第47話 夏の終わりの夜の出来事

「うまくいきましたね!」

「ありがとう、香月さん」

「私は沖田さんの背中をちょんって押しただけです」


 香月さんは含み笑いを浮かべて俺を見上げた。

 夜空が細切れに広がる木立を歩く。

 夏の終わりの夜風は心地よく、俺たちを撫でるように吹いていた。

 香月さんの手を握ると微笑みながら握り返してきた。


「相楽くんの近くにいる人はみんな幸せになれますね」

「大袈裟だな」

「大袈裟なんかじゃないですよ。私はすごく幸せですし、陽祐くんも沖田さんも幸せになれました。それに岩見さんも」

「岩見ってあの香月さんの元同級生の?」


 俺が彼女に何か幸せをもたらした記憶はないので驚いた。


「はい。あれから連絡を取りあってるんです」

「へぇ」


 あんな嫌みを言われても水に流して付き合えるのだから、やはり香月さんは人間が出来ている。


「根気を詰めすぎて勉強ばかりしても駄目なんだって分かってくれたみたいです」

「それは俺のお陰というより香月さんのお陰なんじゃない?」

「いいえ。相楽くんのお陰です。せっかく高校生なんだから恋もしてみたいなって言い始めまして」

「えっ!? マジで? あのお堅そうな岩見が?」


 いきなりの豹変ぶりに驚かされる。

 香月さんに負けて考えが変わったのだろうが、別に恋をしたからって学力が上がるわけではない。

 勉強法のひとつみたいに捉えてないか、ちょっと心配になる。


「なんかもう彼氏作る気満々で、『相楽くんよりカッコいい人探す』って張り切ってました。それは絶対無理って言っておきましたけどね。だって相楽くんは世界一カッコいいから」

「そんなこと言ってくれるの香月さんだけだから」

「私だけじゃ不服ですか?」

「いや。香月さんからだけでいい」

「ふふ……よかったです」


 香月さんは照れ笑いながら肩を寄せてくる。

 ちょっとビクビクしながらその肩に手を回して歩く。


「もう夏も終わりですね」

「ほんと。色んなことある夏だったな」

「私の人生で最も目まぐるしくて楽しい夏でした」


 一つひとつに名前があるのか疑わしいくらいに無数の星が散らばる夜空を見上げて香月さんが呟く。

 月明かりにしっとりと照らされた香月さんは幻想的に美しかった。


 キスしたい。

 でも付き合ってまだ日も浅い。

 そんなにすぐにキスをして不純な目的だと思われても困る。

 でも意外と香月さんも待ってるという可能性もあるかもしれない。


「どうしたんですか?」

「え?」

「さっきからじーっと私の顔見て。なにかついてます?」

「いや、その……かわいいなって思って」

「ふふ。ありがとうございます。でもそんなこと言ってくれるのも相楽くんだけですよ」


 いや、それはないだろう。

 てか可愛すぎる。

 やはり駄目だ。

 キスはもう少しあとにしよう。

 大切にしてあげなくちゃいけない。


「そろそろ戻りましょうか?」

「そうだね。あの二人、そうとう照れまくってたからまともに会話できてなさそうだし」


 踵を返して歩き出すと香月さんから手を繋いできた。

 驚いて顔を見ると香月さんはプイッと首を振る。


「み、見ないでください。恥ずかしいです」

「そう言われると見たくなるんだよね」

「もうっ……」


 小石が敷き詰められた河原は歩きづらい、という言い訳を心の中でしながらゆっくりとテントへと戻る。


 俺たちが戻ると二人はササッと慌てたように離れた。

 なんだかやけに顔が赤い。


「よ、よう、相楽。意外とすぐに帰ってきたんだな」

「陽祐、お前まさかいきなりキス──」

「見て! あれ流れ星じゃない!?」


 俺の言葉を掻き消すように沖田さんが声を張って夜空を指差す。

 その目はオロオロと泳いでいた。


 まさか告白即キスとは……

 普通そうなんだろうか?


「えっ!? どこ? 流れ星どこですか!?」


 必死にキョロキョロと探す無邪気な香月さんを見て思わず頬が緩む。

 人は人。俺たちは俺たちの速度で進んでいけばいい。




────────────────────



これにてこの章は終了です!

次は二学期編です!

運動会に文化祭、そして新キャラクター登場で盛り沢山です。


もちろん付き合い始めた二人の甘々いちゃつきも盛り沢山で胸焼けレベル必至!


これからもよろしくお願いします!



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