第61話 試作品開発会議
俺たち二人だけだとアイデアも出てこないので沖田さんと
濱中は二学期最初の登校日に香月さんが俺を彼氏と紹介した少しギャルっぽい女子だ。
彼女はダンスをしていてある程度フォロワーもいるいわゆるインフルエンサーだ。
「へぇ、吾郷の家って喫茶店だったんだ」
説明を聞いた濱中はスマホで撮影したワッフルや店内の写真を見ていた。
「濱中は吾郷と話とかしてた?」
「入学したばっかの頃少し話しかけたけど近寄るなオーラが凄かったからそれっきりかな」
「私も。ちょっと声かけたけどリアクション悪くてそれ以降は話してないな」
濱中や沖田さんのようなクラスで賑やかな女子でも交流はなかったようだ。
客として店内で会ったとはいえ、岩見はそれなりに気に入られているのかもしれない。
「あー、美味しそう」
「だろ? まあそれは自作のワッフルに適当にデコレーションしただけのものなんだけど」
「そうなの? 意外とセンスあるね」
沖田さんは食い付きがいいが、濱中の方はそれほどでもないようだ。
「濱中はどう思う?」
「うーん……なんて言うか……ありきたり? ワッフルにイチゴとかあんことか、美味しそうっていえばそうだけど。なんか見たことある感じだよね。悪いんだけど」
「いや、いい。そういう率直な意見はありがたい」
「あとはちょっといかつすぎっていうか。店の雰囲気もお洒落でいいとは思うけど、なんていうか可愛くないんだよね」
「可愛いでしょ。お洒落でいいと思うけど?」
沖田さんは不思議そうに首をかしげる。
「いい感じだとは思う。けどなんて言うのかなぁ。あたしらには関係ないって感じがする。うまく言えないけど」
「あー、なるほど。つまり少し堅苦しいというか、大人っぽすぎるみたいなこと? 気軽に行ける感じじゃない的な」
「そうそう! こーゆうお店もいいと思うよ。でもあたしならそんなに行きたいとか思わない。このデコデコ盛ったワッフルもそう。そんなに食べたいとは思わないかなー」
歯に着ぬ着せぬ物言いだが、こういった意見こそありがたかった。
「店は改装できないからこのままとして、新メニューはやはり再考しなきゃだな」
「言いたいこと言った割にはあたしにもどんなのがいいかなんて案はないんだけどさ。ごめんね」
「気にするな。それを考えるために集まってもらってるんだから」
見映えがよくて高級感はいらない。さらに店の営業に負担をかけすぎないものが必要だ。
いくら人気になりそうでも店があまりに負担になるものだと吾郷はやはり中退して店を手伝うとか言いかねないからだ。
「あ、そうか!」
「どうしたの、香月さん?」
「今の樹里さんの言葉を聞いて、最近流行ったスイーツを思い出していたんです。そしたらそのほとんどがテイクアウト可能ってことに気付きました!」
「あー、確かに! タピオカもチーズホットクもテイクアウトが主流だね」
「台湾かき氷なんかは店内が基本だけど、テイクアウト出来るものもあるよ。あと定番のサーティワンも私はむしろテイクアウトしか買ったことないし」
沖田さんも頷きながら同意する。
「ワッフルの見た目や性質でついパンケーキと同じ感覚で考えちゃってたな。テイクアウトの方が気軽だもんな」
「映えるスポットで写真も撮りやすいしね」
「そもそもテイクアウトなら店舗が小さくても問題ないから向いてるかも」
二人で考えるよりも流行に敏感そうな沖田さんと濱中のおかげでアイデアが生まれやすい。
やはりこの二人に相談したのは間違いじゃなかった。
「あ、あたしもひとつ気付いたかも!」
「なに、濱中?」
「タピオカもそうだし、ここ数年で流行ったスイーツって外国のイメージが強いものが多い!」
「あっ……言われてみればそうかもしれませんね! タピオカやかき氷は台湾だし、ホットクは韓国、パンケーキもハワイです」
「ワッフルも本場風にしたらウケるかも!」
「いや、悪いけどそれは違うかもしれない」
盛り上がっているのに水を差すのは申し訳ないが指摘する。
「それらは実際にその国で流行ったものが日本に進出してきた。でもワッフルの本場ベルギーから進出してきたものを売るわけじゃない」
「あー、そっか……なんか下手に寄せると余計ダサいかも」
「せっかくのアイデアなのにごめん」
「んーん。そんなの気にしないし」
「あー! そうだ!」
沖田さんがぽんっと手を叩く。
「どうしました?」
「ベルギーと言ったらチョコレートじゃない? チョコレートでデコレーションしたら? チョコならそんなに高くないし、見映えも可愛いよ!」
「悪くないけど、テイクアウトだと手で持って食べるからチョコが手につかないかな?」
「全体にはかけないの。こう、斜め半分につける感じで」
「あー、それなら持つところにチョコはつかないか」
アイデアが生まれたので早速試作品を作ることとした。
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