いながら吾郷の腕をぱしんっと叩いた。
そのとたん岩見が鋭い目付きになる。
吾郷と岩見の関係性は説明してなかったからちょっとややこしいことになりそうで怖い……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます